9話 試行の末に


一年後。


かなり魔術の精度は洗練され、使用する魔力も減ってきた。素の魔力量も上がり、かなりの量の魔術を行使しても問題無いくらいの魔力を得ていた。


「次は、より実用的な魔術を作ろうか」


武器をただ作るだけでは、超越者を相手するには物足りない。より多くの技を身につけるべきだろう。


「まずは、遠距離に……思いつく限りじゃ、投げるとか?」


投擲武器はかなり強力だが、その一方で大きな弱点を孕んでいる。それは「武器を失う」という事だ。しかし、新たにいくらでも武器を作れるならその弱点は無いようなものだ。


「投擲武器も練習はしてるし……一先ずは、槍かな」


槍は狙いが定めやすく、かなり扱い易い投擲武器だ。最初に試行するにはかなり良い武器だろう。


「『金属生成』」


パッと右手を開いてそこに槍を作り、落ちる前にそれを握る。これもまた、一年の間で身につけた技術だ。


「ふぅ……」


俺は先に用意しておいた的に向けてそれを投擲する。槍は見事に的の中央を貫いた。


「うん、これなら実用的だね。他は、投げれそうなのはあるかな……」


そうして俺は、投げるのに向いていそうな武器を片っ端から生み出していく。そしてそれらを順に投げ、良さそうな物を選んでいく。


「良さそうなのはこれかな」


その結果として、投擲に向いていたのはメイスだ。くるくると回して遠心力を乗せると、それなりの速度で投げる事ができる。それに精度も良く、形も簡素なのでかなり実用性があると言えるだろう。


「これなら、間合いの対応もしやすいしね」


投げ槍では近づかれた時の対処が危うく、距離を離す立ち回りを意識せねばならない。はっきり言って、かなり致命的だ。その反面、メイスはその短さ故にかなり内の間合いで戦う武器だ。そして投擲で遠距離も対応できる為、かなり扱い易いと言える。


「他に実用的な戦術といえば……蹴り、とか?」


腕で得物を持つ分、下半身はガラ空きになる事が多い。その隙をつけるのが、蹴りだ。と言っても、中々殺傷力というのは望めない。精々が、相手を怯ませるだけだ。その隙も、足を戻している間で帳消しだ。


「でも、これなら……」


そう、俺は能力で金属を生み出せる。つまり、足に金属を纏わせればかなりの威力が期待できるという事だ。


「まずは、試してみるかな」


足を上げ、金属を纏わせてから蹴りを放つ。しかし金属の重みがあり、少し足が下がってしまう。


「うーん……蹴りの途中で纏わせる?」


そう考えて、金属を一旦消す。金属を消す、という動作が出来るというのも俺が一年の間で気づいた効果だ。これのお陰で、嵩張ったりという事が無くなっている。


「ふッ!」


今度は蹴りの途中で金属を纏わせる。今度は、足がブレることは無かった。


「なるほどね……これなら良さそうだ」


これもまた、実戦に取り入れられそうだ。


「でも、まだ蹴りには色々とある気がするなぁ……」


直感ではあるが、蹴りを実戦に取り入れる手段はまだある……そんな予感がする。


「……踵落とし?」


普通であれば、そんな物剣で受けられて終わりだろう。そしてそれは、足が切り落とされる事も意味する。そんなリスクは流石に背負えない。しかし、足を守る手段があるのであれば別だ。足に金属を纏わせる事で、その重みを乗せて威力の上がった蹴りを放つ事だって可能だ。


「試してみるか……ふぅッ」


足を上げ、金属を纏わせてから振り下ろす。自分でも驚くほどの勢いがつき、俺は勢い余って地面に足を叩きつけてしまう。


「おっと……これは、制御が難しいかもだね」


しかし、ここぞと言う時であればこれは有効だ。威力も、相手の頭蓋を叩き割れるくらいはありそうだ。


「よし、これも採用っと……後は、反復だね」




三年後。


「ふぅッ……!」


俺が投擲したメイスを父が盾で受ける。そして父はすぐに攻撃に移ろうとしたが……その時には、俺は新たに作った太刀を握って肉薄している。父は俺の斬撃を盾ではなく、もう片方の手に持った剣で受ける。


「くッ……」


俺と父が何をしているのかと言えば、模擬戦だ。それもこちらはスキルを使用しての、だ。こうして、実戦の勘という物を掴む。


「次は……こう!」


片手で太刀を握り、父の剣を抑えたままもう片方の手に短刀を作って突き出す。


「ほう!」


父は感心したような声を上げながら大きく後ろに下がる。そこに、俺は短刀を投擲した。


「やれやれ、休む暇もないな」


父はそれも盾で弾き飛ばしながらこちらに間合いを詰めてくる。やはり父は強い。スキルを連続で使用している俺に対して、剣と盾だけで相対しているというのだから。


「でも……これだけハンデを貰ったなら、勝たなきゃ失礼だよね」


今度は太刀をハルバードに変形させ、下段に構えて牽制する。こうする事で、間合いに入らせない狙いだ。


「大分洗練されてきたな、イロン」


父がそう褒め称えながら、更に近づいてくる。俺はハルバードを中段に構え直し、牽制の圧を強める。しかし、そこで父は不敵に微笑む。


「それは、悪手だぞ?」


あろう事か、父はそれを容易く盾で弾いてしまったのだ。あまりの速度に、反応する事すら敵わない。しかし、それでも……俺の攻勢は終わらない。


「そこまでは、読んでるよ」


俺は弾かれた勢いのまま、左手をハルバードから離す。そのまま、右手ごとハルバードは背中の方へと流れていくが……だからこそ、良い。


「むッ……!」


俺は左手に剣を作ると、後ろに向かう力を活かし、半身になって剣を振り下ろす。この土壇場での、勢いの乗った一閃。そして父の盾は、弾いた時の体勢のまま見当違いの方向を向いている。こればかりは、父も反応できなかった。


俺の剣に弾かれた父の剣がくるくると宙を舞い、地面に落ちる。そうして盾だけとなった父の喉元に、剣を突きつけた。


「俺の、勝ちです」


「ふぅ……やれやれ、スキルを使っているイロンにはとても敵わないな」


父は汗を拭いながらそう言う。


「イロン。金属を作る……それだけの能力で、良くそこまで力を付けたな。はっきり言って、そんな事滅多に出来る物ではない」


父が優しく微笑みながら俺の頭を撫でてくる。


「だが、まだ未熟な点はあるな。特に最後、あれは読まれれば終わりだぞ?そこは気をつけるべきだ」


父の言う事は最もだ。しかし、この能力における超越者への勝ち筋は"虚を突く"という事だ。相手を翻弄し、惑わせ……そこで能力を駆使した博打を打って仕留める。純粋な膂力等で相手に勝る可能性が低い分、必然的に勝利には博打が必要となる。と言っても、博打未満の戦闘で討ち取れるのであればそれに越した事は無いだろう。


「なるほど……分かりました、父様」


「これからも精進しなさい、イロン。ところで、前から気になっていたのだが……そのスキルで作れる金属は、一種類だけなのか?」


「一種類だけ……?」


父のこの発言は、今後俺の戦術により深みを出してくれる事となる。

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