第11話
日曜日。
昼はいつも一人で適当に昼ご飯を食べていたのだが、今日は違った。
イレギュラーな事態が起きたことで、俺は会社の同僚と高校の頃お世話になった先輩と昼食を共にしている。
なんでそんな事になったのか。
事の発端は俺が2人に変な勘違いをされないようにありのままを伝えた事から始まる。
『へぇー それはそれはうちの後輩がお世話になったわね』
『いえ、そんな事はないです。私助けられたばかりで』
『折角こうしてあったのも何かの縁だから一緒にお昼ご飯にしない?』
そしてあれよあれよと2人は仲を縮めていき、現在に至る。
因みに同僚が言った助けられている。それは全くのデマで、俺が助けなくても彼女を助ける人は沢山いる。
「はい沢山作ったから食べてね」
「うわー美味しそう」
先輩が作ったポトフに会社の同僚が嬉しそうに声をあげた。
「ふふ、そう言う同僚ちゃんが作ったハンバーグも美味しそうよ」
「えへへ、ありがとうございます。ハンバーグは得意料理なんです」
得意料理と豪語する事もあって同僚が作ったハンバーグはなかなかにジューシーで美味しかった。
ハンバーグにかかっているデミグラスソースも同僚お手製だというのだから驚かされる。
そして先輩が作ったポトフ。これもジャガイモやニンジンがホクホクしてて美味しかった。
「それにしてもうちの後輩がこんな可愛い娘と一緒に仕事してるなんてね。大丈夫? 彼から嫌な事はされてないかしら?」
「いえ。そんな事はまったくないです。寧ろ助けられてばかりで」
「そう、それはよかった。」
先輩はナイフで丁寧にハンバーグを切り分けながら、
「でも気をつけてね。コイツ以外と大胆な事してくるから」
思わず口に入れていたジャガイモを吹き出しそうになった。
「げほっ! なに言ってるんですか先輩は。大胆な事っていつ俺がそんな事したんですか。変なこと言わないでくださいよ」
「ふふ。忘れたとは言わせないわよ。あれは文化祭の時。出し物で私がバンドのボーカルを担当していた時に緊張で歌詞が飛んで歌えなくなったときに」
「あぁストップストップ! 思い出しました! だからその続きはいいです!」
俺は慌てて先輩の悪戯めいたセリフを止める。
あれは今では黒歴史の一部だ。時間が経過した今でも聞いたら羞恥で悶えそうになる。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。同僚が続きを促したのだ。
「えー気になりますよ。どうなったんですか?」
「気にする必要はないから! そんなに大した事はーー」
「彼が声を張り上げて続きを歌ったのよ」
先輩がサラリと口にする。
あぁもう煮るなり焼くなり好きにしてくれ。
「ふふ突然の事だったからベースもドラムも手が止まっちゃってね。彼の声だけが響いていたわ」
「えぇ! どうしてそんな事を」
「あ、あーどうしてだろうなぁ。昔の事だから忘れちまったな」
「そう言って本当は覚えてるんじゃないの?」
「あーもう煩い煩い。2人とも料理食べたらとっと帰って下さいね」
「ふふ相変わらず君は子供だね」
俺は逃げるようにキッチンに行き、冷蔵庫を開け、空のコップに麦茶を注ぐ。
冷えた麦茶を一気に飲み干して、一息つく。
本当は覚えてるんじゃないかって?
先輩の悪戯な表情に俺は内心舌打ちする。
あぁ勿論覚えているよ。
それは先輩が好きだったからだ。好きな人が困っているのを見ていたくなくて、それだけの為に実行したんだよ。結果、先輩は笑われずに済んで、かわりに俺がしばらくの間クスクス笑われる羽目になったんだけどな。
あぁでもアイツだけは笑わなかったな。
凄いじゃんって。アイツだけは俺の味方でいてくれたんだよな。
「俺って馬鹿だな」
もう一杯麦茶を入れて飲み干す。
一度送ったメールが無視されたからってなに落ち込んでたんだか。俺とアイツの縁がそう簡単に切れるかよ。
俺はスマホを取り出して、既読がつく、つかないなんて考えずにメッセージを送った。
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