第4話 ドロドロ

 軍用車両の【KINGDOM】に乗り込み、一同はキーネが勤務しているコンビニへと辿り着いた。広い駐車場にはまばらに車が停まっていたが人の気配はない。外から店の様子は見えるものの、照明は点いているというのに人影も見つからなかった。


「こりゃあ確実にクロだな。俺とダムラントで中に入る。お前らは見張りを頼んだぞ、例え誰かが逃げようと飛び出しても誰一人として逃がすな」

「お、俺も行きやすからね!」


 レイジが叫びにも似た声を。当然イーサンとダムラントは呆れた様子で頭を抱えたが、渋々了承する形で頷いた。


「ドイルさんも言ってた通り、お前は前線に出ず人形ドールを弄っていてほしかったんだが……まあ、言っても聞かないだろうしな」

「一緒にここまで着いてくるか聞いたのは本職っスから、責任持って命は守る。でも深追いはしない事っスよ」


 ダムラントは人差し指をレイジに向けて注意を配る。経験豊富な彼の言葉にはレイジも反論せず、黙って頭を縦に振った。直後に【KINGDOM・NIGHT MODE】の鎧がレイジに装備され、3人は車両から降車した。残されたロック、ナイア、モントはしばらく黙ったまま。ロックは他2人の様子を観察しどう声をかけるか考える。モントはレイジの後ろ姿を見つめナイアは目線を頻繁に動かしていた。


(……モントも一緒に行きたがっているように見える。ナイアはナイドがそばにいないかどうか、窓の外をずっと見てる。俺はどちらの気持ちもわかる…………)


 昨日のナイドとの戦闘で【KINGDOM】の防御力とダムラントの心意気を信用したロックはレイジを引き止めはしなかった。そして仮にナイドとラディが近くで待ち構えていた場合、車両を襲われたとしても3人で残った方が対処もしやすいという判断で動かなかった。


「ナイドとラディも居るかもしれない。もし現れたら俺が【OVER LOADING MODE】でラディを追いかけるから、2人はナイドを相手にしてくれないか?」

「わ、わかりました。【LIAR】ならあの弾も防御できますし」

「あ……でも【MIDNIGHTER】の頭部って昨日ロックと一緒に壊したよね? まだ直ってないんじゃない?」


 ロックが投げた【KINGDOM NIGHT MODE】の槍は頭部を貫通し弾丸を発射する機構どころか、人形ドール自体の動きを完全に停止させていた。あの損傷はそう簡単に直せるものではないと、レイジの人形ドール弄りを間近で見てきたロックは思う。


「確かにそうかもしれないな……だったらあのブッチャーナイフだけで襲ってくる可能性がある。2人がかりなら、いけるか?」

「ジャムさんには僕とナイアさんの2人でも太刀打ちできませんでしたが……ナイフは1つだけになりましたし、ナイドさんはあの武器に慣れてないはずなのでおそらく」


 ひとまずの対応策は練り終わると同時に、イーサン達がコンビニ内部へと入っていくのが見えた。入店を狙った襲撃などはなく、安堵の息をロックは漏らす。


「……昨日にあのサーキットにナイドが現れたって事は結局、ラヴちゃんはMINEのリーダーなんかじゃないよな」


 突然始まったラヴちゃんの事についての会話。ナイアとモントは一昨日の夜に話した、“ラヴちゃんがMINEのリーダーなのではないか”という疑惑を考え直す。


「多分そうだと思います。ラヴちゃんさんは僕達のそばにずっといましたし。瞬間移動させる能力を使う暇なんてなかったはずです」

「……ほんとに?」


 相変わらずナイアは疑いを捨てきれていなかった。モントは反論をしようとしたが。


「本当です! 僕とイーサン局長でタスクさんの相手をして、ラヴちゃんさんがラディさんの相手を…………あ」

「ラヴちゃんがリーダーなら、ラディと2人きりになった時間を利用した……って可能性もあるかもしれない。まだリーダーの能力がどんなものか分からないから、断定はできないけど」


 ラディが滞在している、とのリアルタイムでの情報があったサーキットに何故かナイドが現れ。肝心のラディはタスクと共に公園での襲撃を行った。仮に瞬間移動能力を持っていたとしてもタスク・ラディ両名の襲撃までラヴちゃんはモント達のそばにおり、ラディをサーキットから瞬間移動させる隙は無かったはず。謎は深まるばかりだった。



 *



 コンビニに入店したレイジ達3人を迎え入れたのは客が入ってきた事を知らせるチャイムのみ。他の客や店員はおらず、眩しい照明だけがいつも通りの不気味な光景。先陣を切ったのはイーサンだ。


「いるんだろ、キーネ? 人形ドール保安局のイーサンだ。大人しく武器を捨てて出てこい」

「局長はレジ付近を探って欲しいっス。本職とレイジは冷蔵庫やら倉庫に行くんで」


 ダムラントがイーサンにも植物の鎧を分け与えると、レイジの手を引っ張って店内奥へと歩き出した。


「多分レジには居ないっス。知りたいんでしょ真実」

「えっちょっと」

「少し黙っとけ、見せてやるからよ」


 低く重いダムラントの声を初めて聞いたレイジは圧倒され何も抵抗できなかった。彼らが通り過ぎたテーブルの上にはお湯を沸かすためのポットが1つ置いてあったが、コンセントから伸びるケーブルは3つ。本来はあと2つ用意されていると、ダムラントは気づきとある推測をしていた。“外見を若返らせる能力”とポットで沸かしたお湯。考えうる限り最悪の行為がダムラントの脳裏を過ぎった。


「ダムラント、レイジは頼んだぞ」


 そう言ってイーサンは背を向けレジカウンターへと向かう。彼はポットに気づいておらずただダムラントの行動を信用していただけ。レイジは連れられるまま“関係者以外立ち入り禁止”の文言が書かれた扉の奥へ行き、冷えた飲み物が置いてある冷蔵庫へと2人で立ち入った。


「さっぶ……」

「今スイッチ切ったんでじきにマシになるはずっス。明かりも……っと」


 クーラーが停止し、同時にダムラントによって照明も灯され冷蔵庫内部が明るくなる。しかしそこにあったものは冷たくなった飲み物と、冷たくなった先程まで人間だったもの。

 小さい子供と見て取れる、どろどろに溶けた幼児の遺体がレイジの真上の天井に張り付いていた。


「へ……?」


 血が滴りレイジの額に落ちる。その血液はまだ温かい。熱せられた後、急激に冷やされた結果の幼児の遺体。すると遺体の腹部が膨れ上がり、破裂したかと思うと小さな人影がダムラントの首元に襲いかかった。

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