第10章 哀しい、瞬間

第1話 ドイルのドール

 高速道路を走る大型トレーラー、それに牽引されているコンテナの上で佇む4人。イーサン、ダムラント、そして『水色』の警察官、『ピンク色』の武闘派の女。彼らはラヴちゃんを倒すため廃工場へ向かおうとはしていたが、高速道路は一本道で逆走は許されない。次の出口を待つしかなかった。

 するとダムラントのスマートフォンに着信が。ロックからだ。素早く耳に当て現状の把握を急いだ。


「ダ、ダムラントさん!」

「どうしたっスか? 本職達はひとまず無事だけれど」

「それは……良かったです。あの、俺達はナイドを倒しました。殺してはいないです」

「ナイドを? よくやった。ありがとう」


 ロックの声はダムラント以外の3人には聞こえていなかったものの、ダムラントの発言と態度でナイドの撃退を察した。


「ラヴちゃんは、能力で世界政府本部に移動したみたいです」

「なるほど。なら本職達が向かうべきはそこっスね。負傷者はいないかい? 救護班の手配はしてやれると思うっスけど」

「あ、その…………モントが」

「モントが?」

「……ラヴちゃんとの戦いで、殺されました」


 電話越しでも分かる震えた声。決して嘘ではないと確信したダムラントは自らの力不足を嘆いた。


「ごめん。本職達が瞬間移動させられなければこんな事にはならなかったはず。それに、もうこれ以上君達から犠牲を出したくはない…………とは言っても、聞かないか」

「……はい。恐らくタスクもラヴちゃんと一緒に本部に移動させられたと思います。俺達も、向かってます」

「本職達の方が早く着く。君達が来た時には、全てが終わってるはずっスよ」


 優しく宥める彼の発言で通話は終わった。作り笑いが消え、決意の表情でイーサン達の方に向く。


「モントが、ラヴちゃんに殺されたらしい」

「な、なんだと!? あいつが、本当か?」

「……本職達が着いていながら、こんな事になるなんて。保護者ヅラしてたのが恥ずかしくなってくるっス」


 帽子を深く被り目元を隠したダムラント。本気の後悔は明らかで、イーサンも同じく自分を責めるように歯を食いしばり拳も握りしめる。


「それで、ラヴちゃんは世界政府の本部に瞬間移動していったみたいで。タスクも巻き込まれたとのことっス」

「そうか……タスクも死なせる訳にはいかない。向かうぞ!」


 以前はタスクと敵対していたイーサンだったが、今の彼にとってはタスクも守るべき対象。更なる犠牲は出したくないという想いは他の3人も同じ。警察官の男、武闘派の女も頷いた。



 *



 軽トラであるレイジの人形ドール【RAGE OF ANGER】は速度の制限を守りながら走っていた。世界政府本部への道は既にレイジの頭に叩き込まれている。助手席には誰も座っていない。荷台の方にロック、ナイア、マイの3人が乗っていた。冬の空気によって心だけでなく身体も冷やされてしまう。ラディは同行していない。ナイドのために呼んだ救急隊員への説明も必要だからだ。


「なぁ、マイ。その……ラヴちゃんは」

「まだ信じきれてない。ラヴちゃんが、本当に『MINE』のリーダーだったなんて。でも……モントがあんなことになってたのは、そういうこと、なんだよね……」


 ロック達は戦闘の場を見ていなかったが、メンバーであったラディが現場を見て判断していた事も証拠となり得る。


「やっと、私と同じような境遇の人。モントが見つかって……仲良く、なれたと思ったのに。どうしてラヴちゃんが……どうして……!」


 あの廃工場に誘い込む口実としても使われていたマイは心が疲弊しきっていた。幼い頃から信じていた、頼りになる存在が裏切っていたという事実。その気持ちを最も理解できるのはナイアだ。


(兄さんの本音にショックを受けた時の私も同じように悲しんだ……でも、同情なんて今は)


 しかしナイドとの確執はつい先程ある程度の決着はついた。今ここで慰めの言葉を送っても、自身とマイの現状の違いを突きつけるだけだと感じたようで、何も話さなかった。気まずい空気のまま、今度はロックが口を開く。


「俺達がやるべきなのは、とにかくタスクを助ける事だ。ラディの言う通りラヴちゃんと一緒に世界政府本部……ドイルさんのところに移動させられたのなら、すぐには殺されないはず」

「パパはきっとラヴちゃんを止めようとするし……ラヴちゃんもパパを斬るなんてできないと思う。だってパパの人形ドールは──」



 *



「これはどういうことだい? ラヴちゃん」


 世界政府本部の広大なエントランスにて。ラヴちゃんとタスクの間に立つドイルは説明を求めた。ラヴちゃんの能力についてはドイルも今の今まで知り得ていなかった。そして何故かタスクと戦闘を行っていた様子に、彼も困惑の意を示す。


「申し訳ありませんドイル様。タスクはわたくし達をあろうことか殺そうとしてきたので……咄嗟に避難してまいりました」


殺意を抱かれ、避難してきたのは事実。本音とみなされ木刀は刀剣へと変形した。


「は? 何言ってんの……それはこっちのセリフでしょ」

「タスクは未だに『MINE』に従っているのです。救援の要請を願いたいものですが」


 ラヴちゃんは身体のあちこちに傷を負っており、中でも左腕の出血は酷かった。タスクの方は頭から血を流していてどちらも痛々しい。


「いやいや、身柄を拘束するだけならラヴちゃんだけで十分じゃないかな。まさか殺そうなんて考えてないよね? この、私の“城”の中で」


 タスクに背を向けたドイルはラヴちゃんの前に立ちはだかる。すると、まるで地震が起きたかのように世界政府本部が揺れ始めた。ドイルの人形ドールは規格外。そう、この建物自体が。


「私の世界……【WORLD】だ」


 マイのものと同じ名を持つ、世界の頂点に立つ男の人形ドール

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