11話 首領との遭遇
「イロン、いつの間にこんな強くなってたの……?」
俺が戻ると、イグニスが茫然としたような声音でそう聞いて来る。
「父様と何百って回数打ち合ってたからね。あの程度なら訳ないよ」
実の所、本気を出せば三秒で一掃できる相手ではあった。しかし、魔力は出来る限り温存しておきたいという理由でかなり手を抜いていた。
「うっわぁ……正直、相手になる気がしない」
「うん、僕も一瞬で止め刺されそう」
兄二人がボソッと呟く。流石にそこまでではないだろう……とも思う。
「取り敢えず、先に進まない?」
「……だね」
「これ、僕達の仕事あるのかなぁ……」
兄二人のやる気はかなり無くなっているようにも見えたが、ともかく今は早く先に進もう。俺は自らにそう言い聞かせ、先へと進んでいくのだった。
「ぐわぁッ⁉︎」
新手の敵の心臓を一突きし、もはや何度目かも分からない交戦を終える。
「ふぅ……数だけはやたらと多い」
「そうだね……一向に減る気配がない」
今までに百は殺してきた筈だというのに、新手はどんどん湧いて来る。まるで底が見えない。
「とにかく、先に進もうか。頭を叩けばすぐに終わるかもしれないし」
こうした盗賊達は、頭の強さを信頼しているからこそ強気でいられる。だからこそ、頭が死ねば容易く敵は降参するーーというのは、先程兄に教わった。
そうして交戦を挟みながら先に進んでいき、やがて最奥と思しき広い空間が見えて来る。
「おっ……」
「これは、多分いるね」
まだ一歩も踏み入ってすらいないというのにひしひしと感じる威圧感。これは間違いなく、いる。
「ふぅ……行こう」
俺は太刀を脇に構えながら、ゆっくりと先へと歩を進める。
最奥の空間は道中と比べて広々としていて、篝火の数が多い為に明るい。
「ん?なんだ、貴様ら……」
そこの中央に鎮座する大男。腕や顔、脚など見える部分にはびっしりと古傷があり、恐らくは服の下もそうなっているであろう事が窺える。そしてその男の脇には使い込まれた剣と盾が置いてあり、歴戦の猛者の雰囲気をひしひしと漂わせている。
「くっ……」
「間違いない……あれは、強いね」
「で?どいつから来るんだ?俺は一向に構わないが……別に、三人同時でも良いぞ。後ろの奴らの相手も並行して出来るなら、だが」
男が挑発的な笑みを浮かべる。すると背後に、百はあるであろう気配を感じる。焦燥感に駆られつつ振り返ると、そこには案の定と言うべきか大量の盗賊が現れていた。
「挟まれたか……」
「……イロン、あいつを抑えられる?」
イグニス兄さんがそう聞いてくる。俺はそれに対して"そんな事、問われるまでもなく分かっている"と言う意味を込めて頷いた。
「……じゃ、頼むよ」
そう言い残し、イグニス兄さんはルストロ兄さんと共に振り返って新手と相対した。
「まずはお前か。若造、名は」
「……イロン=ホプリソマだ」
「ホプリソマ、か。覚えたぞ。さて、俺も聞いたからには名乗らねばなるまい。
俺の名はロイバー。姓は棄てた。覚えておけ、これがお前の生涯に引導を渡す者の名だ」
圧倒的な威圧感を以って男……ロイバーが名乗る。俺はそれに気圧されぬように、負けじと言葉を紡ぐ。
「あぁ、憶えておこう……俺の、次に挙げる武勲としてな」
そう宣言すると、俺は体勢を低くして一気に距離を詰める。狙うは盾も剣もなく、無防備に晒された脚。そこに向けて、一気に太刀を振り抜こうとするも……それは、ロイバーが軽く脚を動かすことで躱される。
「狙いが露骨すぎるな」
そのまま、無防備な背中を狙って上から剣が振り下ろされる。俺は前のめりの体勢のまま彼の横を駆け抜けて躱し、反撃とばかりに起き上がりながら首を狙って太刀を横に薙いだ。
「ふん。動きは悪くない」
しかしそれは、容易く盾によって防がれる。
「だが、それだけだ。絶対的な力などは持ち合わせていない、凡俗な力だ」
そう言い、今度は剣で刺突を放ってくる。受け流す事は出来そうにない。止むを得ずに俺は体を退け反らせて下がり、それをギリギリで躱す。
「ふッ……」
ロイバーの挑発には一切乗らずに、再び攻撃を仕掛ける。今度は真っ向から、上段に振りかぶっての振り下ろし。しかしそれは、容易く盾に弾かれる。ここまでは、想定通りだ。俺はこれを見越して、敢えて直前に力を抜いていた。結果的に、俺の太刀は容易く衝撃に流される。
「ん……?」
ロイバーもそれを見て、訝しげに思ったようだ。
「……そこだ」
俺の太刀を見当違いの方向に誘導している力の流れ。それを制御し、方向を変えてロイバーの腹部に向けて振り下ろした。
「ほう……」
ロイバーは感心したような声を上げ……容易く、その一閃をも防いでみせる。
「良いな……面白い、面白いぞ。貴様は中々に歯応えがある」
そう言って、彼が横薙ぎに剣を振るってくる。俺は斬撃を防がれた不安定な体勢。このままでは死ぬ……そう直感し、思い切り後ろに向けて跳躍する。あまり足が地面に付かない状況は作りたくないが……死なない為には、これも仕方のない事だろう。
つい先程まで俺がいた所を、凄まじい速度で剣が通り過ぎていく。それと同時に、頬に燃えるような痛みを感じる。遅れて、首筋まで伝う生暖かい液体の感触も。
ーー斬られた。このままでは、いつしか限界が来て負ける……そう確信した俺は、ここで覚悟を決める。
全身全霊を以って、こいつを討つ。
「あぁ……もう、止めだ」
俺は着地時に屈めていた身体をゆっくりと起こす。
「なんだ……?まさか、諦めたのか?」
「いや?寧ろ、その逆だ……もう出し惜しみはしない。ここで、全力を出すとしようかーー」
そう言い、俺は手に持った太刀を投げ捨てた。
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