第5話 おとうさんが来る日(2)
オッテの実を籠に盛って、ルシルおばさんのお菓子を焼いて、おじさんたちが仕留めてきた狩りの獲物も料理して、すっかり準備が出来た頃、おとうさんがやってきた。
おかあさんは髪に花を飾って、おとうさんのところまで駆けていって飛びついたよ。おとうさんが母屋まで歩いてくるのが待ちきれなかったんだ。おとうさんは、いっぱい持ってきたおみやげはセレタの外れで行きあったおじさんたちにもう渡してあったけど、おかあさんにあげる花束だけはまだ手に持っていたから、慌てて花束を投げ捨てておかあさんを受け止めた。傍にいたレッキおじさんが飛んできた花束を空中で受け止めて笑っていたよ。
ぼくも待ちきれなくて、おとうさんに駆け寄った。おとうさんはおかあさんを抱きしめた後、笑いながらぼくを抱き上げて肩に載せてくれた。
おとうさんからのおみやげを高々と掲げたおじさんたち、受け取り直した花束を抱えたおかあさんと一緒に、おとうさんの肩に乗って意気揚々と母屋に戻る。
どうだ、ぼくのおとうさんはカッコいいだろう! それに、すごいだろう、素晴らしい贈り物をこんなにたくさん持ってきてくれたんだよ! ああ、ぼくのおとうさんは最高だ、森一番だ!
それからみんなでおとうさんと一緒にごちそうを食べて、大人の人たちは木イチゴのお酒を飲んで、みんなで楽しく過ごしたんだ。おとうさんからもらった花を溢れるほどたくさん髪に飾ったおかあさんは、ずっととびきり楽しそうに笑ってて、明るく輝く花ざかりのマリリカの木のようだった。ああ、ぼくのおかあさんは、なんてきれいなんだろう。ぜったいに森一番の美人だぞ!
いっしょにご飯を食べたりおしゃべりしてる間、おかあさんは、まるでよちよち歩きの赤ちゃんがおかあさんにまとわりつくみたいに、ずっとおとうさんにぴったりくっついて、幸せそうだった。
ごちそうの後には、おとうさんとおかあさんが一緒に飛び跳ね踊りを踊った。息を切らして笑いながら、向い合って飛び跳ねたり、抱きあってはまた離れたり。
みんな笑いながら、一緒に踊る。ぼくも妹のリアと向き合って一緒に踊ったよ。
おとうさんがおかあさんを抱えあげてぐるぐる回れば、おかあさんの髪から花がこぼれる。おかあさんは踊りながら声を上げて笑う。笑い声が、髪からこぼれる花びらみたいに、周りじゅうにはじけ散る。
ほっぺたを薔薇色に火照らせ、瞳をきらきら輝かせて踊るおかあさんがあんまりきれいだったから、戻ってきたおかあさんに、おばさんたちが言っていた。
「まあ、リリったら、まるで恋の季節の女の子のようだわ。もしかすると、もう一度、恋の季節が来るんじゃない?」
「そうよ、もう一度、アリンと恋の季節を迎えるんじゃない?」
「同じ人と二回恋の季節を迎えることは、そんなに珍しいことじゃないしね」
「そんなわけないわ!」と、おかあさんが笑う。「私はもう三度も恋の季節を迎えたし、子供たちは三人とも元気に育っているんだもの、私には恋の季節はもう来ないわよ!」
おばさんたちはおかあさんの肩に肩をぶつけたり、おかあさんの腕を指でつついたりしながら、くすくす笑いあう。
「あら、わからないわよ。恋の季節を五回迎えた人だっているんだから。ねえ?」
ほんとかな、おかあさんに、また恋の季節が来るのかな?
そうなったら嬉しいな。だって、そうしたら、ぼくにまた弟か妹が生まれるんだもの!
おとうさんの住む沼の背のセレタは遠いから、おとうさんはうちのセレタに一晩泊まっていくことになった。
ぼくはおとうさんを、木の上の自分の寝小屋に泊めてあげた。
自分で作った自分の小屋におとうさんを泊めてあげられて、ぼくはすごく得意だった。
だって、去年の夏の小屋は、作るときに兄さんたちに少し手伝ってもらったけど、今年の小屋は全部自分一人で作ったんだもの。その小屋におとうさんを泊めてあげられるなんて、とっても嬉しい!
おとうさんはぼくの小屋を、いっぱい褒めてくれたよ。
そうしてぼくは、おとうさんの隣で寝たんだ。この部屋を作るのにどんなにがんばったかとか、もうすぐおじさんたちに狩りに連れて行ってもらえることとか、おとうさんみたいに狩りのうまい男になりたいと思ってるってこととか、もう弓矢の練習をしているってこととか、今日食べたお菓子のこととか、おかあさんがどんなにきれいかってこととか、いっぱいいっぱいおしゃべりしながら。すごく楽しかった。
それなのに、朝起きたら、おとうさんは隣にいなかった。
沼の端のセレタは遠いから、早起きしてもう帰っちゃったのかな。ぼくも寝坊しないで、もっと早く起きればよかった。でも、ゆうべはおとうさんと一緒なのが嬉しくて嬉しくて、遅くまでおしゃべりしていて、なかなか寝られなかったんだもの。
そんなふうに、ちょっと残念に思いながら縄を伝い降りて朝ごはんを食べに母屋に行ったら、おかあさんもいなくて、おばさんたちがぼくに笑って教えてくれたんだ。
「おかあさんはね、今朝早く、おとうさんと一緒に森へ行ったわ」
「おかあさんとおとうさんは、今朝、ふたり同時に恋の季節を迎えたの」
「こんなことは滅多にない、特別素敵なことなのよ。ふたり別々に自分のセレタを発って恋人の泉まで行くんじゃなくて、おなじセレタから手を取り合って恋人の泉に向かうなんて!」
「ほんとにねえ。なんて運がいいのかしら。なんて素敵な偶然かしら」
びっくりしすぎて声も出ないぼくに、おばさんたちが優しく言った。
「そんなわけで、おかあさんはしばらくいないけど、あなたはもう大きいもの、さびしくないわよね」
「それに、おかあさんは、今回はたぶん早めに帰ってくるわよ。だって、リアやリトがまだ小さいもの」
「おかあさんが帰ってくる時には、あなたに弟か妹が増えているのよ。楽しみね」
やったあ! ぼくに、おとうさんが同じ弟か妹ができるんだ!
おとうさんが違う妹のリアや弟のリトも大好きだし、普段はいっしょくたに弟とか妹とか呼んでいる、おかあさんの違う小さい子たちもみんな可愛いけど、おとうさんとおかあさんが両方同じな弟や妹がいる子なんて滅多にいないから、なんだかすごく特別な感じ。そんな特別な弟か妹を持つなんて、想像しただけで得意な気分になってくる。嬉しい気分になってくる。
ぼくはその子を、うんと可愛がるよ。
弟かな、妹かな。
弟だったら、どんぐりの独楽を作ってあげよう。妹だったら、毎日髪に飾る花を摘んできてあげよう。そして毎日いっしょに遊んであげよう。おいしい木の実を見つけたら必ず分けてあげよう。ああ、新しい赤ちゃんが来る日が、とっても楽しみだ!
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