第5話親への報告

 五、親への報告


 東京に帰ってきて、また元の生活が始まった。俺と由紀との恋愛は順調だ。たまには喧嘩をするけど、直ぐに仲直りして、いつも一緒にいる。お互いの部屋に行き来をするが、9時には帰るようにしている。何時もお父さんの声がして来て、裏切るようなまねはできない。しかし、誘惑には弱いのも事実ではあるが、負けるわけにはいかない。


「由紀ちゃん、もう9時になったよ、帰るよ。送っていくから用意して!」

「うーん、今日は疲れちゃって帰りたくないよ」

「帰りたくないってどうするつもり」

「泊まっていこうかな」

「それは駄目、お父さんからも言われてるから」

「言われているって、何を言われた?」

 「付き合いはゆっくり、結婚までは、絶対許さん、かな」

 由紀がいたずらでもするかのように、

「何が許さないの」

「それは、なんだ、あれじゃないのかな」

「あれって何よ」

「兎に角帰るの」

「ふ~ん、お父さんが怖いんだ」

「怖いんじゃ無くて、約束したから」

「そうやって、いつまでも私をほったらかしにするんだ」

「そうじゃないけど、約束だから」 

「私、お見合いしちゃおうかな」

「そんな事言うなよ」

「いつまでこのままでいるつもり?」

「君との事は、大事にしていたいんだ。だから、成り行きではしたくないんだ」

 「…」

 「俺なりのけじめをつけさせて欲しいんだけど、どうかな」

「いいわよ、薫の思う通りで」

「じゃあ、今度松島に行ってくれないか」

「松島?いいわよ」


 俺と由紀は実家、松島へ向かった。

 俺は由紀を自分の両親に合わせ、いずれ結婚をするという報告をしたうえで、由紀が家族になるという事を確認したかった。


「ただいま、こんにちわ」

「薫か、お帰り」

「おかえりなさい、薫」

「こちらを紹介して」

「佐伯 由紀です」

 由紀を見た母親は、

「お父さん、すごく可愛い人よ」

「そうか」

 薫に寄り添って由紀は両親の前に座った。

「佐伯 由紀です、よろしくお願いいたします」

「はい、こちらこそよろしく」

「ところで、こちらのお嬢さんとは、どういう関係なんだ」

「今、付き合っているんだ」

「うむ、そうか、それで今日はどうして二人で来たんだ」

「この前、彼女が実家に帰って、家を継ぐとか、お見合いの話が合った時に、一生この人と一緒にいたいって思って、それで、直ぐにはできないけど、いずれ結婚したいと思って来てもらったんだ。」

「お前にしては思い切った事を考えたもんだな」

「お前はまだ学生なんだぞ、自分で稼ぐことも出来ないんだぞ」

「それは分かってるよ、だから直ぐにじゃなくて、二人でやって行けるって思ったら結婚しよと思ってる」

「でも、お前はまだ若い、決めるのは少し早いんじゃないのか」

「お父さん、何言ってるのよ。私たちが結婚したのいくつでした?お父さんだって、就職して一年目でしたよ」

「それはそうだけどな」

「それじゃ、お父さんは若くして結婚したの後悔してるの」

「そんな事あるわけなじゃないか、母さんと結婚出来て幸せになれたんだ、良かったと思ってるよ」

 父の言葉に母が嬉しそうにわらっていた。

「薫、由紀さんおめでとう!由紀さんよろしくね」

「はい、よろしくお願いいたします」

「じゃあ由紀さん、御飯の用意手伝ってくれる?」

「はい」

 母と由紀が台所に立つ姿を見て、父がこんな事をいってきた。

「おい、薫、母さんと由紀さん何か似てないか」

 今迄考えたこともなかったが、何処がってそれは分からないが、なんとなく似ているかなという気もしていた。

「母さんに、似ているってことは、お前も直ぐに尻に敷かれるな」

「そんな事ないよ、俺は尻には敷かれないから」

「まあ頑張れよ、尻に敷かれるぐらいの方が幸せなんだぞ」

「そうなの」

「ああ、そうだよ」 

 母と由紀が料理を運んできた。

「何か聞こえましたよ、尻に敷かれるどうのこうのってね」

「そんな事言ってたかな」

「お父さん、何年一緒にいるんですか、何でもわかりますよ」

「ははは、降参、降参。なあ母さん、由紀さん、母さんに似てないか」

「やっぱり?今そう思ってたの。私の若い時にそっくりで美人でしょ」

「いや、そういう意味では」

「なあに、それじゃあ美人じゃなかったって言うの」

「おっしゃる通り、美人でした」

「分かればよろしい」

 皆の笑い声が溢れ、会ってもらって良かったと心から思った。


 その時m玄関のドアが開く音がした。 「ただ今、お腹すいちゃった。御飯は」

 妹の美智子だ。 

「なあに、お客様が見えてるのよ」

「あっ、兄貴の彼女?」

「失礼でしょ」

「ごめんさい、妹の美智子です。よろしくお願いいたします」

「佐伯 由紀です、よろしくね」

「ねえ、兄貴!何処で見つけたの?こんなに可愛い人、兄貴にはもったいないんじゃないの」

「美智、お前なあ、帰ってきた早々ひでえこと言うなあ」

 だってすごい素敵なんだもん」

「貴女のお姉さんになる人よ」

「ほんと!わあ、嬉しい。前からお姉さんがほしかったんだ。兄貴、絶対放しちゃあだめよ」

「お前なあ」

「あ~あっ、お腹すいた。御飯食べよう、ねっお姉さん」

「お姉さんはまだ早いだろ」

「いいでしょ、それとも兄貴は捕まえとく自信がないの」

「ばか、おれはなあ」

「さあ、食べようっと、いただきま~す」


「ごめんな、こんな家族で」

「ううん、とっても楽しくて、とっても素敵な家族よ」

「そうかな、ありがとう」

 美智は由紀にべったりで、俺が入り込む隙もない。少し嫉妬してしまうぐらいだ。

「美智子さん、由紀さんはお疲れよ。もうこの辺で休みましょう」

「ええ、もう?、じゃあお姉さん明日ね」

「はい、明日もね」

「嬉しい、じゃあ、布団敷いてくるね」

「由紀さん、ごめんなさいね。美智子よっぽど嬉しかったみたい。よろしくね」

「はい、私も妹が欲しかったから、妹が出来たみたいで嬉しかった」

「よかったわ、それじゃあ、もう休みましょう」

「おとうさんもよ」

「ああ、じゃあ、お休み」

「はい、お休みなさい」

 

「疲れたでしょ」

「楽しかったから全然」

「俺の部屋に行こうか」

「うん」

 部屋に入ってびっくり。何これ、布団が二組敷いてある。これには参った。

「ごめん、直ぐ布団移すから」

「いいわよ、私はここで」

「貴方のけじめだったんでしょ?もう済んだ?」

「うん、これでけじめは済んだよ」

「しかし、美智も美智だけど、親がこれ許すとわね」

「私の事認めてくれたのかしら」

「親父もお袋も喜んでたよ。娘がもう一人増えたってさ」

「良かった、私もうれしいわ」

「ねえ、由紀ちゃん、あの今日…」

「あ~あ、今日は疲れちゃって、眠くなっちゃった。もう寝ようかな」

「えっ、そんな、でも疲れたんならしょうがないか」

「嘘よ。

薫、一生私の傍にいてね、そして私を一生愛してね。これは命令よ」

 「うん、わかった」


 俺は早くも由紀ちゃんの尻に敷かれてしまいそうだ。でも、それで由紀ちゃんが幸せになれるんだったら、それでいい。それが俺と由紀ちゃんの幸せ。


                

                完







                          

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君、分かっているね 誠 育 @kktomakoiku

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