05 &α

「あのお。そろそろ、よろしいでしょうか?」


「あっ。うわっ」


「おわっ」


「あっごめんなさい。突き飛ばしちゃった」


「あんたら何秒間キスするのよ。見てるこっちの息が止まるわ。肺活量ばけものかよ」


「いや、普通に」


「はなで呼吸してたけど」


「ああそうですか。いいですねえお盛んで」


「聞いてたのか」


「そりゃあ聞きますとも。私は優しいんでね。あんた。そっちの、夜の営みが激しいほう」


「俺か。なんだ?」


「この子のはじめては、私がもらいますからね」


「は?」


「私も好きだから。この子が。いいわね?」


「なんの話だ」


「え。えっえっ」


「誰も見てないなんて、かなしいことを言わないで。見てるわ。ずっと。あなたには優しくされるだけの、権利がある。優しくされていいぐらいの、理由がある。あなたは素敵よ。だいすき」


「えっえっ。うわっうわっ。ちょっ。あっ」


「んちゅっ」


 キス。


「おまえ。優しいだけのやつじゃなかったんだな」


「私の目的は二つ。あなたと、あなたをくっつけること。それは達成されたわ」


「よかったな」


「もうひとつは、あなたと、あなたの間に挟まること。キスするわよ。来なさい」


「三人同時にキスなんて、できないだろうが」


「はっ。強がっても無駄よ。あなたは私のことも好きになれる。私には自信がある、ってうわっ。なにっ。ちょっと待って。あなたはさっきキスしたでしょ。待って待って。あっ」


 秋。夕暮れの美術室。


 全員が全員、お互いにキスをしようとして。頭を派手にぶつけた生徒が、三人。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る