7話 その神託は吉か禍か
母の話が終わり、俺は今度こそ神殿に向かう。どういう訳か、"10歳になった時"ではなく"10歳になった日に神殿に行った時"にスキルが授けられる事となっている。いるのか分からない神も、みだりに干渉はしたくないという事だろうか。
「えっと……ここで、合ってるよね」
数十分ほど歩いて辿り着いた神殿。その造りは、圧巻の一語に尽きる。まず、サイズが大きい。俺が今まで見た一番大きな建物である家の屋敷すら遥かに凌駕する巨大な建造物。それに柱の一本に至るまで細かな意匠が施され、建物全体が一つの芸術品であるかと見紛う程だ。
「……よし、行こう」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせてから、神殿内部へと入る。そこには法衣を着た女性が数人居た。この人達に話しかければ良いのだろうか。
「すみません、今日がスキルを授かる日なのですが」
すると女性が納得したように頷き、俺を案内してくれる。
「でしたら、こちらへどうぞ」
俺も最近になって知ったのだが、これらの神殿などは全てとある宗教国家が運営しているらしい。その国が、他国にまで援助を回しているというのだ。
「でも、目標の為にははっきり言って邪魔でしかないんだよな……」
実の所、超越者が絶対という思想を広めたのは他でもない彼等だ。そうなると、必然的に俺の敵となるがーー。
「ここです。ここで、神託をお待ちになってください」
ーーそんな事を考えているうちに、目的地まで着いたようだ。女性が案内を終え、持ち場へと戻っていく。そこには、俺一人だけが残された。
「ここが……」
そこは、他と比べても特に綺麗にされている部屋だった。中央には大きな祭壇があり、それがこの部屋に神聖な雰囲気を醸し出している。
「……ふぅ」
特にする事もないので何もせず、ひたすら待っていると……。
(来たか、新たなる命よ)
突如、脳内に聞き覚えのない男の声が聞こえる。その威厳に溢れた声音は外部からではなく、自らの脳内に直接響くような……そんな気味の悪い感覚を覚える。
ーー来た。そして男の声は、続いて言葉を紡ぐ。
(汝は、力を欲するか?)
そんな物、答えるまでもないだろう。欲するからこそ、俺は今この場にいる。
(まぁ、聞くまでもないがな。それでは汝に、我が権能の一部を与えるとしようーー)
少しの間神託の声が止まり……。
(汝に与えるのは『金属操作』の異能。鋼を生み、操り、その先に力を見出せーー)
そうして、神託の声は消えていく。授かったスキルは……どうも、使い方が思い浮かばない。いや、しかし神託は「力を見出せ」と言った。恐らく、これもまた矛になるスキルではあるのだろう。
「……取り敢えず、帰ろうかな」
少しだけ落ち込みつつ、俺は帰路に着いた。
「おぉお帰り、イロン。どうだったか?」
家に帰ってすぐ、父が俺に聞いてくる。
「『金属操作』ってスキルでした」
「金属操作……?その能力は、名前通りだとすれば悪くは無いかと思うが……」
父が顎に手を当て、思案しながら答える。ひとまず、ここは安心しても良いのだろうか……。
「まぁなんにせよ、使ってみないと分からんな。とは言っても今日は精神的にかなり疲れているだろう。明日にでも、試してみなさい」
父が優しげに言う。俺は言われた通り、今日はもうゆっくりと休む事にした。
ーーそれにしても、金属操作。どんなスキルなのだろうか。期待と不安の中、俺は自室へと歩いていった。
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