第2話 裏を切りその跡を隠す者
30分程度が経ち、体の汚れを洗い流したロック達4人は宿舎に戻った。唐突にイーサンとダムラントの2人が同じ部屋で寝泊まりする事となり驚きはあったものの、悪いものではなかった。
「ナイドは逃がしてしまったが、タスクは俺がケリをつけた。MINEの未来も遠くないうちに潰えるだろうな」
座布団にあぐらをかき、テーブルに右肘をついて手に頭を乗せたイーサンは自慢げに言う。そんな彼に、タスクを殺さなかった事を気にしたロックは質問を繰り出した。
「あの、ナイドも殺す気なんですか?」
「逆にお前は殺意を持ってないのか? タスクはMINEのリーダーの事は何も知らなかったからな……俺も出来れば殺さずに捕まえて聞き出したいが、無理そうなら躊躇なく命は奪う」
「そう、ですか。俺はあいつに謝ってほしいんです。俺だけじゃなくて、ナイアにも」
イアが死んでしまった直後はナイドに対し余りある殺意を抱いていたが今は違う。兄が詐欺グループの一員だった事にショックを受けたナイアを少しでも慰めるため、ナイドに謝罪をさせる。ロックはそんな目標を持っていた。
「ロック。お前の気持ちは分かった。殺す選択肢はできるだけナシでいこう。それで良いだろうダムラント?」
「そうっスね~……ま、本職は初めから殺すつもりは無いっスけど」
実際にダムラントは種子の弾丸を撃ち込み尋問に持ち込もうとしていた。だがMINEのリーダーの能力とおぼしき、瞬間移動をさせる謎の力は未だ未知数であり、メンバーが生きている限りいつの間にかいなくなってしまう可能性があった。
するとダムラントがイーサンの隣に座り突然の耳打ち。
「そういえば言ってなかったっスけど……タスクが吐いたあの情報、やっぱりロック達には伏せるんスか?」
「いや……モントも聞いてしまっていたんだ。どのみち伝わるだろうから、今言っておくぞ」
イーサンの声はロックとレイジにも聞こえていた。モントが落ち込んでいた事と何か関係があるのかと思い、2人はイーサンの方を向いて集中する。
「“肉体を若返らせる能力”を持つメンバーの正体だ。そいつの名前は…………」
*
時間は遡り、病室にてタスクがイーサンを引き止めた瞬間。
「ちょっと待って。今話しておきたい事、1つあるんだけど」
「……1つなら聞こう」
振り向いたイーサンはタスクの言葉を待ち、メンバーの正体が明かされる。
「“肉体を若返らせる”能力を操る人物は……『ベージュ色』の
「え……なに、を?」
タスクの命が助かり喜んでいたのも束の間、モントは残酷な真実を突きつけられてしまう。ロック達の傷を癒し、モントにも励ましを送った60代と推測される女性、キーネ。彼女も詐欺グループのメンバーだと告げられたモントは激しく慌てた。
「何を言ってるんですか……! キーネさんが、MINEの一員!?」
「ウチも、どうして詐欺グループなんかに加担しているのか理由は分からないけどね」
タスクはあくまで人質として扱われていた身。詳しい事情までは知り得ていなかった。
「ぼ、僕達の傷を治してくれて連絡先も交換してくれた優しい人、なんですよ!?」
「確かに、あの人はウチにも比較的優しくしてくれてたけど……MINEが結成された当時から居る古参メンバーらしいよ? キーネさんとジャム、そしてリーダーの3人がMINEを作ったんだってジャムから聞いた」
「そんな……そんなことって」
優しい態度を見せていた人間が、裏では悪事に手を染めていた事実。当然受け入れられないモントだったが、満足したイーサンは口角を上げていた。
「礼を言うぞタスク。そのキーネって奴の居場所には心当たりはあるか?」
「職場のコンビニなら知ってる。そこを調べれば手がかりは掴めると思うけど」
「分かった。どこにあるんだ?」
イーサンはスマートフォンを取り出し、マップアプリを開いた状態でタスクに手渡した。タスクがタップし詳細が表示されたその店は間違いなく、以前にキーネと交流したあのコンビニだった。モントは何も言えなくなってしまい、裏切られたという喪失感、すぐそばに倒すべき人物が居たというのに逃がしてしまっていたという罪悪感に苛まれた。
「なるべく早くここも洗いざらい調べないとな。あっちもタスクを失ったんだ、キーネの情報が漏れたって事くらい把握してるだろうからな」
スマートフォンを返してもらったイーサンは今度こそ病室から出ようと歩き出した。モントは無意識のうちに引き留めようと左腕が伸びたものの、足は動かなかった。キーネの真実に対しどう動くべきなのか。その選択に迷い動けなかった。
「…………モントは、帰らないの?」
イーサンが出ていき、モントがしばらく歯を食いしばっていると、タスクは気を使って声をかける。右眼に涙を浮かべているモントの表情は見る者を不安にさせ、心配の気持ちを生まれさせるもの。
「ぼ、僕も。帰ります……からっ」
逃げるようにしてモントは病室から出ていった。タスクは黙って彼女の姿を見つめ、目を閉じてからベッドに倒れ込む。
モントが駐車場に出ようとすると雨が降っており、自身の今の気持ちと連動してしまったのか、涙が少し零れ頬を伝う。連絡先を交換しているため今すぐにでもキーネと意思疎通を計る事はできる。しかしそうする勇気がなかった。現実から目を背け、【GLORY】に乗って帰ろうとしたその時。背後からイーサンの声が。
「俺も乗せてくれないか? 丁度よく2人分の雨合羽買ったところなんだよ」
そう言ってイーサンは黄緑色の雨合羽をモントの身体に押し付ける。黙って受け取ったモントは着用したものの、成人男性用のそれはサイズが絶望的に合っておらず袖が余り過ぎているほど。
「ダムラントのために買ったんだけどな。お前にくれてやる」
「あ……ありがとうございます」
「あの【GLORY】を出すのか? また俺が運転してやるからお前はサイドカーの方に乗れ」
「お、お言葉に甘えます」
イーサンは青色の雨合羽。礼を言った後にモントは駐車場に向けてオートバイ&サイドカーの【GLORY】を出現させ、2人はヘルメットを被ってから急いで乗り込んだ。
イーサンが姿勢を正すと、雨の中バイク達は発進する。しばらくはお互いが無言のままで会話は無かった。雨音と走行音を聞き飽きたところで、イーサンから口を開く。
「……キーネとは、親しかったらしいな」
「特別深い関係ではなかったんですけど、親切に接してくれて……良い人だって、思ってたんです」
「俺は状況証拠だとしても揃っているなら、どんな相手でも容赦はしない。だがモント。お前がキーネを信じていたのなら、真実を実際に目にするまで信じていた方が良い」
「そう……なんですか」
不器用なイーサンの心遣いは大きく響はしなかった。けれどもモントの心に触れる事は出来ていた。
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