第2話 進む社会とその理

目が覚めた。ベッド内に内蔵された機械が、設定されたタイマーに反応し体を振動させた。早く起きればその振動も緩やかであるが、起きるまでかなりの時間がかかったのだろう、勢いよくベッドと自分自身の体が揺れていた。体を起こすとその振動はやんだ。

 起床時間、就寝時間は規則ただしく取っているものの、今日はかなりの寝坊だ。いつぶりだろうか。昨日の読書がたたったのだろう。

 眠気眼をさすりながら腕につけた小型の端末に表示された時計を見た。8時30分。学校が近いからといっても授業へ間に合うかどうか。

「今日の日本への資源分配量は90t。1日の使用量に対して90%と少し足りません。消費を抑えるようにお願いいたします。この分配量に対して政府は国際組織へ抗議を行っております。」

 いつものことでおそらく、本当の分配量より少なく報道しているんだろう。正しい証拠はないが、巷ではそう噂されているしいつもと同じ量を使用してもこの数値は一向に変わらない。

足早に洗面所へ向かう。僕の毎日の基本的行動を記録し、それに併せて洗面台が歯ブラシや洗顔剤、カミソリなどを棚にのせ提供した。座ってただ待っていれば全てをこなしてくれるのだが、若いうちは自分でやるべきだというのがモットーのため、自分で行う。

1つ1つを意識せず、流れ作業のようにすべてを終えて、台所へ向かうとすでに料理などはできあがっていた。かなりもどかしかっただろう。いつもの設定では7時30分には朝食を用意するように設定している。砂糖を1杯半入れたコーヒーとお椀に盛られたシリアル。シリアルにかけるために用意された牛乳も、お盆にのせられていたが構成機に差し戻した。  

 雲散霧消。

 すでに洗い終えられ、クローゼットにかかっている適当な服を選ぶ。青いシャツに中は白いTシャツ。黒のチノパン。教科書などが入ったリュックを手に取り、小走りで家を後にする。

エレベータで地下におりると「待ちわびたぞ」と言わんばかりに僕の個人用車がライトを点滅させており、それに呼応するように端末も光った。急いで個人用車にのった。目的地を大学に併せて出発した。道路内部に植えられたチップのセンサーを元に、正確に自分自身の位置と経路を計測し自動で向かう。

 8時50分。間に合うかどうかだが、これに乗ればもう急いでもしょうがない。リュックの中にいつも入れている本を読むしかない。

 若く20代だろうか。車の外に目を向けると男女の二人で個人用車にのってどこかへ出かける人たちがいた。微笑み合わせ何かを話していた。

うらやましい限りだ。けれど僕はまだ若いし、いざとなれば政府実施の見合いにでも出ればどうとでもなる。そう、人に危害を加える以外の何をやってもどうとでもなるのだ。そう自分に言い聞かせながら、僕はまた本の世界に戻り現実での男女経験のなさから目を背けた。

 

ぎりぎり8時55分、学校の正門前に到着した。

「See you later」

丁寧に挨拶までしてくれる愛車からおりて教室へ急いで向かう。同級の堀塚も同じく走っている姿が見えた。

「堀塚」

「おう喜里川。」

「寝坊か?」

「そうだ。」

「なぜ?」

「今の彼女と同棲しようと考えていて住居区画拡大の申請を取ろうと書類への記載などを行っていたら遅れた。俺ら自身が引っ越すこともよかった。けれど、一度申請を出してから通らなければ考えようということになった。まぁ、いざ住居拡大と引っ越しまで行けばすぐに終わるのだがな。」

「そうか。」

「お前はいつもの読書か?」

「その通り。今期の国際政治でなんとしてでも資本主義の世界観について理解しておきたいんだよ。そうしたら来期から現代に入れる。この現代からが俺の正念場になるんだ。」

 早歩きで構内を進む。 

「おれは構成機についての出力について学んでおきたいと思ってる。」

 ほかの生徒たちはすでに教室内に入っているのだろう。廊下から見える校庭では植木の周りで葉っぱを集める収集機があっちへ行ったり、こっちへ行ったりとせわしなく動いていた。

 一般道路と異なり構内は入り組んだ構造となっており、初めて来た人にはまるで迷路である。その講義は通学の面では車路からかけ離れた位置にあり、かなり奥にある講義室となる。

「こんにちは。」

 横切る収集機が挨拶をする。

 大講義室などは比較的にアクセスのよい場所にあるが、この授業は小さく昔ながらの木の匂いのする部屋である。部屋に入ると開始ぎりぎりのためか、すでに5~6名程度の生徒が席に座っている。まばらに座っているという感じだ。

 先生はというもの先に前に座り、本を読んでいる。その横にはほっそりとした生徒が座っている。

 堀塚と横に並び席に座る。

 チャイムの音。


 「それでは授業を始めます。前回の授業に引き続き、キャリア理論及びその一例もお呼びした。まずは前回のキャリア理論からはなしていく。まずはキャリア理論の歴史の続きからはなそう。」

 人間が利用する資源などがすべて国家運営のロボットによって採掘及び運搬、処理まですべてを担っている。またそれら資源を利用する製品は各家庭に設置された原子再構築装置によって食料から衣類などが生み出される。マルクスが述べた資本主義の最終形態であろうか。社会主義がこの世界では叶った、ただそれをより越えて、社会主義と自由主義の折り混ざった世界になったとでも言えよう。過去第2次世界大戦以前及びその直後ではロシアの社会主義は失敗に終わったが、200年以上この主義は保たれている。このようにして、現在の社会がなりたっており我々は国家が運用するロボットによって生存を担保されてきた。まとめるとそういうことだ。

 「生存が担保されているからこそ、君たちは自由だ。封建主義での士農工商の制度では納税としての米や様々な物品。兵士としての奉仕が求められてきた。

また資本主義では生存のためには、資本の集積が必用であった。だからこそ「~でなければならない」という理論によって自らの選択肢が狭められその中から選ぶことしかできない人達が数えられないほどいた。これまでの過去の人間に課されていたしがらみをよりそぎ落とされた状態にあると言えよう。

 これからの生活どのようなことをしても、他者に危害を加える行為を除いて許される。だからこそ、幼少期の頃からこのキャリア理論の学習や20歳を越える成人を様々な年齢、職種からランダムに選び出し君たちに見てもらってきた。君たちの心に響くものを持つ人がいただろうか。」

 何人かの生徒はうなづく。僕らはこれまでの義務教育を含め、授業で毎日1時間を使ってキャリア理論がなされる。自由だからこそ、その自由に何を見いだすのか。質問を投げかけられ続けた。

 僕は外交官がおもしろいと感じていた。ロボットの活動がこの世界の基本的インフラを支えている。自国のロボットのコントロール権を他国へ譲渡し、互いの共存性を保とうとしているわけだ。だが資源自体はその国のものであるたため、この資源の供給量をできるだけ増やすことが外交官の一つの仕事となる。

 供給の獲得はこの国にすむ人の一大事であり、そういう大きな責任をもつ仕事は一度でいいからやってみたい。

 「それでは本日お呼びした方をご紹介する。阪田さん、こちらへ。大学生にならなければこのキャリアの1例を知ることはほとんどないだろう。君たちの特権だ。」

 知ることはない?特権である?とは何のことだ。

 「自己紹介をお願いします。」

 「阪田と申します。職種は『無産者』です。」

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