同級生と俺
腐った林檎
第1話
仕事終わり。
明日は休みという事もあり、俺は久々に中学校の頃の同級生と二人で居酒屋で飲んでいた。
「私ビールお代わりするけど、アンタもなんか飲む?」
同級生はすっとドリンクメニューを渡してくる。メニューを受け取る際、同級生の赤いネイルが目にうつった。
「なに?」
「いや、お前も大人になったんだなって」
俺はしみじみと呟く。
肩の所で切り揃えた髪は茶色く染まり、耳の所には小さなピアス。白くて細い腕にはピンク色の丸い腕時計をつけている。
それは明らかに学生時代とは違う姿だった。
「それはありがとう。アンタも早く大人になりなさいよ」
「なっ! 俺だってもう」
「すみません。注文いいですか?」
「俺まだ決めてないんですけど!?」
⭐︎
「っはー! 焼き鳥のタレがお酒とあうわー!」
居酒屋を後にした俺達は、まだ飲み足りないと、コンビニでストロング缶とつまみを買って公園のベンチで飲みの続きをしていた。
「おいおいそんなに飲んで大丈夫か? 明日二日酔いになっても知らないぞ」
「いいの、いいの。明日は休みなんだから。それよりもアンタもちゃんと飲みなさいよっと」
同級生は自分の飲んでいた缶を置くと、違うストロング缶をパッと取って、そのまま口をつける。
ってそれ!
「うん? どうしたの」
「お前、それ俺の飲みかけなんだけど」
同級生はぷはっと桜色の唇を離し、缶をじっと見る。そして不思議そうに、
「ああゴメン。どんな味か気になったから」
「いや、そうじゃなくて」
俺は消え入りそうな声で、
「それ、間接キスだろ」
「......はぁ〜」
同級生は俺の発言に呆れたのか盛大に溜息をついた。俺おかしな事言ったか?
「間接キスねぇ。それは確かにそうだけど、もう25だし。今更間接キスごときでドキドキなんてしないなぁ」
そう言って同級生はまた俺の酒に口をつけた。
「本当に変わったんだな」
俺は同級生に聞こえない声でそう呟いた。おいていかれたようでちょっと寂しい。
焼き鳥を食べる。
甘辛いタレが口の中で広がってお酒が欲しくなる。俺は自分の缶をーーさっきまで同級生が口をつけていた缶に手を伸ばして。
やめた。
やっぱりダメだ。どうしても間接キスを意識してしまう。
俺は同級生が言った通りまだま子供だという事だろうか。
「んんー、はぁー」
座り疲れたのか同級生は街灯の下で伸びをしていた。
薄い明かりが体のラインをうつす。きゅっと引き締まったくびれ。青いデニムは僅かに下にずれて、そこから白い下着がーー
「ぶぼぉ!」
「えっなに? どうしたの」
同級生がスタスタと近づいてくる。勿論下着が少し見えたままで。
これはあれか? わざとなのか。いわゆる見せパンという奴か?
指摘するべきなのか?
でも指摘してまた呆れられたらどうする? まだまだ子供だと思われたらどうする?
俺は迷いに迷って、結局指摘することにした。俺が耐えられない。
「見えてる」
「? 見えてるってなにが?」
「だから、ズボンから下着が見えてる」
「えーー」
同級生は自分の腰付近に視線を落として、
「み、見るな馬鹿!」
顔を赤くして怒ってきた。ファッションじゃなかったんですね。
「嘘なんで? いつから? 居酒屋でトイレ行った時かな。うわぁだったら居酒屋にいた時からちょっと見えてたってこと!?」
同級生はぶつぶつ後悔の言葉を呟きながらその場に座り込む。
俺は同級生の焦った様子を見て、不謹慎ながらもつい笑ってしまった。
きっとそれは安堵の笑いだ。
「な、なに笑ってんの」
「いや、なんでも」
「嘘。どうせまだ子供だとか思ってるんでしょ」
心を勝手によまないでほしい。
⭐︎
1日が始まる深夜0時。
俺と同級生はゴミ袋を片手に何気ない会話をしながら帰り道を歩く。
分かれ道に差し掛かった所で、同級生は足を止めた。
「私の家こっちだから」
「そっか。じゃあここでさいならだな」
「うん。またね」
「おう。またな」
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