第13話

 日曜の夜6時半。

 それは某長寿番組を見てると、刻々と迫りくるくそったれな月曜に憂鬱になる時間帯。

 そんな症候群に陥る時間帯に二つのメッセージが立て続けにスマホを震わせた。

 先輩と同僚からだ。

 内容は、先輩はからかってくるようなメッセージで、同僚からはぶりっ子ぶるメッセージで。

 要約すると2人ともクリスマスのお誘いメールだった。

 恐らく先輩は単なる気まぐれで誘ってきたのだろう。あの人は昔から単なる気まぐれで人を巻き込み(主に俺を)行動を起こすとこがある。

 そんな自由奔放さに散々振り回されて、そのお陰で疲れはしたけど、でも最後には振り回されてよかったと思えるから不思議だ。

 そんで同僚は、


 「まぁ友達として......だろうな」


 理由はしらないが、先輩と同僚とでお昼を共にしたあの日から同僚はやけに『私たち友達ですよね』と、友達という言葉を連呼し、やたら一緒にいることが多くなった。

 時には仕事中、時には昼休み。そして仕事終わり。昼には俺のためにと弁当を作ってくれる日もあって、コンビニ食の俺にとってそれはとてもありがたいことだったのだが、お陰で俺を見てくる男性社員の目が冷たくなった気がする。


 「どうすっかな」


 俺はスマホをタップしながら、低く唸る。

 高校時代からお世話になっているため、先輩からの誘いは断りづらい。

 かと言って同僚からの誘いを断るのも......

もし、社内に同僚からの誘いを断ったなんて噂が流れたら、俺を見る社員の目が一層冷たくなるに違いない。

 あぁ! どうしたらいいんだぁぁ!

 頭を抱え、叫びそうになって、スマホが震えた。

 今度はメールじゃない、着信だった。

 相手は同級生からだ。

 そうだアイツに意見を仰ごう。アイツなら妙案を出してくれそうだ。

 

 「ねぇアンタ今度のクリスマスって予定空いてる?」


 「oh...... ブルータスお前もか」


 「なに言ってんのアンタ」


 

 

         ⭐︎


 「ふーん予定がダブルブッキングしたと......モテ期じゃない。よかったわね」

 

 「からかわないでくれ...... 本気で悩んでんだよ」


 スピーカー越しにクスクスと声が漏れてくる。

 こっちは本気で悩んで相談してるってのに。

 あの野郎俺が困っている状況を楽しんでるな。

 なにか文句一つでも言ってやろうかと口を開きかけて、


 「だったら私とクリスマス過ごせばいいんじゃない?」


 妙案というか珍案が飛んできた。


 「いやそれってなんの解決にもなってないだろ。新たに選択肢が増えただけで......」


 「冗談よ。そうね......ならいっそのこと2人まとめて誘えば......なーんてね。それこそーー」


 「それだ‼︎」


 電話にも関わらず、俺はつい大声をあげてしまっていた。

 案の定、

 「ちょ......うるさい」


 と同級生の小言が聞こえてきたけど、今の俺にとっては些末な事だった。


 「やっぱりお前天才だ! そうかそうだよな。2人とも誘えば万事解決じゃないか!」


 なんたって2人には面識がある。一緒に昼を共にしているのだ。

 絶対に上手くいく。


 「ありがとな。お前に相談して正解だったよ」


 「待って? 嫌な予感がするんだけど。アンタ一番とっちゃいけない方法を取ろうとしてない?」


 「大丈夫だ! 心配するな!」


 「ちょっと? 話を聞いーー」


 プツンーー

 同僚には悪いが通話は切らせてもらった。

 あれから既読をつけて、時間が経っているのだ。

 早く返信しないと。

 俺は手早く2人にメッセージを送信する。

 時間と集合場所はバラバラにならないようにこっちで決めた方がいいだろう。


 

       ⭐︎


 先輩視点


 ぴろんと待ちに待ったメッセージが届く。私はラーメンを食べていた手を止め、一目散にスマホを見やる。

 『クリスマス予定空いてます。時間と場所はーー』


 へぇ......時間と場所を指定してくるなんてなかなかに乗り気のようね。

  ふふ、私の事がまだ好きなのかしら?

 彼からきたメッセージをスクショして、私は胸に秘めた想いを口にする。

 

 「今度は私から告白するんだから」



         ⭐︎


 同僚視点


 ピコンとスマホが鳴った。相手は同僚からだ。

 やれやれやっときましたか。

 男なら皆こっちから誘えばいつも秒で返信を返してくるのに。やれやれ、彼はなかなか手強いようですね。

 けど、

 

 『クリスマスの予定なら空いてるよ。そうだな場所はーー』


 このメッセージを見て確信しました。

 彼は確実に私に堕ちてきています。友達としてじゃなく女として私を見てきています。


 「今度のクリスマス......楽しみですね♡」



         ⭐︎



 同級生視点


 あの馬鹿。途中で電話を切ったわね。

 ツーと鳴るスマホを見ながら私はため息をつく。

 正直嫌な予感しかしない。

 メッセージでも送ってアイツの奇行を阻止しようとも思ったけど、アイツのことだ。

 もう既に2人に返信しているだろう。賽はもう振られてしまった。

 今更、その方法は悪手と伝えてもアイツが余計混乱するだけ。


 「冗談で言った私にも責任があるか....... 」


 仕方ない。

 私はある種の覚悟を決めて、ネットを開く。

 今頼めば間に合うだろう。

 私はそれをカゴに入れて、苦笑する。なにやってんだろう私。

 いや、そもそも、先輩や同僚さんが先客だったとしても、


 「親友からの誘いを簡単に断るな馬鹿」


 

 

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同級生と俺 腐った林檎 @today398

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