第3話君は何処?
三、君は何処?
楽しい食事の後には、また退屈なお仕事。でも、もう少し、頑張ればと手を進めた。そして終業のベル、やったー終わったー。
着替えの最中に、俺は大事な事に気が付いた。彼女は?着替えを済ませ慌てて出口に向かい彼女を探したが、何処にも居なかった。
(やべえー連絡先を訊いてなかった。これじゃもう会えないじゃないか、どうしよう)
後日、早川に頼んで再度バイトをさせてもらったのだが、彼女に会うことは出来なかった。
(あ~俺としたことが、連絡先を訊かなったなんて、馬鹿野郎だな)
その後悔で毎日、毎日、ため息の連続で腑抜けのような生活が続いていた。
そんなある日
(ん?確か彼女学校が青百合とか言ってなかたっけ?学校に探しに行けば会えるんじゃない?そうだよ、行けばいいんだよ。でも、青百合って女子大だよね、男がうろちょろしてたら怒られるんじゃないかな?でも、他に手はないし行くしかないか、よし、行こう)
こうして俺は一人青百合に向かった。駅から学校に向かう間、女の子ばっかり、怪しい奴みたいに、にやにやしながら歩いていた。警官がいたら、きっと不審尋問を受けたかもしれない。
渋谷駅に着き、米山記念堂方面に向かって10分程歩いて青百合に着いた。正門の両脇には、守衛らしき人が二人いて、学校に入る人を一人一人チェックしている。
壁沿いには、鮮やかな緑をたたえた木々が学校を覆うように植えられていた。
(これからどうやって探そうか?中には簡単には入れないだろうし、学生に聞いても分からないだろう。校門の前で彼女が出てくるのを待つしかないか?校門には守衛さんが立ってるし、あまりそばには行けないしな)。
俺は正門から少し離れた所にある銀杏の木に寄りかかり、彼女が出てくるのを待った。いくら待っても彼女が出てくる気配はなかった。やっぱり駄目か、後ろ髪をひかれる思いで帰路に着いた。
(たった一度の出会いか、やっぱり縁がなかったのかな?忘れたいけど忘れたくない、いや忘れる事など出来やしないない。また行って会う、それで駄目ならもう一度)
いつもはすぐに諦めてしまう俺なのだが、何故だか今回は諦めが悪いようだ。何度か行って見つからなかったら、諦めよう、そう思い出かけてみる。今回だけ、今回だけと言って出かけるのだが、彼女にはなかなか会えない。やっぱり無理だったんだなと思い、これで最後と青百合に出かけた。
以前と同じように、正門から少しはなれた銀杏の木に寄りかかり、彼女が出てくるのを待っていた。段々と出てくる学生の数が減ってきて、あ~あやっぱり駄目かと諦めかけていた、その時
「こら!木村 薫 二十二歳」
その声にびっくりして、
「すいません、僕はただ人を待っているだけで、決して怪しいものじゃありません?」
(何かおかしい?守衛さんの声じゃないし、女性の声だし、どうして俺の名前や年まで知っているの?)
と顔を上げてみると、そこに、もう一度会いたくて、夢にまで見ていた彼女の姿があった。
(あっ、由紀ちゃん!)
「何をしてるの?」
彼女に初めて会ってから、ほんの僅かな日数ではあったはずだが、嬉しくて思わず泣きそうになるのを必死で抑え、
「いやっこれは、その、あの、兎に角会えて良かったです。はい」
しどろもどろになりながら答えた。
「あのパン屋さんのバイトで、連絡先を訊いていなかったから、教えてもらえたらなって思って来てしまいました」
「え~っそうだったの?バイト先で連絡先も何も聞かれなかったから、終わりかなって思っていたんだけど良かった」
会えた嬉しさで、大事なことを言われていることにも気づかなかった。
(また会うためには、どうしたらいいだろう。何か言わなきゃ、一番無難なのは映画だろうか?なんでもいいから言わなきゃ)
「あの、今度、映画でも見に行かない?アクション映画で面白いのやってるって、友達が言ってたから」
「アクション映画?私、あまり見たことないけど、面白いかな?」
「きっと面白いと思うよ。だから、一緒にに行こう」
「分かったわ、いいわよ」
漸く会えた由紀との会話は、わずかな時間ではあったが、やったーと大声で叫び飛び上がりたいという気持ちではあったが、忘れないうちにと連絡先をゲットして、映画の約束をとりつけた。
新宿三丁目の駅で降り、新宿区役所方面に歩いていた。嬉しさが大きく、何か話していたと思うのだが、何を話していたのか何一つ覚えていなかった。
映画館では二人で食べようと、ポップコーンを買っていた。
「よっぽどお腹が空いていたのね」
と言われるほど、そのほとんどを一人で食べていた。誰が出ていたのか、どんな内容だったのか、ほとんど覚えていない。緊張していたみたいだ。俺って意外と純情かも。
そうして二人の付き合いが始まった。何度目かのデートの時、俺は改めて彼女に言った。
「君の事が好きです、付き合ってください」
すると彼女は
「ばかね、もう付き合ってるし、好きなことも分かってる」
そう言って、彼女の顔が近づいてきた。そして、唇に唇が触れた。
(キス?キスしちゃったの?俺のファーストキス、甘酸っぱいなんて言うけど、やわらかい唇の感触と、彼女の甘い香りが俺を包んでいた。
長い間、俺は幸せな時を過ごしていた、そう、その時までは。
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