第47話 大道芸、ナポリタン、初詣

 新春の某大社は人手が多い。

 そんなわけで三が日は大社に出かけるつもりではなかったのだけども、遠方から来た姪が「どうしても」とせがむので行かざるを得なくなった。


 まあ初詣というのは人の密なることこの上ない。

 一時期はこれほどの人間が集まることを制限されたこともあった。

 今は原因の流行病がおさまったので、別に黒山の人だかりができようと気にしたことではない。

 だがそれにしても、人が多すぎる。

 げんなりする。


 ともあれ、大社にお詣りし、駐車場へ戻る最中のことだった。

 

「何だろ、あれ!」


 姪の指差す方向を見ると、大道芸人がいた。

 一目でわかったわけではない。

 普通にジーンズにジャンパーを着た、どこにでもいる青年が一人立っているだけ。

 まあ大体そこには大道芸をやる連中がいる、そして人が集まっている、というぼんやりとした理解からひねり出した推測だ。

 

「ちょっと見てみようよ」


 姪が言うので仕方なく集団の後ろに行って、青年が何をするか見物することになった。

 しかし、大道芸であろうが青年は一体どんなものをするのだろうか。

 道具の類いは見受けられない。

 服装もさっきのとおり代わり映えがしない。

 手にしているのは屋台で売っていたパック詰めのナポリタンだけ。

 首をかしげる人も何人か見受けられる。

 にも関わらずそれなりの人間が彼の前に集っているのは、サクラがだいぶいるのだろう。

 

 と、青年はパックを開けた。

 途端に、ナポリタンの麺と具とがふわふわと浮かびはじめたではないか。

 どういう仕組みなのか全くわからない。

 大勢の人間が宙に浮くナポリタンを見て声を上げる。


 青年がジャンパーの中に手を突っ込む。

 と、またナポリタンのパックが現れる。

 開く。ナポリタンが浮かんでいく。

 赤い麺とピーマンが風に揺られる。

 人々は驚く。


 さらに青年がジャンパーに手を入れると、またしてもナポリタンパックが取り出され、宙に浮かべられていく。

 これを十度くらい繰り返し、青年は満足気に微笑んで去っていった。


 一体何がしたかったのか?

 それはわからない。

 なぜナポリタンを浮かべたのか、ナポリタンでなければならなかったのか、そこでさえわからないのだから、どうしようもないのだ。

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