第2話
日曜日。
それは憂鬱前日の日であり、明日に備え充電する日だ。
なるべく体力を消費せず、行動は最小限に。
そういうわけで俺は、昨日と引き続き、自室のベットに転がりながら、スマホで格闘ゲームの実況動画を見ていた。
実況者はゲームのプレイしながら、時々視聴者から流れてくるコメント返しをしたりと、実に楽しそうにしていた。
「楽しそうでいいな」
ボソリと零れた言葉。
暇を消費するために見始めた動画だった筈なのに、今は苦痛でしかなかった。
俺はため息をついて、スマホをベットに軽く放る。
このまま寝てしまおうか。一瞬そう思い、やっぱり駄目だと起き上がる。
折角の休日なのだ。昨日ベットで一日過ごしたぶん、今日こそは何かしないと。
「けど出掛けるのはちょっとな」
一日を無駄にしたくないという思いはあるものの、どうしても明日は仕事だから疲れたくないの思いが勝ってしまう。
どうしよう。悩んでいると、
シュポン。
ベットに転がるスマホにメッセが届いた。
誰からだろうとメッセージアプリを開くと、相手は中学から付き合いがある同級生からだった。
『暇』
絵文字もスタンプもない、飾り気のないメッセージに俺はつい笑ってしまう。
アイツらしい。
『んなもん知るか。俺だって暇じゃ』
『だと思った。アンタの事だからどうせベットに転がりながらスマホでも見てたんでしょ』
『うぐ......正解』
俺は兎がショックを受けているスタンプをおくる。
『まぁそう言う私も同じなんだけど』
『じゃあさ』
同級生はメッセージを二回に分けて送り、少し間ができたのち、
『アンタの住むマンションに行ってもいい?』
「え....,」
突然のメッセージに思わずスマホを落としそうになる。
俺の住む部屋は1LDKのマンションで。同級生にその事を話したことはあったが、来たことはなかった。
マンションには勿論親がいるわけもなく。
つまり同級生が来るということは、俺と同級生。
男女の2人が同じ一室にいることになるわけで。
返信にどうかえそうかと考えあぐねていると、同級生から先にメッセージがとどいてしまう。
『ダメなら別にいいけど』
「......」
相変わらずのスタンプも絵文字もない可愛げのないメッセージ。それは中学から知っている同級生と何も変わらなくて。
さっきまで考えていた事が馬鹿馬鹿しかなってきた。
いくら大人になったからといって俺とアイツがそういう仲になるわけがない。
それは向こうだってそう思っている筈だ。俺とアイツは昔から仲がいい、ただの親友。それだけで他は何もない。
きっと今悩んでいた事を伝えたら同級生はまた、子供だと馬鹿にするだろう。
俺はメッセージを送った。
『部屋散らかってるけどそれでもいいならーー』
⭐︎
「お、お邪魔しまーす」
連絡で取り合った時間よりも5分早く、同級生はマンションのベルを鳴らした。
部屋に入る際、同級生は緊張しているように見えたが、そう見えたのはきっと気のせいだ。
それを証明するように、今同級生はリラックスしてソファーに座っている。
同級生は夏に合わせ、白のノースリーブニットをブルーのデニムに入れた服装をしていた。
ノースリーブのために、同級生の細くて健康的な白い肌がいやでも目にはいってしまう。
それにニットから膨らむ二つの丘。
ダメだ、これ以上は見たらダメなやつだ。
なるべく意識しないようにして、俺はグラス2つに飲み物を注ぎ、一つを彼女に渡す。
意識しないように。意識しないように。
「ん、ありがと。お菓子てきとうに買ったから食べよ」
「お、おうサンキューな」
意識しないように、意識しないように。
俺も座って、ソファーのまえに置いたテーブルに同級生が買ってきたお菓子を並べる。
チョコ、塩チョコポテチ、チョコクッキー、竹の子の故郷ときのこの林。
テーブルが茶色に染まる。てきとうとは?
俺は思わず吹き出してしまう。
「ぷっ チョコばっかりだな」
「いいじゃん。チョコ美味しいんだから」
「いや、そうだけど、ぷっ......あはは、どんだけチョコ好きなんだよ」
「笑いすぎだから」
同級生は少しむっとした表情をしたが、それでも俺は笑いが抑えきれなかった。
笑っているとさっきまでの緊張がほぐれていく。
ああそうだ。これだ。これが俺と同級生の正しい距離感だ。
中学から変わらない、そしてこれからも変わることのない距離感だ。
「だから笑いすぎ」
ほっとしたのも束の間、脇を同級生につつかれる。
「うひゃい!」
いきなりの事で変な声が出る。プルプル震えながら、抗議の視線を向ける。
「不意打ちとは卑怯だぞ」
「笑いまくって油断だらけのアンタが悪い......ひゃっ!」
脇をつつきかえしてやると、同級生は俺と同じようにプルプル震えていた。
「不意打ちは卑怯よ」
「スキだらけのお前が悪い」
「へぇ......そう。だったら」
そこから俺と同級生の攻防戦が始まった。つつかれたらつつきかえして、またつついて。
それは童心にかえったような、男女関係も意識していないまるで小学生みたいな遊びだった。
わちゃわちゃと。
そして気づけばソファーに同級生を押し倒すような格好になっていた。
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