第2話 くるおしいさぎ
廃工場にやって来た一同の目に飛び込んできたのは、塀にもたれかかり眠たそうにするマイだった。周辺に人の気配はなく、居るはずの警察官達の姿も見当たらない。これだけでも不測の事態が起きているのは確実で、ひとまずマイに状況を聞こうとイーサンが駆け寄る。
「おい、お前の付き人はどこに行った? というかまだ昼なのにそんなに眠いか」
「イー、サン……? なんかね、急に眠たくなって……ラヴちゃんは、先に行っちゃって──」
「……レイジの軽トラで寝かせといた方が良さそうだな」
眠気が限界となったのか、身体が崩れ落ちようとしたところをイーサンが受け止めた。そのまま抱きかかえ軽トラ【RAGE OF ANGER】の助手席に乗せられる。運転席にはレイジが座った。
「俺が見守っとくで」
マイをラヴちゃんから遠ざける目的は達成した。不自然なくらいに。すやすやと眠るマイは無防備で、ラヴちゃんがそんな状態のマイを放っておいて先に行く。これも不自然だった。
「本当にこのまま、行っていいんでしょうか」
不安を感じ取ったモントが問う。ロックとナイア、タスクも同様で、イーサンとダムラントに視線を向けた。
「ここで捜査してるはずの警察達がなぜか消えてる。行くしかないだろ」
「何かあっても本職が必ず守るっスよ」
2人は勇敢な姿勢を見せるが、もしラヴちゃんと敵対する事となった場合。ロック達の力も借りなければ彼女には敵わないと知っているからだ。4人にも来てもらわなければ勝算はない。
「……分かりました。俺達も行きます」
「わぁ勝手に決められた。ま、ウチとしても断る理由はないんだけど」
不安の気持ちはあるものの、立ち止まったり逃げ帰ってしまえば何も得られない。ナイアとモントも頷き、6人は廃工場内部へと歩き出していく。
*
キーネが死んでいたあの場所に足を踏み入れる。扉は開けっ放しだった。警察が捜査した痕跡もそのままで、黒い番号札である鑑識標識も置いたまま、人の気配は消え去っている。
「……やはり、来ましたか」
しかし、ラヴちゃんがただ1人のみそこに存在していた。残されたキーネの血痕に人差し指を擦り付け、舌で味わい舐めとる。常軌を逸した行動にただならぬ不穏を感じ取ったイーサンとダムラント、タスクが前に出た。
「どういうことだマイの付き人。なぜ他に誰もいない」
「争った形跡もなし、突然消えたみたいっス」
「……ウチらが前に出るからナイア、お願いね」
事前に練っていた作戦の通り、最後尾のナイアが質問をし他でラヴちゃんを抑え込むフォーメーション。ロックとモントもポケットの中に手を突っ込みカプセルを握った。臨戦態勢は整っている。
「ラヴちゃん……あなたは『MINE』の……リーダーなの?」
直後。ラヴちゃんの目線はナイアを掴んで離さなくなった。するとイーサンとダムラントのスマートフォンが突如鳴り響く。
「なんだってんだこんな時に!」
「ドイル様……?」
2人はラヴちゃんへの警戒を続けたまま耳に当てた。着信はドイルからのようで、彼の言葉が2人の耳に入った──瞬間。
「あぁもしもし。そっちはどうだい? こっちは高速道路を走行中だよ……これでいいのかな? ラヴちゃんに言われた通り」
ドイルの穏やかな声だった。そしてイーサンとダムラントはオレンジ色の光と共に、跡形もなく消失した。突然の出来事にロック達は呆然とするだけ。頼りになる大人の2人が、消えた。
「ナイア様……質問にお答えしましょう」
笑顔を浮かべるラヴちゃんはカプセルを取り出し【SAMURAI】を出現させた。質問に本音で答えれば、真剣へと近づいていくその力が利用される。
「わたくしがリーダーです。間違いはなく」
おもちゃの刀剣は模擬刀となった。咄嗟に
「【ROCKING’OUT】!」
出現したバイクによって無事に弾丸は防がれる。ナイア、モント、タスクの3人も
「今日こそだよ。僕が勝って、全てが終わる日は」
「どう、して兄さんがっ……本当にラヴちゃんがリーダーで……イーサン局長達は!?」
ナイアはパニック寸前だったが、自転車を腕に装備し車輪は回し続けた。震えながらも防衛本能が働いている。
「ぼ、僕とタスクさんがラヴちゃんさんの相手をします」
ナイアを落ち着かせるため、モントはひとまずの自己主張。タスクと並び立つとラヴちゃんと見つめ合う。モントは未だに現実味を感じられていなかった。本当に、ラヴちゃんがリーダーなのかと。
「本当のことですよ。現に、この【SAMURAI】は模擬刀となりましたから」
「これこそ四面楚歌かもね。でもまぁ、やるしかないか」
珍しく冷や汗をかいたタスクは溜め息も吐いていた。ナイドと対峙するロック、ナイアとは背中合わせとなる。
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