第25話 蝙蝠、黒、織機

 快傑ムルシエラゴについて知りたい?

 いいだろう、それなら一杯飲もうじゃないか。

 なにしろこいつはトーキー一本作る価値は確実にある物語だからな。


 その昔、カリフォルニアがイギリス領だったころ、各都市、各村の統治は金持ちに任されていた。

 まあ、そんなわけで不正がまかり通っていたわけさ。


 たとえば、ロバート・ロビンソンって成金がいた。

 そいつは大食いでも知られてたんだが、毎度毎度サルーンに出かけちゃツケにして帰ってた。

 ある日、トサカに来たバーテンがショットガン片手に金を取りに行ったわけだ。

 するとどうなったと思う?

 バーテンは吊るされてた。

「この者、強欲の罪により裁かれり」なんて張り紙もつけられてな。


 あるいは強盗も盛んだった。

 義賊といいながら農民を襲う奴はいくらでもいたのさ。


 そんな中で、快傑ムルシエラゴは確実に義賊と呼べる連中の代表格というわけだ。

 ムルシエラゴはスペイン語で蝙蝠って意味さ。

 実のところ、英領カリフォルニアの木っ端役人がその正体だったんだが、それだけでは終わらない。

 メキシコ帝国のスパイでもあった。

 

 ん? なに? 時間がないから手短に、って?


 困ったなあ、ムルシエラゴに関しちゃいくらでも……ああ、織物工場の話なんかどうだ。


 とある織物工場の旦那が悩まされていた。

 毎日、Iの白文字が書いてある黒地の手袋が届いていてね。

 この旦那は秘密結社・独立党インディペンデンスの一員でもあったから、そいつがバラされるとやばい。

 明らかに黒い手袋はそいつをゆする脅迫状ブラックレターだったわけさ。


 まあ、こいつの始末をつけたのがムルシエラゴだ。


 どうやったかって?


 英領カリフォルニア政府には強奪組織インフェルノが存在し、予告状がわりに黒い手袋を送るっていう噂を流したのさ。


 そんな手で、と思うかもしれないが案外効いたのさ。


 どうだい、面白い……えっ、そうでもない?


 そんなー。

 

 

 

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