弟探し
物語創作者□紅創花優雷
弟探し
薄紫色の肌に、鋭い角、人間のような見た目の姿にそのような特徴がみられる種族それが魔族だ。
魔族が住まうこの国で、有名な貴族の一家がある。その名も
そんな黒翼家の長男の
その後、モニターを閉じ傍で言いつけを待っている執事に声を掛けた。
「俺、弟欲しいなぁ」
幼さが少しだけ残る声を放ち、妖艶な笑みを浮かる。
執事は介牙の意図がなんとなく伝わってきたが、ワンクッション挟むように無難な返答をした。
「それでしたら、御父様方におねだりなされてはどうでしょうか?」
「けどさぁ、それじゃあ随分歳の差あるじゃん。俺、四・五歳くらい年下のー、甘えん坊な弟ほしーい」
その言葉から、執事の予測が確信に変わった。主人である介牙が赤ん坊だった時から仕えているのだ、何を考えているかは手に取るようにわかってしまうのだ。
「では、手配しておきます」
貪欲なんだから、そう苦笑いを浮かべ執事は言った。
さっさと仕事を済ませて仕舞おうと部屋から去ろうとすると、介牙は席を立ちあがりそれを止めた。
「待って、俺が迎えに行く」
「ほう、どういう風の吹き回しですか?」
あの面倒くさがりの主人が、自ら立ち上がるなんて。執事は驚きつつも訊ねる。
「俺、お兄ちゃんだから」
にやりと悪魔らしい笑みを作ると、介牙は直ぐにしまっていた翼を広げ、窓から飛び立っていった。
「旦那様に報告しておかないとな……」
それを見送ると執事は小さなため息を突く。顔を覆う右手から覗いた表情は、愉快そうに口角をつりあげていた。
〇
夜の暗闇に溶ける翼をはためかせ、介牙は目的地に向かっていた。魔族の国とは対立関係にある人間の国。本来、こんなところに自ら出向くなどしないのだが、今日は訳が違う。
「お、ここだここだ」
声を弾ませ、古臭い集合住宅の一室に入る。窓はきっちり占められているが、ボロ家なだけあって魔族対策があまく、軽くすり抜けられた。
中に入った途端、耳をつんざくような男女の怒鳴り声と鼻に来る酒の匂いがした。
人間も堕ちたものだ。介牙は呆れながら部屋に散らばるゴミを踏みつける。足の向く先には、男の子が膝を抱えて泣いている。
あぁ、なんとも可愛い事か。でろでろになるまで甘やかして、自分の事しか考えられない程依存させたい。そんな支配欲を抑えて、介牙は男の子に笑いかける。
男の子は介牙を見るとギョッとし、後ろは壁だというのに逃げるように後退る。
おそらく人間達の間では「魔族は凶悪な種族だ」とでも教えられているのだろう。確かに、薄黄色の肌の奴からしたら、この薄紫色の肌は畏怖の対象だろう。
「大丈夫、怖くないよ」
「安心して、俺が助けてあげるからね」
そう言って優しく頭を撫でる。すると、表情がふにゃりと柔らかくなり、もっととねだる様な素振りですりついてきた。
涙で濡れた丸い瞳で介牙を見詰め、ホントに? と震えた声を出す。
「うん、ホントだよ」
目が合うと、介牙の金色の瞳が光を帯びる。すると、相手の目が虚ろになり、ああと短く唸った。
介牙に体を預け、眠ってしまった。
「ふふっ、弟ゲッドぉ」
すやすやと気持ちよさそうな彼を抱え、背中から頭を愛撫する。可愛い可愛い弟。一目見た時からそう決めていた。
この子の名前は……帰ってから決める事にしよう。そう考えながら、直ぐに去って行った。
〇
「ただいまー」
介牙が屋敷の中に入ると、使用人たちが左右にずらりと並ぶその先に両親がいた。
「お帰りなさい、介牙」
「お父様、お母様、ただいま帰りました」
微笑みかける二人。父親は介牙のつれてきた子を興味ありげに見詰め、その頬を突く。
「久しぶりに間近で見たな……しかし、こりゃ可愛い。人間には勿体ない」
「弟にするのよね? 執事から話は聞いているわぁ」
二人とも、子供が増えることは嬉しいようだ。
当たり前だ。この子は介牙が弟にするのに一目ぼれした子なのだから。
「名前どうするの?」
「そうですね、帰り道で思いついたのは『涼牙』です」
「いいな、涼牙。大切にしてあげろよ」
言われなくともそうするつもりだ。
「勿論」
介牙が愛おし気に弟を撫でると、それに反応するように涼牙が笑った。
部屋に連れて行き、ベッドの上に寝かせる。魔術で無理矢理寝かせたから、しばらくは起きないだろう。しかし、次目覚めるときには以前の記憶はきれいさっぱり無くなって、何かかもが思い通りになる。
お兄ちゃんと呼ばせようか、それともにーにだろうか。まあ、どっちでもいい。
記憶は消されるが、今まで受けた心の傷は消えないだろう。だから、目一杯甘やかして可愛がる。そうすれば……あぁ、今から楽しみだ。
既にこめかみから角が少しだけ顔を出し始めている。
〇
とても優しい夢だった。
朦朧とした意識の中、ふわふわとした温かい何かに包まれている。誰も自分の存在を拒まない、なんとも居心地が良いのだろうか。
ずっとここにいたい。もう、二度とあんなところに戻りたくない。
望みはどんどん強くなり、それに比例するように頭が軽くなって。
『涼牙』
「……にーに」
脳に溶け込んできた優しい声を求め、手を伸ばした。
〇
くいっと袖が引かれる感覚がした。
「にーに」
可愛らしい声で呼ばれると、介牙はその自分よりも小さな存在を抱きしめ「なぁに?」と優しい声で訊く。
自分と同じ、薄紫色の肌と金色の目。加えて、角の形も同じだ。これはもう、誰がどう見ても兄弟だろう。
涼牙は何か用事があるわけでもなく、嬉しそうに兄の胸に顔をうずめる。
無理矢理魔族にしたせいか、それとも心の傷のせいか……精神が幼く、とっても甘えん坊だ。そう、介牙が望んだような弟。一途で可愛い弟。
もうこの子の目映るのは、介牙だけなのだろう。
撫でてやると控えめに笑う。その表情がなんとも可愛らしくて。
「よしよし、いい子だなぁ涼牙」
どこまでも愛でられ、涼牙の心は融かされて行く。甘く、どろどろに。
それはとても幸せだった。
弟探し 物語創作者□紅創花優雷 @kuresouka
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