第2話 『人形の白』との対面

 病院の廊下を歩く3人。昼間という事もあって話し声が他にもちらほら聞こえるが、迷惑にならない程度のボリューム。


「……んで、あの直後にイーサン局長達がやってきて俺達をこの国立病院まで運んできてくれたんや。その次の日にナイアが起きて、そのまた2日後に今、お前が目を覚ましたって訳や」


 気を失っていたロックに対し、レイジは簡潔な説明をした。この国立病院はかなりの大規模であり、“身体の治癒速度を高める”人形ドールが活躍している事もあり彼らの傷はすぐに癒えた。


「ところで【MIDNIGHTER】のカプセルはイーサン局長達に渡さなくていいのか?」

「もう渡したで。今はダムラントさんの車両の中に保管してあるらしいんやけど。警備も厳重やから安心せぇ〜……って言ってたんや」


 会話を交わしていると、いつの間にか霊安室はすぐそば。遺体と面会する場合は前もって手続きが必要であるため、ロック達は中の人間が出てくるまで待つ事にした。


「モントは他の病室で寝てるのか?」

「せや。でもイーサン局長達はモントも捕らえるつもりらしい。ロォドさんの時と同じやな。まぁ、理由も後で詳しく話したらある程度は理解してくれると思うで?」

「そうか……ロォドさんは最終的にモントを信じてくれたかどうか分からなかった。今度こそ、モントの気持ちだけでも理解してもらいたいな」


 ロォドとモントの仲はお世辞にも良いものとは言えなかったが、最期に彼女はモントを逃亡させるために動いた。完全に信用していた訳ではないが、“もっと一緒に過ごしていたら親しくなっていた”可能性は確かに存在していた。

 感傷に浸る3人。すると霊安室の扉がゆっくりと開く。現れたのは2人の女性だった。


「……本当に、ジャムは死んじゃったんだね」


 右眼に溜まった涙を指で拭き、鼻水をすする幼い見た目の少女。肘の辺りまで伸びる後ろ髪は美しく、をしていた。頭の左右にはオレンジ色のリボンを付け、更に同じくオレンジ色のマフラーと巻いている。上下共に雪結晶の衣服で、フリルのスカートも相まって可愛らしい外見。


「詐欺に手を染めていた……それに気づけなかったわたくしにも非はあります」


 もう1人は長身のスレンダーな女性で、腰まで伸びているオレンジ色の髪の毛を有していた。白いスーツと首のマフラーは清潔感があり上流階級を思わせる。

 すると2人はロック達に気づき、少女の方から駆け寄った。


「もしかして、貴方がロック!? イーサンから聞いてたんだけど」

「え? あぁ……そういう君はジャムの知り合い?」


 少女を年下だと判断したロックは優しい口調で語りかける。だが彼女の素性は予想だにしないものだった。


「私はマイ。ジャムとは友達だったけど……悪いことをしてたジャムを止めてくれて、ありがとう」

「マ、マイやと!?」

「白い髪も染めてるって訳じゃなさそうだし……本当に世界政府総長の娘なの? でも確か25歳だって聞いてたんだけど」


 20年前に“イシバシ”という人物から『人形の白』を授かり、世界に人形ドールが浸透したきっかけの人物。けれども当のマイはどう見ても十代前半の外見。それを聞いたマイは幼い容姿を褒められたと思いニンマリと笑った。


「お嬢様は今年で25歳。間違いはありませんよ。申し遅れました。わたくしはお嬢様の側近……“ラヴちゃん”とお呼びください」


 もう1人の女性も近づき名乗る。予想外過ぎる常人とはかけ離れた名前に一同は驚いた。


「ラヴちゃん……?」

「それって名前なんですか?」

「元々、わたくしには名前がありませんでした。そんな哀れな少女だった頃のわたくしに『愛』という名を付けてくださったのが……お嬢様なのです」


 困惑を零すロックとナイアへの説明をすると、床に膝を付けたラヴちゃんはマイの頭を撫でる。穏やかな表情は主人への揺るぎない愛を感じさせた。


「だから、ラヴちゃんの名前はバカにしないでよね!」

「あ、あぁ。理由と想いは伝わった」

「うん、間違いなく本音だったし」


 実は歳上だと判明した女性に対し、ロックは敬語を使うかどうか迷っている様子。ナイアは【WANNA BE REAL】の力によって本音を信用した。


「……なぁ、友達を殺した俺を、本当に恨まないのか?」


 一通り自己紹介を聞いたロックは贖罪を求めた。『ジャムを止めてくれてありがとう』とは言われたものの、マイが涙を流していたのは事実であり、ロックはその責任を少なからず感じていた。


「正直ちょっと……嫌な気持ちはあるよ? でもそれ以上に、ジャムが悪いことをしてた方が嫌だったから。ありがとう」


 目元が垂れ悲しげな笑顔。ロックを見上げ目線も合わしている。予想していた反応とは違うものが帰ってきたロックはやるせない。しかしマイのお礼を拒否する事など到底不可能。


「……悪い。俺もなんて返せばいいか、分からない」

「良いんだよ? むしろ謝るのは私の方……だって私は全ての人形ドールの元となった人間だし。『MINE』のナイドって人のも勿論。ロックの事情も私が原因……イアの事も、ね?」

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