第3話 薄い皮で出来た真実
「“肉体を若返らせる能力”を持つメンバーの正体だ。そいつの名前は…………キーネ」
ロックとレイジの2人も、イーサンの口からキーネの正体を聞いた。ロックは唖然とした表情になってしまったが、レイジはモントと同じように慌てふためく。
「な、何を言うとるんですか……俺はキーネさんとは何年も前から顔見知りなんですよ。そんな、そんな訳ないやろ……」
「残念ながら真実らしい。タスクの証言に嘘はないはずだからな」
「俺ぁ信じないっすからね……」
タスクとの関わりも薄いレイジはイーサンから目を逸らし、信じようとはしていない。ロックの方はというと、驚きはしたものの座り込むとキーネの行動を改めて思い出していた。
(俺達の傷を治してくれたキーネさん……確かに【NAKED】の力は“肉体を若返らせる能力”と言ってもおかしくないほどの治癒能力だったけど、本当にMINEのメンバーで、ナイドみたいな奴らの味方をしているのか?)
ロックとナイアが出会った日。モントとの戦闘を終えた後、キーネが勤めるコンビニにて知り合っていた。その際ロック、ナイア、モントの傷を治してもらいモントとは連絡先を交換。同日には【GLORY MODE】を使用してナイドの両腕を骨折させ打ち倒し、日付が変わる直前にモントがキーネに連絡を入れた。
そして翌日の朝、ラディがレイジの家のガレージに【DESTRUCTION】を受け取りに来た後にキーネに会うため再びコンビニへ行っていた。ロック、ナイア、レイジ、ロォドが傷の治癒を依頼した。
(ナイドの両腕の骨折が次の日に治っていなかった事には矛盾がある。現に一昨日イーサン局長の【INSIDE】が与えたはずの大きな傷が昨日には治っていたし…………いやちょっと待て。ジャム、あいつ確か)
今までナイドが負った傷にばかり注目していたがロックは気づいた。真に視るべきなのは、ジャムの方だったのだと。
ナイドを【GLORY MODE】で倒した直後、ジャムがやって来た後にナイドを背負って逃亡しようとしていた時の発言。
『あの警察官を探しているのか?「水色」の白バイ女……!』
『“ロォド”さんは俺よりも速い。現にお前は身体のあちこちを痛めてるだろ? 足音と動き方で分かった。それにその言い回しから見るに、ロォドさんは無事らしいな』
『あっしまっ』
(この時、ジャムはロォドさんとの戦いで怪我をしていた。でも次の日にサーキットで遭遇した時は、傷を負った素振りもなくナイフを振りかざしていた……! もしジャムの傷が治っていなかったら、あんなに苦戦なんてしなかったはずだ!)
ジャムの傷は治っていたにもかかわらず、ナイドの骨折は手付かず。そしてロック達もキーネの手によって傷を治してもらっていた事を含め考えると、とある推測が。
(“肉体を若返らせる能力”には、一定時間内に使用できる数に制限があるのかもしれない……!?)
一定時間内に能力を使用できる数が限られており、それを“4回”と仮定するのならば。ロック、ナイア、モントの3人の治癒をした日にナイドが骨折しジャムも傷を負った。ナイドは遠距離から攻撃できるため治癒はジャムを優先すべきだと判断した、という可能性がある。
その翌日、ラディによってサーキットへの誘導が行われた後にもキーネはロック、ナイア、レイジ、ロォド計4人の傷を治した。そしてサーキットではナイドは観客席の上にあるモニターから攻撃を行っていた。更にその後ロック達はサーキットから逃走していたが、使用回数に4回という制限が無い場合ナイドの傷を治してもらう時間は十二分にあったはず。だが公園での再戦時にも骨折は治っていなかった。
「レイジ……多分、タスクの言っている事に間違いはないと思う」
「ロックもキーネさんの事を疑うんか!?」
「俺だってあの人が詐欺グループの一員だって信じたくはない! でも状況から見るに……あの人は敵だ」
ロックとレイジの間には珍しく、ピリピリとした空気が漂い見つめ合った。睨み合ってはいない。すると見かねたイーサンが場を取り持つために彼自身も推測を述べる。
「だがまあ……キーネが傷を治していた時に はその場にナイアもいたんだろ? だったらお前達を気遣う発言は嘘ではないはずだ。タスクのように何か事情があってMINEに所属しているのかもしれない」
ロックとレイジの間に割って入ったイーサンによって2人の空気感は緩んだ。しかしレイジはやはり疑念を抱いているようだった。
「俺とダムラントで決めたが、明日にはキーネに会いに行き事情聴取をする。お前らも来い。あいつらにとってもキーネは失いたくないはずだしな……ナイドとラディも一緒に行動している可能性がある」
*
翌日の朝。三日連続で会議室に全員が集まった。ただ昨日起きた出来事が複数重なり、顔色は明るくなく口数も少ない。
「せっかくドイルさんが捜査の協力を許してくれたっていうのに、やる気をなくしたか? いや、ロックは一応やる気はあるか」
「……はい。キーネさんを追えば、またナイドを捕まえられるチャンスがあるかもしれないので」
ロックの態度に嘘はない。ナイアもそう感じ取り、彼の優しさに呼応する形で頷いた。
「私もキーネさんとは以前からの知り合いで……あの人の言葉は本音ばかりで嘘はなかったです。でも兄さんから誤魔化し方を教わっている可能性もありますから、油断はしません」
兄を捕らえるため覚悟を決めたナイアだったが、相変わらずモントとレイジは何も言い出せていなかった。しばらくの沈黙が続いた後、次に発言を切り出したのはラヴちゃん。彼女の隣には憂鬱な表情のマイが座っている。何を言い出すのか、イーサンにはある程度の目星が付いていた。
「……少しよろしいでしょうか」
「なんだ、マイの付き人」
「
「そう言うと思っていた。お前ほどの戦力が欠けるのは少し残念だが、あっちもタスクを失ってるからな。了承しよう」
やや申し訳なさそうな態度を見せるイーサンだが目線はラヴちゃんに合わせておらず、隣のダムラントに向けられていた。何か発言すべきなのか、と感じたダムラントは立ち上がり提案。
「それじゃあ本職の
唐突に話を振られ、モントは目を丸くし必死に頭の中で考えを纏めようとしていた。先に口を開いたのはやはりレイジ。
「……行きます。俺の目で確かなきゃいけない気がするんや」
「ぼ、僕も……そうします」
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