人生の巣(3) ──とても貴重な夢
キッパータックはもう十五メートルくらいは浮上していた。彼は思う。どこまでのぼってみても、滝は滝のままだと。手を伸ばして触ってみても、くすぐったいような
やはり滝の源なんて、そんなものはないのかもしれない。空のどこにそんな砂があるというのか。天に砂場があって、誰かがすくって落としているとでもいうのか。天に砂漠があって、底が抜けて落ちてきているとでもいうのか。そんな砂場や砂漠が空にあるはずがない。
途方もなくなってきたので、キッパータックはそろそろ地上へ戻ろうと思った。サラには「わからなかった」と言うしかない。がっかりさせるかもしれないけれど。
身を小さくして座っていないといけないくらいの絨毯だったので、キッパータックの足はずっと
キッパータックは庭の砂場へと真っ逆さまに転落した。
「大丈夫か、キッパータック」
「意識は、あるか?」
黒いものから声が聞こえてくる。キッパータックは「うわあっ」と声をあげて飛び起きた。
「よしよし、意識はしっかりしているようだな」と、右側の黒い
二匹の蟻である。人間ほどの大きさだ。キッパータックは二の句が告げられず、目の前の景色がちゃんと見えてはいるが、鏡に映った逆さまを見ているときのようだった。鏡の中の世界は
「これが、意識が、あるって、顔かよ。おい、相棒よ」左側の蟻が言った。
「キッパータック、返事しろ!」と右の蟻。
「返事、できるか、生きてる、か?」と左の蟻。
「え?」ようやく
「そのような、経緯、など、我々、は、知らない」左の蟻は妙に言葉を区切ってしゃべった。「ここは、夢の、中。おまえ、眠って、る、だけ、なのだ、よ」
「夢か……そうですよね。蟻がしゃべるなんて」しゃべるカラスを知ってはいるが、なにもかもがしゃべるとはさすがに思っていないキッパータックだった。
「なにを言ってる。おまえだって蟻なんだぞ?」右の蟻が言った。
「ええ?」
慌てて足下を見て、顔を触った。手は黒くて細長い針金のようになっていた。頭には
「どうしてこんな夢を……。まあ、夢って大体変なものですが」
「そう、変で、も、ないぞ」
「ああ」言葉を区切らない方の蟻も請け合った。「ここは『人生の巣』なのだ。この夢は誰でも見られるものじゃない。おまえは運がいいんだ」
「落っこちたのに?」キッパータックは泣きそうになって言った。「僕はおそらく、二十メートルくらいの高さから落ちたんですよ?」
「だから、知らないって言ってるのに」蟻は
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