02
いつも通り。
美術室で、鶴を描く。他の人には見せないように、ノートの中に。
他の美術部員。部活が終わったあとの遊びの予定を立てている。
行くかと訊かれたので、角が立たないように断った。わたしもまた、大勢のなかに紛れる、ひとり。彼の真似をしているというのもあるが、結局、わたしがそういう人間だというのもある。他の人には当然あるものが、わたしにはない。
そんなものだと、思う。
全員女子の美術部。
遊びの予定を立てている中心の部員。思春期で親や姉妹との関係性が変化していくのに戸惑っていて、家に帰りにくい。その予定に乗っかる横の部員は、単純にカラオケが好き。だからカラオケを提案している。その隣の部員。彼女はみんなに対して優しいので、おそらくわたしに配慮して予定を断るだろう。
そして、カラオケに行く部員が帰り、わたしと優しい女子部員だけが残った。
「ふう」
女子部員。肩の荷を下ろしたような動き。
「秋らしいこと、なんもしないのね。カラオケって。いつもカラオケじゃないの」
「あなたは、優しさの秋?」
「そうね。やさしさの秋よ。あなたは、なんの秋なの?」
「鶴を描く秋。おえかきの秋」
左の袖をぱたぱたさせて、声をかける。
「やさしさの秋って、たいへんなの?」
「たいへんよ。色々、仕込みがね。でもやっぱり、優しいって、最高じゃん」
「そうなの?」
「最高よ。優しい自分に酔いしれるの。優しい自分は、最高よ。ドラマとかに出てくる根が優しい、ぶりっこちゃんじゃないから。私は、優しい私が大好きなだけの、ただの自己中」
「自己中ね」
わたしも、同じかもしれない。
「あなたのことは、好きね」
「好き?」
「友達としても、女性としても。好意を抱けるわ」
「ありがと」
彼女は優しいので、わたしが大勢に隠れていても、そのまま放っておいてくれる。そして、ふたりきりになると、話しかけてくれる。
「そろそろ、さ。告白したら?」
「誰に」
「隣の席の彼に」
「むりだよ。そういうのがさ、わたしにはできないから」
左の袖をぱたぱたさせながら、答える。事実、そういうのは、わたしには無理。
「そんなあなたに。優しい私からプレゼントです」
彼女。
立ち上がって。
美術室の扉を。
開けた。
彼がいる。
「では、ごゆっくりどうぞ」
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