第9章 哀しい、本音

第1話 朝顔

「……なるほどな。お前らのやりたいことはだいたいわかった」

「それにしてもラヴちゃんが『MINE』のリーダーかもしれない、って可能性っスか」


 正午の会議室。椅子に座るイーサンとダムラント両名および扉にもたれかかるタスクに、ロック、ナイア、モント、レイジの4人はラヴちゃんへの疑いの根拠を説明した。彼女が話していた“謎の武装集団”が本音ではなかった事、ジャムに助けられ『MINE』を作り上げた可能性があるかもしれないという事。憶測からくる推理だがイーサン達は黙って聞いてくれていた。


「それだと俺達が14年前、マイ達の孤児院に行った時。ジャムと……キーネと共に『MINE』を立ち上げたことになるな」

「でも、話によればキーネを殺したナイドにラディは反抗してたんスよね? ナイドの性格を考えればキーネを始末しようとするのも分からなくはないんスけど、リーダーとあろう者がそれを許すとは……。部下の管理が粗雑なんスね。誰かさんみたいに」

「ダムラント……なんで俺を見ながら言ってるんだ」


 ニヤニヤしているダムラントの言う通り、ラヴちゃんがリーダーだとすると、グループ創設メンバーであり旧知の仲のキーネを簡単に死なせるという事態は粗雑と言われても仕方がない。

 いまいち緊張感のない彼らに、ナイアは自らの策を告げる。


「私がラヴちゃんに“貴女は『MINE』のリーダーなのか”って質問をします。それで、全部わかりますから……」

「了解した。あいつが本当にリーダーなら、俺達全員でかからなきゃ話にならないだろうな」

「それは本職もよく知ってるっス」


 昨日にラヴちゃんとタスクの2人を相手取ったダムラントが頷いた。そして扉の前に立つタスクに顔を向ける。


「……ん? あぁ、確かにウチもあのラヴちゃんは相当強いと思うよ。色んな力隠してるっぽいし」


 以前から見せていた【SAMURAI】だけでなく、昨日は鉤爪の【LIONS】も使用していた。タスクの推察が正しければ、ラヴちゃんはマイから借りている複数の力を自由に扱い、戦う事のできる強者。


「ラヴちゃんを囲むのは本職と局長、それにタスクの3人で。少し離れた場所から、更にロックとモントの後ろでナイアは質問してほしいっス。あとレイジには、マイ様をラヴちゃんから遠ざける役目を担ってほしいんスよ」

「お、俺なんか?」

「とりあえずなんでもいいんで理由つけて。マイ様がいたら、色々とめんどくさそうなんで」


 イーサン達からモントをかばった時のように、マイは想定外の行動を取ってしまう可能性がある。長い付き合いのラヴちゃんなら尚更だ。想定外の事態が起こる可能性は、なるべく排除しておきたいとの考え。


「ところで、その2人は今どこに居るんスかね」

「確かマイちゃん達、さっき出かけていったんです……私がマイちゃんに連絡してみますね」


 キーネが殺された直後の外出はあからさまに怪しい。ナイドやラディとの待ち合わせも考えられるが、マイを連れて行くのは相当にリスクの高い行動。


「あ、返信きました…………昨日の、廃工場に向かってるらしいです。マイちゃんが、キーネさんの死に向き合いたいから、って」


 その場の全員に緊張が走った。警察が現場保存や捜査を行っているであろう廃工場に。マイは嘘をついていないと見受けられるが、ラヴちゃんへの疑いが加速する。


「俺達も行くぞ。確か今、あそこには」

「はい。昨日も協力してくれたあいつが」


 水色の力を持つ、警察官の男が廃工場で捜査していた。昨日と同じく彼と連絡を取りながら向かおうと一同は走り出した。



 *



 年の初めに遡る。1月1日はマイの誕生日。国内でも最大級の寺院に、ラヴちゃんと共に足を運んでいた。髪型も変えており所々の毛束を跳ねさせ、薄紫色の着物を着て張り切っている。美しい朝顔の柄もマイ自身気に入ったようで、時々その部分を触ってご満悦の表情。けれどもラヴちゃんは変わらず白いスーツに白いマフラーだった。


「今日のためにこれ、用意してくれてありがと!」

「お嬢様への誕生日プレゼントです」

「私もラヴちゃんに何かお返ししたいんだけどな〜……」

「お気持ちだけでも大変嬉しいのですよ。今日はお嬢様が産まれてくださった記念すべき日……自分のことだけを考えていて良いんです」

「あ、うんわかった……いつもありがとね」


 ラヴちゃんの、生涯をマイに捧げる覚悟は嘘ではなく本物。それはマイにとっては確かに嬉しいものではあったが、時にラヴちゃんの負担についても心配していた。


(ラヴちゃんはいつも私のことばっかり考えてくれてる。私がラヴちゃんの自由を縛っているのかもって、思う時もあるけど)


 参拝が終わった後、歩いていった先でマイは絵馬を2つ手に取った。あらかじめ持ってきていた油性ペンでマイは早々に願いを書き込み絵馬掛けに掛ける。もう1つの絵馬を人差し指と親指でつまむと、裏を向けてからラヴちゃんに差し出した。


「ごめんねラヴちゃん。私は自分のことじゃなくて、ラヴちゃんがこれからも健康に生きていけますように、って書いた。私からのお願いなんだけど、ラヴちゃんもラヴちゃん自身のことについて書いて欲しいの……嫌、かな?」


 マイからラヴちゃんへの、ささやかな反逆。それに屈するようにラヴちゃんは。


「……とんでもありません。お嬢様の願いならば、わたくしは」


 ラヴちゃんも笑顔となり絵馬とペンを受け取った。2人の身長は146cmと177cmで31cmもの差がある。ラヴちゃんが書く内容を覗く事はできなかった。


「何書いたの?」

「お嬢様をこれからも守れるように、強くあり続ける……と」

「えー! 結局私が関係してるじゃん。来年こそは書かせるんだからね!」


 だがマイは笑顔のままだった。ラヴちゃんの想いをそう簡単に曲げる事はできなかったが、時間をかけて寄り添っていく方法を選択──しかし。絵馬に書かれた内容はラヴちゃんの発言とは異なっていた。



“世界の全てを敵に回しても、大切な人を守れる力を手にしたい”

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