第6話 熊、命令、系図

 乾ききった青空!

 荒れ果てた大地!

 爆音渦巻く戦場!

 

 この戦争が始まってから二年も経つ。

 木々も水源も皆枯れ果て、ただ乾きに強い植物だけが生き残っている。


 私の目の前で、味方の戦闘用車両が三台まとめて爆発した。

 重装甲を誇っていたはずの改造中古トラック。

 やつらは一度に仲良く消え去った。

 もうここに身を守れるものはない。


 急いで逃げるべきだ。

 部下たちも慌てている。

 だがバイクはわずかしかない。

 すぐさま争奪戦が始まった。


 我々の基本装備は棍棒と投石器だ。

 文明の利器、現代兵器は先ほど全滅した。

 ならば、ここで起きる争奪戦は?


「キエエエエエエエエエ!!」

「ホアアアアアアアアア!!」

 部下たちは情けない奇声を上げ、殴り合う。

 そこらかしこで上がる血しぶき!


 私は死んだふりをしてやり過ごすことにした。

 実は拳銃を一丁だけ個人的に持っている。

 しかし旧式化しており、当たるかどうかも不透明だ。

 それゆえ、ある程度部下が減るまで待つのみ。


 結果的に、私の作戦は成功した。

 部下は全滅している。

 敵軍も先ほど、ミサイルを完全に撃ち尽くしたらしい。

 残るは二台のバイクだけだ。


 血の池ができているものの、これがいつまで残るだろうか。

 そう思いつつ私はバイクに乗る。

 燃料はだいぶある。

 これなら安全地帯まで逃げられるかもしれない。

 エンジンをかけた、その瞬間である!


「ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


「バイオグリズリーか!! 畜生!!」


 敵軍がミサイル以外にもこんな生物兵器を用意していたとは!

 バイオグリズリーは十頭!

 急いで逃げなければ死は必然!


「ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


 バイオグリズリーが叫ぶ!

 バイクを駆り、私は味方の基地まで逃走を開始!

 熊どもとの距離はおよそ二百メートル!

 急がなければ追いつかれる!


「ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオエッ!!」


 バイオグリズリーがえづく!

 異変に嫌な予感を覚えた私は振り向いた。


「ゲエーッ!? バイオライフル!!」


 おお見よ!

 バイオグリズリーの口からグロテスクなグリーンの筒状臓器が突出!

 あれこそ恐るべき兵器、バイオライフル。

 生命力を消費して酸を放つそれは、以前私の部隊を三度も壊滅させたのである!


 しかし敵軍の技術がここまで上がっていたとは気づかなかった。

 バイオグリズリーへのビーム兵器搭載は以前に何度か見たものの、こんな事態は初めてである。

 味方の研究者によると、バイオライフルの射程は約五百メートルと推測。

 うまくやらないと死!


 私は運の無さを呪った。通信装置も無い。兵器も無い。

 棍棒と投石器だけではバイオグリズリーを殺せはしない!


 とはいえ、勝機がないでもない。

 やつらの知能は通常の熊よりも低い。

 つまり、いくら生命の木の系図をいじろうとも、命令を完遂できるほどではない。

 さらに、バイオライフルを突出させ生命力の消費を上げたためだろう、走行スピードがだいぶ落ちてきている。

 そしてすでに二頭が倒れ、ぐったりとしていた。


 このまま逃げ切れば。

 生存の可能性はある!

 私は希望と警戒という二つの感情の手綱を取り、バイクを駆った。

 途中、何度かバイオライフルの酸が発射されたものの、運良く当たらずに済んだ。


 時刻は夜七時となった。

 バイオグリズリーは、生命力の消費が激しいために、もはや追ってきていない。

 バイクにはまだ燃料が十分にある。

「部下たちは名誉の戦死をとげた」と、嘘の報告をもっともらしく伝えられるよう、私は思考を切り替えた。

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