第9話

同級生(彼女)視点


 「やぁ久しぶりだね後輩」


 「お久しぶりです......先輩」


日曜日。

 私は高校の頃お世話になった先輩に呼び出され、先週も来たファミレスにいた。

 先輩と会うのは約数年ぶりだ。

 久しぶりに会った先輩は高校の頃よりも綺麗になっていた。

 

 「あはは、返事が固いな〜 ひょっとして緊張してるの?」


 「いえ、別に」


 「ふふ、後輩は昔から真面目だよね。まぁアイツもそうだけどさ」


 メニューをパラパラめくり、先輩がボタンを押すとポーンと間の抜けた音が店内に響き渡った。

 

 「あっ、後輩もなんか頼む? 私奢るよ?」


 パタンと閉じたメニュー表を先輩が向けてくるが、

 「いえ、大丈夫です」


 断り、私はお冷やを口にした。先輩には悪いが私はここに長居するつもりはない。

 先輩が私を呼び出した理由を聞いたらすぐに帰ろうと思っているのだ。

 だって私は先輩の事が昔から苦手なのだから。


 「そっか残念。好感度上昇作戦は失敗か〜 何事も上手くいかないもんだね」

 

 先輩がやれやれと首を振ったタイミングで、店員がやって来くる。先輩は決めていた注文を口にした。パフェ2つと。

 ん? 2つ?

 先輩の意図に気付いた時には、店員は既に注文を復唱し、その場を去っていた。


 「私食べませんよ......」


 「うんいいよ。私も1つしか食べないからさ」


 「......なんで2つ頼んだんですか?」


 「うーん。気まぐれかな?」


 「勿体ないと思わないんですか?」


 「ふふ、そうね。勿体ないと思う。だから、誰かが食べてくれたら助かるんだけどな」


 「......わかりましたよ。私の負けです。私も食べますよ」


 「負けって。別に私は勝負をしていたわけじゃないけど」


 嘘だ。その割には先輩は勝ち誇ったように、ニタニタと笑っている。やっぱりこの人は苦手だ。

 呼び出された理由を早く聞いてパフェを食べたら帰ろう。奢られるのは癪だからお金は置いて。

 

 「後輩ちゃんってさ。昔から私のこと嫌いだよね」

 

 「えっ」


 一瞬心をよまれた気がして思わず声が出た。

 カランとグラスに入った氷を揺らし、先輩はお冷やを口にすると氷も口にいれ、バリッゴリっと噛み砕き、


 「でも安心していいよ。嫌いなのは私も一緒だからさ」


 先輩からの突然のカミングアウトに固まる私。どれくらい固まっていたのだろう。

 硬直が溶けると、目の前にパフェが置かれていた。

 大きなアイスクリームが2つ乗っていて、山のように盛られている生クリームの上には、甘そうな蜂蜜がふんだんにかかっていて、グラスから垂れそうになっている。

 見ているだけで、胃がもたれそうな見た目だ。

 正直私は甘いものが得意ではない。チョコみたいなほろ苦いタイプのお菓子が好きなのだ。

 

 「ふふ。美味しそう。後輩ちゃんもそう思うでしょ?」


 「そう、ですね」


 作り笑いを浮かべ、パフェを一口。ねっとりとした蜂蜜が口内を支配してくる。

 あぁこれだけで虫歯になりそう。

 けど食べると宣言した手前、引くわけにはいかない。

 私が一心不乱にパフェを口にしていると、

 

 「後輩ちゃんも負けず嫌いだよね」


 澄ました顔で先輩はひょいひょいとパフェを口にしていく。


 「先輩は私の事嫌いって言いましたけど、今日はそれを言うためだけに呼んだんですか?」

 

 「勿論。それだけなわけないじゃん」


  先輩は生クリームの上に乗ったさくらんぼからヘタを取ると、口にいれ、モゴモゴ動かし、ちろっと赤い舌を覗かせる。

 舌の上には先程口に含んださくらんぼのヘタが結んであった。


 「知ってる? 都市伝説なんだけどさ、さくらんぼのヘタを上手く結べたらキスが上手いんだって」


 「それがなんですか。私はやりませんよ」


 「あはは、別にしなくていいよ。私がしたかっただけだからさ。でも綺麗に結べたって事は私はキスが上手いって事か。アイツ喜ぶかな?」


 「先輩は勘違いしています」


 ごちそうさまと口にして、私はペーパータオルで口をふく。

 

 「あら、もう食べちゃったの? 早いねー」


 甘ったるい口内をグラスに入った水で緩和させ、ついでに氷を噛み砕く。

 バリッゴリ。

 先輩が何のために今日私を呼び出したかわかった。けど先輩は勘違いをしている。大きな勘違いを。

 誤解を与えないように私ははっきりと伝える。


 「私とアイツは昔からの腐れ縁でそれ以上でもそれ以下でもないですから」


 「えー そうかな? 少なくとも高校の頃から2人を見てきた私からは、2人は付き合ってるように見えたんだけど」


 「違います。アイツと私は中学からの腐れ縁なだけです。それにそもそもアイツには......」


 彼女がいるんですよ。

 そう口にしようとしたけど、ふとアイツの顔が浮かんでやめた。

 アイツも彼女がいるなんて言いふらされていい気はしないだろう。

 私は言いかけた言葉を誤魔化すように、


 「先輩はアイツの事が好きなんですか?」

 

 「うん。好きだよ昔から。超好き」


 相変わらず澄ました顔で先輩は言う。嘘をついているようには見えなかった。

 

 「好きって......」


 先輩はアイツからの告白を断ってますよね?

 

 今でも覚えている。

 私も親友としてアイツの恋を応援していたのだから。正直告白は成功すると思っていた。それほど先輩とアイツは仲がよかったし、それに先輩からも思わせぶる発言が多かった。

 だからアイツが振られた時には、私はアイツの心を弄んだ先輩が許せなくなって、嫌いになった。

今更好きってどいうつもりなんだ。

 先輩の自由な発言には流石に怒りが沸いてくる。周りに人がいなかったら私は先輩の胸ぐらを掴んでいたかもしれない。

私は怒りに蓋をするように、ゆっくりと深呼吸をする。

 やっと少し落ち着いたところで、私は彼女の前にパフェ代を置いた。

 目的は達成したのだ。疑問は残るがもう帰ろう。これ以上先輩といると怒りがまた再熱してしまうかもしれない。

 

 「あれ? もう帰っちゃうの? もう少し話さない? 折角久々にあったんだからさ」

 

 先輩に呼び止められるが、もう隠す必要はないだろう。

 私はニッコリと笑い、


 「いえ帰ります。私先輩の事が嫌いなので」


 はっきりとそう告げ、私は先輩から離れる。

 後ろから、あららと声がしたが、私は振り返らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る