第9話 落ち葉、増える、電車
北御禁猟区の広大な森を抜けようとして、三日が経った。
秋も終わりに差し掛かっていなければ、この三日間はより大変な旅路になっていただろう。
春はまだいいとしても、夏の御禁猟の森は、鬱蒼とした落葉樹と凶暴な獣で安全とは言えない。
秋は茸の季節だ。それ以外にも木の実が手に入る。
低木から各種ベリーを、朽木から可食茸をいただきながら、進んでいく。
森を抜けるには旧共和国の廃墟群を通っていくのが安全だ。
ただし、比較的、という言葉が頭につくが。
そう考えるうちに、目の前で旧共和国のビルが崩れた。
崩れ方は完全にではないにしろ、かなり大きなコンクリート塊が落ちていく。
大通り跡でなければ相当に危険だった。
幸いにも私からはだいぶ距離のあるビルだったので、落下した破片や飛び散る欠片などに当たらずに済んだ。
彼奴はどこへ逃げ込んだのか。
御禁猟区に入った以上、銃は使えない。
大公の御印が得られなかった以上、スリングと近接武器しか頼りにできない。
彼奴の逃げ込んだ場所によっては、相打ち覚悟で挑むべきだろう。
旧共和国の地下鉄道駅への入り口を見つけた。
どこにでもあるものだが、獣の骨が散乱している。
密猟者は判断が鈍いらしく、鉛弾がいくつか混じっていた。
……ここは入っていくしかあるまい。
落葉と骨、獣の皮。あるいは腐った臓器。
地下鉄道の中は不潔だった。
何度か山刀でサルコウモリを殺さねばならないほどだ。
大公の御印がなくても狩ってよい獣ではあるが、あまりやりすぎると御狩場の番人も寄って来るだろう。
「それにしては……」
あの入り口の骨の山は迂闊に過ぎる。
御狩場の番人に気づかれるはずだ。
そう考えていたとき、あれが罠ではないかと思いついた。
ただの思いつきなら放置しただろう。
しかし、眼前の番人の死体を見ては、捨て去っていい考えではなくなった。
「KIEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
奇声が聞こえた。
素早く山刀を構えると、そこには、
「食人嗜好者か!」
「お、お、お、おんな! お、お、お、おっきい! むねも、しりも、でかい!」
「……」
「く、くいで、ありそうだ! おとこは、まずい! おまえ、ころす、たべ……」
言い終える前に、敵の方向へ投擲用ナイフを飛ばした。
軌道は大きく曲がった。
「は、は、はずれ! へたくそ! おいしそう、うまそ……ぐああ!」
外したはずのナイフはブーメランめいて曲がり、食人嗜好者の首に突き刺さる。
敵は即死。
だが油断はできない。
食人嗜好者は群れを作っている可能性もある……。
私は、より慎重に進むことにした。
そのあとのことは拍子抜けするほど簡単に進んだ。
廃電車の中で食人嗜好者の群れにかち合ったものの、不意をついてすぐに殲滅し、奴らの食べかすから彼奴の遺品が見つかった。
暗殺用黄金銃。
携帯性と装飾性に優れた奇妙な代物。彼奴の代名詞でもある。
あの悪党もこんな終わりは不本意だったろう。
黄金銃をバッグに入れると、私は家路に就く。
御狩場の番人に会えれば、この銃を渡して大公への報告を代行してもらおう。
今回も疲れた。ゆっくり眠るとしよう……。
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