13話 次なる戦火へ
「……起きましたか?」
目を覚ますと、俺はあの洞穴ではなく家の自室に横たわっていた。そして枕元には、母の姿がある。
「……何が?」
「あの後、貴方は魔力欠乏で倒れたのですよ。残りの始末はイグニスとルストロがやってくれました」
俺の呟きに、母が答えてくれる。まぁ、概ね予想通りといったところか……。流石に、あの数分で魔力が尽きるとは思ってもみなかった。まだまだ未熟だな……と心の中で思う。
「それと、貴方が戦っていたロイバーは無事に討てていたそうですよ。初陣は貴方の勝利、ですね」
ふふっ、と笑う母。勝てていたならば、良かったが……。
「そういえば、兄さん達は何処に?」
「帰ってきたカリタと話しています。イロン、立てそうですか?」
母に聞かれ、俺は体の感覚を確かめる。少し痛みはあるが、問題なさそうだ。
「はい……父の元へ?」
「えぇ、もし起きたならば来てくれとの事です」
そういう事なので、俺は立ち上がって部屋を出て行こうとする。だが、その前に状況説明で有耶無耶になっていた言葉を母に言う。
「母様……ありがとうございます」
「ふふっ、大丈夫ですよ。貴方の為になれたならば良かったです」
「来たか、イロン」
父が話している応接間は、いつになく神妙な雰囲気だった。これは、かなりの異常事態のようだ。
「はい、父様。何があったのですか?」
「あぁ、実はな……隣領のライヒから、完全に連絡が途絶えた」
父から放たれた言葉は、想像の数倍深刻な事態だった。
「連絡が……?」
「どうやら、使者も一切帰ってきていないらしい。かなりまずいぞ、これは」
父が真面目な顔で言う。確かに、早急に対処する必要だってあるだろう。
「して、どうするのでしょうか?」
「まずはお前達三人に、偵察に向かってもらう。何、あそこに然程の強者はいなかったさ。それに偵察さえできれば良いのだ、無理に解決はしなくても良い」
それならば、確かに安全だろうが……父はどうするのだろうか。
「それと、私は軍を揃えて攻め入る準備をしておく。お前達の報告次第ですぐに動く」
なるほど……それでこの人選か。これで、疑問は無くなった。
「……はい、分かりました。異論はありません」
「よし。それでは明後日にでも向かってくれるか?」
こうして俺達は、新たなる戦火へと身を投じる事となる……。
「はぁ……退屈だわ」
場面は変わって、ライヒ領。そこでは、一人の少女が優雅に紅茶を嗜んでいた。
その少女の容姿は、百人中百人が二度見するような美貌を持ち合わせていた。燃えるような紅蓮の長髪。些か幼さを感じさせるような愛らしい顔立ち。そして過剰なまでにフリルがあしらわれた白黒のドレス。どれを取っても、完璧であることに変わりはない。ただ……。
彼女の瞳には、心を感じられないのだ。ボーッと前を見続けるその眼はただただ昏く、喜怒哀楽のどれも見出す事はできない。
「お嬢様、恐れながら申し上げます。今、再びこちらに向かってくる集団を発見いたしました。どうしましょう?」
そんな彼女のいる部屋に、一人の男が入ってくる。彼は赤髪の少女と比べて、見劣りするような容姿だ。特に良いところも悪いところもない、至って普通の顔立ち。そんな彼の瞳には、少女に対する絶対的な忠誠心という物が宿っていた。
「どうするもこうするも無いわ。今まで通り、ここに入って来てから
「畏まりました。では、閂は外しておきます」
そう言って、男は部屋を後にする。もはや、幾度となく交わしたやりとりだ。
「はぁ……訳を話したところで、こんな状況じゃ私が疑われるだけよね」
少女がそんな事を呟く。彼女が何か悪事を働いた訳ではないが、この状況であればそう疑われる可能性が高い。なにせ……。
「
「あそこか……」
あの話をされて三日後。俺達は、ライヒ領の町が肉眼で見えるほどの距離にいた。
「確かに、あれは何かありそうだ……」
パッと見では、単なる町並みだ。しかし、視覚以外の感覚が違和感を告げている。
「
これは、かなりとんでもない事態が起きていそうだ……。
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