第3話 無産者としての彼女
先生が空をきり話し出す。
「無産者は大学生にならない限り、生徒たちには正しくそれが我々が認める職種に当てはまるということを伝ない決まりになっている。だから君たちの中に無産者という存在を知らない人がいても当然だ。」
つまり僕たちは選びうる一つの選択肢を知らされていなかった。
横に座る堀塚の方に向いてはなしかけようとしたが、先生のその先の言葉を聞き逃さないように、かれは前を見続けていた。
「「無産者」とは団体などに所属せず、人類の利便性の発展を目的とした諸生産活動を担わない人のことを指す。君たちの親族の中にもそういった人がいたかもしれない。ただそれを指し示す言葉を君たちはしらなかったこと、彼ら彼女らの日々がどういった者かをしらなかったからこそ、「無産者」の存在は、君たちの認識の外にあった。」
情報統制などの厳しい政策を行わず、伝わらなかったのだろうか。特に子供の頃などに教われば秘密というあまやかな誘惑によって誰かに伝えずには居られないはずだ。
「それでは彼女の自己紹介と今回は質疑応答の形式をとってもらう。」
小さく「お話しますか。」と先生はその無産者の方へ話した。
「話しましょう。」
身長は小柄で165cmよりもう少し大きいくらいで、目鼻立ちが整っており、薄く化粧が施されている。デニムのスキニーに白いTシャツ。薄緑の少し透けているシャツを羽織った出で立ちである。
先生の補助を務める生徒だと思っていたが、そうではなかったらしい。
「みなさん、おはようございます。改めて自己紹介をいたします。阪田と申します。私もこちらの大学を出ており、一度団体に所属していたものの、今は無産者として日々を過ごしています。本日は教授からはどんな話をしてもかまわないとお聞きしております。無産者という言葉を初めて聞いたという方が多数いらっしゃると思います。そこで質疑のような形で進めらさせていただければ幸いです。おすきな方から手を挙げてください。」
ほとんどの生徒が手を挙げた。
「後ろの方からどうぞ。」
様々に質問が飛び交う中、阪田さんは基本「はい」もしくは「いいえ」で答えていく。
「ご年齢はいくつでしょうか?」
「それはお答えいたしません」と頬を赤らめ、口をとがらせ、少しいじらしくしている姿は職種内容に似つかわしくない姿であった。
その後も様々な質問がでた。過去にはインフラに関わるロボットの調整及び資源調達効率化を目的とした動作の力動改善を主にしていたこと。
現在は基本家におり、散歩や読書、適度な運動と家族と過ごしているとのこと。甘いものに目がなく、特にチーズケーキが好きであること。
そして最後になぜ「無産者」になったのかという質問である。
「それについては、様々な理由があります。その中でも大きな理由は団体に所属せず、たんたんと日々を過ごすことに興味をもったことです。私たちは幼少期からキャリアに関する授業を受けてきたからこそ、生きる目標やこの命を何に費やすのかをすでに手中に納めています。そこから少し抜け出して迷いたいと思ったのです。」
体の前で手と手を合わせて、にこやかにそう言う。
迷いたいか。もう過去に迷ってきたのではないのか。教わるキャリア理論ではまず自由を前提とした上でそれぞれの趣向である、どういった働き方をしたいのか、どういう仕事内容を取り組みたいのかなどを様々な例を挙げながら初等教育から考えて行くこと似なる。答えがあるわけではなく、自分の考えを書くことが重視される。
その際にすでに悩み、その上で団体に所属することを決定したのではないだろうか。彼女の言葉に納得が行かない。
教授が改めて登壇する。
「ほかに質問はないか・・・。わかった。それでは阪田さん、ご退出を。」
拍手とともに、彼女は外へ出て行く。
生徒たちが座る机を縫って後方にある扉から出て行った。
「それでは本日の「無産者」についてと今回の阪田さんへの質疑応答でどのように感じたか、考えたか。端末の日記へ記載しておくように。もちろん記載は自由だ。」
教授の言葉と同時にチャイムがなり、おもいおもいに教科書やノートなどをまとめていく。
僕に何も言わず、堀塚はチャイムがなると同時に教室から出て行った。それほどの急ぎの用事が合ったのだろう。
これまでの職種紹介と比べ、今回の授業内容から感想を作成するにはとても薄い。けれどどのような職種にもまして「無産者」という言葉への興味がうずいた。だから比較的に楽しみにしていた私の所属するゼミの教授行う授業への出席より、もう少し無産者について知りたいという思いが勝り、教授のもとへ進んだ。
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