12話 鋼の操者
「なんだ……?何をしているんだ?貴様の本気は拳での戦闘なのか?」
「さぁな……直ぐに分かる」
俺は再び間合いを詰めていき……その道中で、両手の内に片手剣を生み出して握る。
「なッ……?その剣、どこから……?」
驚きつつも、ロイバーもまた間合いを詰めて攻撃を仕掛けてくる。今度は俺も消極的な動きではなく、もっと能動的に……半ば無理矢理にも見える攻勢を見せる。
「急に動きが変わった……?まぁ良い、動きは無駄だらけだ。そのような杜撰な動きならば、容易く討ち取れよう」
そう呟き、こちらの一瞬の隙を突いて首を狙った一閃を放つ。どう足掻いても、間に合いそうにないタイミングだ。先程までの俺であれば、ここで無様に屍を晒した事だろう。だが……今は違う。
「甘いな」
俺は手に持っている剣、その片方の刃渡りを……尋常ならざる長さに、引き伸ばす。そしてその伸びた刃を以って、ロイバーの一撃を受け流して見せた。
「なんだと……?」
「まだまだ、驚くには早いぞ」
呆然とした様子のロイバーの首に、伸ばしていない方の剣で斬り付ける。彼は受ける事が出来ず、後ろに下がる事でそれを躱した。
「悪手だな」
俺はそんなロイバーに向けて、手に持った二本の剣を投擲する。
「くッ⁉︎」
これには彼も虚を突かれ、防ぐ時に体勢が若干崩れてしまう。
次は、両手にメイスを一本ずつ作る。そして二周ほど手首で回して遠心力をつけると、立て続けにそれらをも投擲した。
「なんだ……何をしている!」
それらをなんとか受け切ったロイバーに、俺は新たに生み出したハルバードを持って接近する。
「糞ッ!」
ロイバーもまた、かなり攻め気の強い動きに変わっていく。こちらの隙を見つけては、強欲に一撃を入れようとしてくる。
俺はそれに対し、ハルバードから太刀へ、太刀から双剣へ……と、代わる代わる武器を入れ替えていきながら応戦する。こうする事で、間合いを計らせずにこちらの優位を取る。
「えぇい、煩わしいッ!」
感情に任せ、強引に振るった横薙ぎの一閃。俺はそれを屈んで躱し、その時何も持っていなかった左手に剣を生み出して斬り付ける。
「ぐッ……」
それが致命傷になる事こそなかったが、腹部を掠めて初めてロイバーに流血を強いる。
「はぁ……はぁ……なんだ、こいつは……!」
ここに来て初めて、ロイバーから間合いを詰めて斬りかかってくる。俺はそれに、片手剣を一本のみ作って応戦する。そして数合打ち合った後、俺は回し蹴りを放つ。
「はッ……それは甘い手だったな」
それに対し、彼は剣を軌道に割り込ませる事で応じる。このまま行けば、自らが乗せた勢いで足が切り落とされる……が、まさかそんな愚を犯す訳がない。
俺は脚が剣に触れる直前、全体を金属で覆う。結果として、彼にとっては見当違いの金属音を立ててお互いが均衡した。
「は……?」
俺は纏った金属を消しながら脚を引いて屈み、立ち上がる勢いで一気に攻勢を仕掛ける。そして再び数合、打ち合い……。
「らああぁぁッ!」
奇声を上げながら振るわれるロイバーの一閃に、俺はある
その異変の正体は、後にロイバーが知る事となる。
「何故だ……何故、離れん!」
そう……彼の剣は、俺の剣に吸い寄せられるようにして張り付いていたのだ。
あの模擬戦の時、父の言った"作れる金属は、一種類だけなのか"という問い。あれに答えるべく俺が検証した結果、衝撃の事実を知る事となる。
ーーこのスキルは、現実では有り得ない金属を作る事ができる。
例えば、鬱陶しさすら感じる粘着性を持った金属。例えば、驚く程良く跳ねる弾性を持った金属。そしてーーいかなる金属にも強固に張り付く、磁力を持ち合わせた金属。
俺が利用したのは、詰まる所これだけだ。剣に磁力を持たせ、それによって動きを封じた。それだけではあるが……それだけだからこそ、読まれずにこうして嵌める事が出来た策だ。
「く、糞が……」
流石にずっとこうしていれば振り解かれるだろうが、むざむざと立っている訳でもない。
「最後まで、試金石になって貰うぞ……これで、終わりだ」
俺は空いている手に槍を作り、それを地面に突き刺す。そして、この先頭に終止符を打つ魔術を行使する。
「……『鋼ノ薔薇』」
それと同時に、俺の周囲を囲うように鋭い白銀の棘が迫り出してくる。それはまるで戦場に咲き誇る、一輪の薔薇のようで。
この魔術は何か地面に突き刺した金属を通じて地下に金属を張り巡らせ、そこから大量の金属の棘を生み出す魔術だ。隙が大きい上に魔力の消費もかなりの量だが、その分威力は絶大だ。
それがロイバーの身体を何十ヶ所という規模で貫いていき、銀色に輝いていた薔薇を紅く染めていく。その紅蓮が、この戦闘における俺の勝利を告げていた。
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