第16話 302号室でパーリーナイト -2
歓迎会がその日のうちに行われるとは思っていなかった。
そしてそれが僕の部屋で行われるということも、もちろん聞いてない。
さらに「なぜ?」という問に関しても答えはない。
彼らは僕の話など聞いてはくれない。
わざと聞かないようにしているのでは? と思うほどに無関心だ。
僕が彼らを部屋に入れたくない理由。その最たるものが、この住人たちの奇妙さといえる。
本当にこのアパートの人ときたら変な人ばっかりだ。
毒島さんは毒殺しようとしてくるし。
暗丘さんは裏社会の人だし。
進士くんはなんだかパソコンがすごそうなだけでよくわからないが、白塗沢さんは薬品まみれの生活をしているらしいし。なんだ薬品て、ちょっと怖い。
その人たちの情報を得たい。なぜなら警戒しているから。
その僕がどうして喜んで部屋に招き入れられようか。
そんな僕の警戒心に彼らは気づいていないのか、彼らの内輪ノリというやつで話は進んでいく。
おそらく、酒が入ったのも要因だろう。
今、みんなのカップの中には、僕が進士くんに渡されたビールが。僕の持っている紙コップには、僕がたまたま買い溜めしておいたビールが入っている。
彼らのは僕が冷やしておいたから、冷たいものを飲めているが。僕のほうはすぐに飲む気がなかったので、冷蔵庫に入れてあったわけではない。当然冷えていないビールだ。
冷えてなければ美味しくないということもあって、僕はほとんど飲んでいないし、酔っていない。
けれども彼らはよく飲んでいる。
何度も言うようだが、酔っているのは彼らのほうだ。
なのに僕は何度も同じ質問を繰り返す。
自分がアホになったような気がするけども、それでも僕はしつこく問を重ねた。
「
と。
今度こそ名指しで聞いてみると、反応があった。
「え? 歓迎会だから?」
「……そうじゃなくて、なんで僕の部屋なのかってことですよ」
「お前さんの歓迎会だからだろ」
「主催の暗丘さんの部屋でいいじゃないですか」
「だって俺の部屋は水道が通ってないし……」
またか。
と僕は思う。
「それに主催は
言われて進士くんを見る。
「俺の部屋はパソコンあるから酒飲みとかゴメンだね」
とそっけない返事がきた。
パソコンがあることと、飲み会ができないことと、何が関係あるんだろう。と思うが、つまりそんな言い訳を使ってでも部屋に入れたくないのだろう。
ならばと
白塗沢さんは、一瞬困ったように眉を下げた。
「ボクの部屋は薬品の匂いがひどいそうです。お二人が嫌がりますので……ボクはそんなふうには思わないのですが、おかしくないですか?」
同時に暗丘さんと進士くんが二人して目を合わせて、肩をすくめるのが見えた。よほど匂いが強烈らしい。
薬品の匂いって……保健室か理科の実験室ですか?
いやいや、そこはどうでもよくて。
要するに、みんな部屋に他人を入れたくないだけじゃないか。
僕だって部屋に入れたいわけじゃないんだけど?
これも、僕が歓迎会の場所にこだわる理由の一つ。
彼らの雰囲気は歓迎会というより、飲み会がしたいだけのように思える。実際僕の言葉聞いてないし。場所の提供だけするなんて気分が悪いじゃないか。
なんで僕の部屋なんだよって思って何が悪い。
悶々とする僕だけど、進士君はそっけない。
「気にしすぎ。別に困ることないだろ」
あきれた様子の彼に僕は「そうだけど……」と返す。
「そうそう、表屋くんの部屋広いしね」
と暗丘さんが続ける。
「オッサンの部屋だって何にも置いてないじゃん」
「お二人とも喧嘩はよくないですよ」
ほらまた勝手に話は進んでいく。
気にしすぎじゃないだろう。どう考えても。
今度、用心のためにも鍵を二重につけていいかを管理人さんに聞こう。
3階建てのボロいアパートだから、泥棒が来る可能性に警戒しているというのもあるけれど、なによりこのアパートに住んでいる人たちをどうにも信用できないんだから仕方ない。
しかし、ならば彼らのほうはどうなのだろう。
こんな奇妙なアパートに越してきた僕をどう思っているのだろうか。
彼らは僕に対し警戒している様子はない。ように見える。
互いのことを何も知らない者同士が同じ部屋にいる状態というのは、誰だって警戒して
そもそも警戒しないといけない隣人って面倒臭すぎるけど。
僕は小さくため息をついた。
すでに集まってしまっているので今更どうすることもできない。
部屋についてはあきらめるしかない。うじうじ考えても仕方ないし。そうしよう。
僕は潔いことには定評がある。
そう思いつつも僕はわざと彼らをジト目で見つめたが、それに気づかない様子に再び盛大なため息をはきだす。
頭が痛くなってきた。
あらゆる雑念を払うつもりで
そもそも今回の僕の目的は、このオトギリ荘の不思議な人たちを観察することだ。そして彼らから情報を引き出すことだ。
素性が全くの謎な三人とわざわざ酒を飲むのもそういうことだ。
僕は痛みを訴える頭を和らげるつもりで、眉間をもみながらも、とりあえず予定通り情報収集を執り行うことにする。今は、それくらいしかできることがない。
僕は三人に気づかれないように、けれどガッツリ観察するようにそれぞれに視線を向けた。
まず、
改めて今日暗丘さんに紹介されたところによると、18歳でコンピューター関連の仕事をしているらしい。
思ったより年齢は上だったけど、若いのに立派だ。
暗丘さんの仕事を手伝うことがあるそうで、入居時期が近かったこともあって仲がいいらしい。
暗丘さんの仕事というと、危なそうなことだということが気にかかるが、こんな幼い見た目の子供でもそういう裏の世界では重宝されるのだろうか。
と奇妙な疑問を持ったりしている。
おそらく部屋に閉じこもってるのだろう。不健康な生活をしてそう。という意味では
次に
は、よくわからない。
今日で初対面だ。
フルネームは
こちらも随分と白い。進士くんよりさらに白い。生白い。
今のところわかっているのが、部屋に薬品があるらしいということ。
薬剤師とかって、自宅に薬剤をもっていたりするのだろうか。
そんなわけあるかな。
「表屋さんは大学生だとか......ちなみに専攻は?」
突然の質問に僕は瞬きで困惑を示しす。
「えーっと、文学部です。主に歴史学を」
「なるほど、人間の歴史を知るのはとても重要ですね。ボクは主に人体構造について独学ですが学んでおりまして……」
なんだか長い話になりそうだ。
「進士くんは? もう働いてるって……大学とか興味なかったの?」
さっと顔を向けて進士くんを見る。長話にそれほど情報があるとも限らない。と思ったからだ。面倒くさかったというのは否めないが。
進士くんはちょうど年齢的には高校三年生か、大学1年くらい。
仕事をしているということは、高卒だろう。
この子、という歳でいいのかは微妙だけど、見た目が幼いので仕方ない。
この子がしている仕事とはなんなのだろう。
「は? 俺? 大学とか行くわけ無いじゃん、めんどくさいし。大学行かなくても仕事できるからね、優秀だからさ俺」
「そういえば暗丘さんと一緒に仕事してるって、どんな仕事?」
これに関しては暗丘さんの裏の世界的な仕事に関わることなので聞きにくい。が、しかし興味はある。
好奇心がほとんどという状態で僕は進士くんの話をよく聞こうと、無意識に上半身を伸ばす。
そこに、暗丘さんの手が目の前に突き出された。
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