第7話

 同僚視点。


 祝日。

 私は同僚の彼と女性人気で有名なクレープ屋さんに来ていた。

 私はストロベリークレープを、彼はブラックチョコクレープを買って、近くに設置してある簡素なテーブルに腰を下ろした。

 祝日ということもあり、周りにはカップルが沢山いて、お互いにあーんとクレープを食べさせあっている。

 正に幸せが溢れる光景で、目の前に座っている彼だけが、別の空気を醸し出していた。


 「もう、いつまでそんな顔してるんですか〜、折角のデート。楽しまないと損ですよ」


 「デートじゃねぇだろ。今日は仕事の相談で呼んだんじゃなかったのか?」


 クレープを片手に彼は溜息をつく。

 先週の日曜日の事だ。ショッピングモールから別れた後、私は彼にメールを送った。

 『今度の火曜日空いていますか。仕事の事で相談したい事があるんです』と。

 既読はすぐについたが、どうするか迷ったのだろう。返事がきたのは夜中の21時頃だった。

 『明日職場で会うだろ。その時じゃダメか?』

 その返事に私は少し意表をつかれた。だって皆んな私が誘えば直ぐにYESと返すのだから。

 

 『駄目です。周りには聞かれたくない事なんですよ〜』

 『わかった。そんなに大事な話なら聞くよ』

 と、まぁそんなやりとりがあったけど。

 勿論仕事の相談なんてただの口実で、本当の目的は別にある。

 

 「ほらそんなにつまんない顔してたら幸せが逃げちゃいますよ〜 笑いましょう。ニコー」


 私は首をちょこんと傾けて、えくぼスマイルを浮かべる。大抵この笑顔を見たら、男の人はデレッとした顔を浮かべるんだけど、


 「はぁー」


 彼は溜息をついた。

 おかしい。なんで彼は私に惹かれないんだろう。

 だったら作戦変更だ。


 「私のこと嫌い、ですか?」


 笑顔を一転。

 俯き、今度は落ち込んだ姿を見せる。

 この姿を見せれば大抵の人が、どんなに私が悪くても許してくれる。それどころか悪かったと謝ってくる人もいる。

 ふふ、さぁ今度こそ。


 「いや、別に嫌いってわけじゃないけど」


 よし!

 予想通りの反応にテーブルの下で小さくガッツポーズする。

 この調子で一気に畳み掛けてしまおう。


 「よかったー 友達に嫌われてたらどうしようつて、泣いちゃいそうでしたよ〜」


 「待て! いつからお前と俺が友達になったんだ?」


 「え〜忘れちゃたんですか。日曜日からですよ。も〜 この忘れん坊さんめ」


 胸をつんと突くと、あからさまに彼は照れたように狼狽え、そして耳たぶを抑えた。

 ふふ、いい調子いい調子。


 「ふふ、耳たぶを抑えたってことは〜 覚えてくれてたんですね私の言葉」


 彼の唾を飲み込む音が聞こえる。


 「お前、今日はその為に俺を呼んだのか?」


 「ふふ、さぁーてどうでしょう? 隙あり〜」


  私は彼の隣に移動し、食べかけのクレープにかぶりつく。

 ペロリと唇についたチョコを舐め、

 

 「ん〜 チョコクレープも美味しい! あっ、イチゴクレープ食べます? 美味しいですよ?」


 私の食べかけのクレープを彼に向ける。


 「い、いらない。てかそんなことしたら間接キスになるだろ」


 またもや意外な反応。男の人なら、鼻の下伸ばして求めてくるのに。

 でもこんな反応されても私はめげない。


 「ふふ、そうかも。でも」


 イチゴクレープを彼の口元まで持っていき、微笑む。


 「友達同士なら問題ないんじゃないですか? それとも友達同士の間接キスでも意識しちゃうんですか? あれでもそうすると女として意識してるって事ですよね?」

 

 これが私の本当の目的。

 女友達がいると言った彼に異性同士の友情関係なんて幻、存在しないと突きつけてやる。

 私は身をもって知っているんだ。


 私の言葉に、果たして彼は


 「ぐっ! そ、そもそも俺はまだお前を友達と認めてない」


 へーなるほど。そう来るんだ。


 「え〜酷いですぅ。私は友達だと思っているのに」

 

 まぁ今はこれでいい。これからもっと私を意識させてやる。そして彼の口から言わせてやるんだ。

 異性同士の友情関係なんてなかったって。


 

          ⭐︎


 同級生(彼女)視点


 買い物を終えた帰り道。

 私は小さな紙袋を片手に、目の前で繰り広げられる光景を見て、ただ固まっていた。

 前を歩いているのは後ろ姿でもわかる、アイツだった。

 そして連れ立って歩くようにアイツの隣にいる女性。

 アイツと肩が触れ合うくらい密着して歩く女性。それはどこからどう見ても彼女にしか見えなかった。

 ああ、アイツ彼女いたんだ......

まぁ確かにアイツは顔は悪くない。そこそこイケメンだ。

 やる気を出せば彼女くらい出来るだろう。

 でも、そっか。彼女いたんだ。いたなら教えてくれたらよかったのに。

 

 「私邪魔してたんだ」


 休日にアパートにお邪魔したり、看病したり。彼女と過ごす筈の時間を邪魔してたんだ。


 「悪いことしちゃったな」

 

 休日は友達よりも彼女といたいに決まっている。

 

 「ごめんなさい」


 私は後ろ姿の彼に小さく謝って、帰り道とは反対方向に歩き出した。

 

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