第17話 302号室でパーリーナイト -3
「待った待った待った。質問したいのはこっちなんだって。だってお前さんの歓迎会なんだし。――そうだ、
以前――つまり行き倒れているのを拾った時――にも適当に濁されたわけだし、彼が裏の世界という、僕が思うところの血みどろ系の仕事をしているのなら、率先して語ることでもないのは分かる。
それを追求しようとした僕を
当然なんだけども。
僕としては何事も僕の思い通りにならないこの状況にちょっとイラついていたりして、ついムッとしてしまう。それでも僕は身の安全のために、なんとも言い難い微妙な気分を残して、しぶしぶ上体をもとに戻す。
彼らの観察はもはや失敗したも同然だ。
僕はおとなしく諦めて、それから首を
彼らの質問に答えれば、それなりに分かることもあるかもしれないしな。
で、なんだって? 毒島さん?
「どうって……」
改めて暗丘さんの質問の内容を考えてみて、僕は眉を寄せる。
どうと言われても……。
別にどうもしないのだが。
相変わらず毒リンゴらしきものを毎朝のようにおすすめされ、時々部屋を訪ねて来るが、僕も相変わらず断っているし、バイト先に遊びにくることもいまだにあるが、それ以外は特に状況は変わっていない。
だから
わかっていることは、彼女から何かを受け取るのも、一緒に食事を取るのも危険だということ。
今回だって、もし彼女がいたら辞退するつもりだった。
といっても、僕の部屋でパーティーをしている時点で断りようもないので、彼女が呼ばれていないことが幸いだ。
そもそも、毒島さんが毒殺魔という情報は暗丘さんから聞いた話だ。つまり暗丘さんは毒島さんが毒を使うということを知っているわけで、僕より彼女のことを知っているのではないだろうか。
結局僕は「どう」と聞かれても何も答えられない。
「別にどうもないですけど」
「なんか頻繁に会っているらしいじゃないの」
と、暗丘さんは言う。
それどこの情報だよ。と僕は内心でツッコミを入れつつ、そこまで頻繁でもないはず。と彼女と会ったときのことを思い出す。
まあ、一番このアパートの住人の中では会っているが……。
「別に、毒島さんと仲いいわけじゃないですよ。ただお隣なので、それなりに交流はあります。それだけだと思いますよ。そういう皆さんは?」
「ねーな」
真っ先に答えたのは暗丘さんだ。
「毒島ちゃん俺の部屋にはリンゴ持って来なかったし、その後もあんまり会わないしな……。隣だからって会うかね」
ニヤニヤと見つめられる。
この視線に覚えがあるなあと思って、不意に僕は彼女と会うバイト先の同僚や店長にされる表情を思い出した。それから大学の友達の表情。
そう、なぜか毒島さんに僕は大学まで特定されてしまっている。
きっかけは、一度下校する姿を見られていたことらしい。
別に隠しているわけでもないけれど、とにかく、大学を特定した彼女は、よく大学にやってくる。
はじめは本当に驚いた。
というかドン引きという感じだった。
まさか大学までストーカーしにくるとは。毒島さんは女子高生だから、大学にいてもおかしくはないから、何でいるのとも言い難かった。
何度も大学で遭遇するうちに、いつのまにか結局一緒に下校したりすることすらある状態だ。
それを大学の友人たちに見られて以来、妙な勘繰りをされてる。
その疑うような面白がるような視線に、暗丘さんの視線は似ている。
学校の人たちみたいに、僕と彼女の間に男女の何かしらがあるとでも思っているのだろうか。
というより、あったら面白いって顔をしている。
「たまたま遭遇することが多いだけです」
僕は不機嫌を隠さずに答える。
実際には、二人でいるときの会話はどうにも噛み合わないので、残念ながら恋人どころか友達とさえ言えない。
仮に仲がいいと主張するなら、それは僕ではなく毒島さんがそう思っている可能性があるということくらいだ。確証があるわけではないのだが、彼女からは親しみを持たれているような気がする。残念ながら現在それを確認するためには、隣の部屋に突撃しなければならない。
僕的にはそこまで仲良くない。
彼女が僕の部屋にひょっこりやってくるのとは別の話だ。
「それだけかよ」
と言ったのは進士くんだ。
顔におもしろくない。とかいてある。
「あとは、ゴミ捨て場で会うけど」
「俺会ったことないけど?」
答えたのは進士くん。
僕は苦笑いを返す。
このいかにも夜型っぽい人間たちが朝まともにゴミを出ししている姿を想像できない。
そして実際に見たこともない。
朝にゴミ出ししていなければ会えないのも当然。
そういう意味では、毒島さんはしっかりゴミ出しの時間を守っているということで、出すゴミの曜日は間違っていても、この人たちよりはマシかもしれない。
「ちゃんと朝ゴミ出してないと、会えないかもね」
「はあ? 朝とか寝てるから無理だろ」
だからそれがだめなんだって。
と、堂々と文句を言う進士くんに内心でつっこみをいれる。
「でもあいつが頭おかしいのは知ってる」
と続けて進士くんが言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます