悩める大庭主たち(3) ──庭園を嫌いな人っている?
「ひどい目に遭われたんですね。おケガは?」
「特に」キッパータックは自分の体を触ってたしかめた。「
キッパータックの視線を感じて、サラはサングラスの脇にそっと手を当てた。
「サングラスをかけたままで大変失礼します。私、目が少し弱いものですから、ほとんど丸一日かけっ放しなんです」
「僕は別に構わないよ」
キッパータックが大庭主だと知ると、サラの興味は
「ぜひとも伺いたいですわ。大学もちょうど夏休みだし。全部の
「でも、なにもないところなんだ」キッパータックは頭を掻いた。
「重曹か漂白剤を飲まされて砂の下に埋められると思う。絶対行かない方がいい」とレイノルドが言った。
「私、サークルのみんなと第五番大庭には何度か行ったのですが」サラはレイノルドを見た。「こんなユニークなカラスがいたなんて知りませんでした。ミイラ男さんは孤独な
「こっちも飼われた憶えはねーし。おれの方が先に住んでたし」レイノルドはぺちゃぺちゃ水を飲んだ。
「ピッポ君のこと?」とキッパータックは訊いた。
ええ、と
サラは両手を広げて天井を見やった。
「だから」と、キッチンから岩手黔が発した。「ここをお化け屋敷にしてコメディーリリーフに変貌させようって腹積もりなのか?」
「そんなこと一言も言ってないわ。ミイラ男さんはお化けじゃないし。彼ならここをどういうふうに扱うか、意見を聞いてみたいって思ってるだけ――」
と突然、サラは激しく椅子を引くと、壁に向かって走った。
「お父さん、これなによ!」サラは壁にかかった絵の額を掴んでいた。
「福岡君の絵じゃないか。知ってるだろ」
「そうじゃなくて、なぜ私が描かれてるのかって訊いてるの」
岩手黔は娘の背中と、握られた絵の隅に描かれているサングラスの女を
「なぜって、わからん……。わかることと言えば、用もないのに庭をうろついてるやつがいて、たまたま画家の目に留まり、絵の中に閉じ込められてしまったということだ。そんなに不満か? 結構かわいく描いてもらった方だろ。なんだったら売ってやってもいいぞ?」
サラは壁からむしり取った。「いくらの価値があるってのよ。彼はプロじゃないでしょう。こんなところの風景、わざわざ描きに来なくても――」
「おい、そろそろ帰ろうぜ」レイノルドがキッパータックに言った。「これ以上待ったところでコロッケの皮が出てくることもなければ親子の殴り合いを見られるわけでもなさそうだからな。それにおまえ、庭をおっぽったままだったろ?」
「そうだった……」
キッパータックがそろそろ帰りますと告げると、サラが車で来ているので家まで送っていくと言ってくれた。ついでにキッパータックの庭を見ていきたいと言う。
レイノルドは飛んで帰ると言って、さっさと空へ飛び上がっていった。二人はサラの愛車──マルーン色の軽自動車に乗り込んだ。彼女は
「庭園が好きなの?」とキッパータックは訊いた。
「父に対する反抗の意味も込めて」サラのオレンジ色の唇がいとけない笑みを作る。「中学生のときから別れて暮らしてたから、ろくに反抗期を味わわせてやれなかったですからね。父に会う口実を設けようとしたのではないですよ? つまり……サークル仲間がうちの父の大庭を
「……」
サラはキッパータックの横顔を見た。「私、大庭主になれると思いますか?」
「え?」キッパータックは驚いた。
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