第33話 蜂、家主、箱
今年が去りゆこうとする雪の降る夜、三人の黒い外套を着た男たちが歩いていた。
速足である。
こういう類の連中は人にぶつかっても謝らず、目的を遂行せんとばかりに無視して行く。
だが、三人は違った。
そもそも、ぶつからないのである。
群れる人が少ないからではない。
むしろ例年より多いのだ。
にもかかわらず、彼らは何の障害もないかのように進んでいる。
一体彼らは何者なのか。
三人は古い安アパートの前で立ち止まった。
すると、待ち受けていたかのようにドアが開く。
いや、倒れたというべきだ。
木片と埃と塵が舞う中に三人が飛び込む。
そこへ家主の老人が顔を出した。
ボロのドアとはいえ、音はひどく響いたのだ。
「なんだあんたら!」
怒鳴る老人はすぐに沈黙した。
件の三人のうち二人が膨れ上がっていくのである。
袖からは何か蜂のような生き物が飛び出していく。
そのまま膨らみ続けていくかと思いきや、急速にしぼんでゆき、外套と服だけが残された。
残った男が老人に問いかける。
「三階、五号室の男はまだ住んでいるか?」
「あ、ああああ……」
「おびえるな。答えろ」
「あ、あああ」
「口がきけないなら首を使え。わかるな?」
老人は呻くだけだ。
残った男は眉をひそめ、一匹の蜂めいた生き物を手に握ると、家主の口へと有無を言わせず突っ込む。
異物を吐きだそうとする老人を、男は押し倒して口をふさぐ。
哀れにも家主は泡を吐いた。それでも男は許そうとしない。
老人の口から虫の足がいくつも伸びてきたころになって、ようやく男は手を放し、蜂をつかんだ。
階段に足をかけ、三階へと速足で上がっていく。
家主は息絶えていた。
異変に気付いて飛び出した安アパートの住人も同様の運命をたどった。
生き残ったのは寝ていた者か、おびえて外へ出なかった者だけである。
男は三階五号室の前に立った。
途端に凄まじい勢いでドアが開く。
火球がいくつも飛び出す。
しかし男は意に介さず、蜂を何千匹と伴って入っていく。
室内には、息の上がった痩せた男がいた。
病人なのか、ベッドから出ようとしない。
「定められたことからは逃げられぬ」
言うと、侵入者の男は痩せた男に蜂を飲みこませる。
抵抗する痩せた男。
しかし、やはり家主の老人同様、侵入者は容赦しない。
痩せた男の口をふさぎ、押さえつけ続ける。
やがて痩せた男の口からも蜂の足が何本も伸びたとき、ようやく彼を解放した。
数分後、安アパートから去る三人の男がいた。
件の連中である。
目的は成ったのか、と思いきや、いら立った様子で、
「櫃はなかった。ならばどこへ?」
と主犯の男が呟いた。
続く二人は沈黙したまま彼に続く。
この都市を脅かす、恐るべき事件はここに始まったのである。
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