第2話 ドイルの『世界』
するとドイルの右手に
「どうしても殺したい理由があるとしても、私としては見過ごせない。任せてくれないかな? この城の中であれば、私も十分に戦える」
やろうと思えばタスク、それどころかラヴちゃんまでもを追い詰める事が可能だと言わんばかりの態度。しかしラヴちゃんは譲れなかった。ここでタスクを生きて逃してしまえば、自身の正体が公になるのも時間の問題。
「いえ、ドイル様の助力は結構です。全てわたくしが片付けますので」
「拒否の意を示そう」
するとドイルは指を鳴らす。突然に床が隆起したかと思うと人の形へと変わっていき動き出した。それらの数は200にもおよび、そのうち30がタスクを取り囲む。人の形をしているだけの白い物体は不気味だ。
「タスクを保護し、保安局の本部へと連れて行ってほしい。それまでに邪魔を仕掛けてくる者には決して奪われないよう、頑張って」
この声はタスクにも聞こえていた。抵抗はせず連行されていく。残りの170体を背後に並ばせたドイルは改めてラヴちゃんに問う。
「その傷、タスク1人に負わされたとは思えない。ラヴちゃんならタスクを相手しても無傷で倒せるよね? 何があったか話してもらわないと」
「……ドイル様を傷つけたくはなかったのですが」
それでも答えないラヴちゃん。ドイルへの殺意は無かったものの、自らの目的のため。この場を乗り切るため。右手で刀剣を握り、痛む左腕で鉤爪を構え、背負うランドセルが揺れた。鍵盤ハーモニカは相変わらずそばに浮いている。
「通してもらいましょう」
*
世界政府本部の駐車場に大型トレーラーが荒々しく入ると、枠線を考慮せず玄関の真正面に停まった。
「【INSIDE】!」
「【KINGDOM・KNIGHT MODE】!」
トレーラーから飛び降りるイーサンとダムラント。ボートおよび植物の鎧と槍の重量で着地の衝撃が響く。続いて警察官の男と武闘派の女も飛び降りエントランスに入っていった。何やら人混みが騒がしく、突如現れた白い人形達に職員達も戸惑っているようだった。
「この白人形……ドイルさんのか」
イーサン達が向かってきた事に、受付の女性スタッフが気づくと助けを求めるように状況の説明を始める。
「み、皆さん! そうですね、ドイルさんの力……赤い髪の女性を囲んでどこかに連れていく途中のようです」
「赤い髪……おい、そこに居るのはタスクか!?」
円陣を組んで歩いている人形達に問いかけると、すぐに答えは帰ってきた。
「あ、イーサン? ちょっとこいつら倒してくれない? ラヴちゃんとドイルが奥で戦ってる。多分早めに向かった方が良い」
「了解した! 行くぞ」
イーサン達はドイルのこの力を知っている。余程の緊急事態でなければ使用しないドイルの真の力が顕になっている。やろうと思えばこの“城”を攻撃的な要塞にする事も可能なドイルの【WORLD】だ。兵士として利用できる白人形のみとはいえ、一同に緊張が走る。
白人形達は一斉に
「ワタシ達にとっちゃこのくらいのハンデ安すぎ! そうでしょダムにぃ!」
「油断はしないでよ。こいつらは絶対に“倒せない”存在なんスから」
ドイルの力によって創り出された兵士は、ドイルの意識が潰えない限り与えられた命令に従い続け止まる事はない。傷が増えても再生し、例え【INSIDE】で内部を破壊しても多少の時間稼ぎができるだけ。
「本職達で穴を空けるっス。その隙に局長はタスクと一緒にラヴちゃんのところへ。彼女に有効打を与えられそうなのは【INSIDE】の能力くらいっスからね」
「そうさせてもらう!」
ダムラントの策に乗った。警察官の男と武闘派の女と同時に、ダムラントは白人形へ突撃した。彼の鎧は
武闘派の女の持つ能力は“無機物の時間を巻き戻せる”もの。白人形も無機物の判定であり、彼女にも攻撃は届かない。
警察官の男はその卓越した格闘術で白人形の関節を一時的に機能停止へと追い込み、色の力を使わずとも圧倒していた。
それぞれが10体を相手取りタスクを自由の身にする事に成功。創り出した水の道を爆走する【INSIDE】が近づくとタスクはイーサンの背後に飛び乗った。
「急ぐぞタスク」
「ありがとね。どうして無事だったのかは知らないけど」
「ラディが『MINE』を裏切ったらしい。おかげで俺達は死なずにすんだ。あと、ロック達がナイドを倒してくれた」
「なるほどね。確かにラディはウチが見た限りでも親しい相手はジャムだけって感じだったし……あと、モントは今どうなのか聞いた?」
すると返答に困ったイーサンは黙ってしまった。事実を言うか嘘をつくか。だが何も言わなかった事でタスクの中にあった疑惑は確信に変わった。
「そっか。モントは……」
「すまなかった。俺が電話に出たせいで」
「そんなこと言わないで。ラヴちゃんに手も足も出なかったウチにも……きっと。責任はある。だから、もう何も言わないで」
珍しく震えた声だった。そしてイーサンの背中に抱きつく。心情を察したイーサンはやはり何も言わず、タスクの身体の鼓動を静かに感じた。
「ドイルさんだけが戦っている訳じゃないはずだ。警備部隊も配置されてある。いくらマイの付き人と言えど、多数の精鋭には敵わない」
話題を変え希望的観測を話すイーサン。しかしラヴちゃんの“愛”はひと味どころではない程に違うもの。彼の予想が外れている光景は、すぐそこに迫っていた。
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