第10話 万策尽きたその先は

「やられてんじゃねーよナイド……ああそういやお前さっき、“殺す気で挑むが殺しはしない”って言ったよなぁ? その心意気は確かに正しいかもしれない……だけどな、経験値が違うんだよ」

「くっ……そこをどけ!」


 睨み合いをしていたロック、そしてジャムとラディ双方はそれぞれ違う反応を見せていた。ジャムとラディはナイドが捕らわれたのにもかかわらず冷静で、ロックは倒れたモントを目にし気が気でならない様子。


「そんな簡単に退かないよ! ロックとたくさんオタノシミしたら、ナイドも助けてあげるけど」

「……不服だけど仕方ないか」


 あどけないラディの態度にはすっかり慣れていたたナイド。【ULTRA INFORMATION】の帯は彼の身体をぎっちりと縛り付け、【MIDNIGHTER】のカプセルはレイジに奪われてしまったため今のナイドは木偶の坊。


「ロック! 頼むで……!」


 それだけを言い残した後、レイジは意識を失ってしまったモントを背負い【RAGE OF ANGER】へと急いだ。右ふくらはぎの傷はやはり痛み、普段よりも3倍近く遅い歩行速度だった。


「ああわかった……ここで俺が勝てば全てが解決するはず。残りエネルギー30%、か……」

「勝てれば、の話だけどな!?」


 自らに言い聞かせるロックの言葉。しかし『MINE』には“外見を若返らせる”能力を持つメンバー、そしてリーダーの2人が残っている。仮にここで勝利を掴み、3人を撃破できれば『MINE』への大打撃にはなるが、不確定要素は未だに存在していた。そして残りエネルギーも少ない。


「ナイア……少し、揺れるぞ」


 サイドカーのシートベルトを使用し、ナイアに大怪我をさせないためのひとまずの措置。少しどころではない揺れが起こる事は、ロック自身も理解はしていたが安心させるための嘘。

【ROCKING’OUT・GLORY MODE】の周辺にはまたしても風が吹き、氷柱つららが出現した。対してラディもアクセルを全開。けたたましいお互いのエンジン音がぶつかり合う。ジャムは両手を広げる事でブッチャーナイフである【JUMP COMMUNICATION】の存在を主張した。


「今度こそファイナルラップ!」

「オレ達の策が勝つ!」


 先に走り出したのは【DESTRUCTION】で、何の小細工も用意せずただ突っ込むだけ。しかしそれが大きい脅威。必ず追いつくバイクと、思考を読み取り全てを斬り裂くナイフ。


「くっ……!」


 氷の壁は簡単に打ち破られると判断したロックは、風の勢いを乗せた氷柱つららによる迎撃を試みた。鋭さは増しており、確かに殺す気持ちはある。

 だが2人も抜け目はない。向かってくる氷柱つららを【DESTRUCTION】から溢れる雷撃で止め。続いて【JUMP COMMUNICATION】がその止まった氷柱つららを切断していく。


「その程度か!?」

「いや、これも想定の内だ!」


 先程までの【JUMP COMMUNICATION】のパワーを目の当たりにしていたロックは策を残していた。それはジャム達にとっては予想外のもの。

 ロックの左に位置するサイドカー。ナイアがぐったりとした体勢で乗せられていたが、そこから2つの車輪が回転しながら飛び出した。


「えぇっ!?」

「やっぱりか!?」


 ナイアはもう動けない状態。ラディはそう思い込んでいたため反応が遅れた。対して思考を読んでいたジャムは迫る車輪を断ち切ろうと、大きくナイフを振りかざす。

 しかし直後に再び予想外。並んで飛んでいる車輪が互いにぶつかり合い、左右に散らばった。ナイフは虚空を斬り、彼らは車輪を目で見つめる事しかできない。



 先程ロックがナイアを背負った際、ナイアは策を願った。


(私はもう戦えない……でも、なんとか車輪は回転させられる、はず……。お願い。【GLORY MODE】の風の力で、車輪を飛ばして……)


 そしてシートベルトを締めた際、ナイアの手元で回り続けていた車輪の勢いをロックは確認し、願いを読み取った行動を起こした。


「これが俺達の策だ……!」

「うわぁっ!」


【ROCKING’OUT】は走り出していない。故に【DESTRUCTION】の“対象の速度に追いつく”能力も使用できなかった。車輪も対象にはできるが、それは回転する刃物に突っ込む事と同義。自殺行為に等しい。ジャムとラディは回避できず車輪の激突をもらい、悲鳴を上げながらそれぞれ左右に吹き飛んだ。車輪は衝撃でバウンドすると、ナイアの手元に戻った。


「や、やっぱりロックとヤるのは楽しいね……でもちょっと、ヤバいかも……痛っ」

「やるじゃねーの……! 今のは痛かった!」


 しかしジャムは戦意喪失はしていない。ロックから見て左に倒れたラディは頭を地面に強打し、出血する程の怪我。ジャムは自分の足でロックへと走り出す。人形ドールの残りエネルギーは20%近く。

 この状況を鑑みたロックは瞬時に考えを纏めた。


「ジャム……覚悟しろ」


 ロックを散々煽り、ナイアやモントを傷をつけ、そしてロォドの命を奪ったジャムに向けて、タイヤは回り始めた。周囲を気にせず砂を大量に撒き散らす様はロックの荒んだ心を表してもいた。殺す勢いで挑む。その宣言通り。


「いいぜ! お前の考えは読めている!」


【JUMP COMMUNICATION】を左右に広げ、バイクに跨るロックから目を離していない。どちらも真正面から激突するつもりだ。


「エネルギー、もってくれよ!」

「見えてんだよ!」


 ジャムが狙ったのはバイクとサイドカーのつなぎ目。【ROCKING’OUT】の能力で生み出された灰色のパーツが【GLORY】と繋がっていた。華麗なステップを披露し、跳躍したジャムはそのパーツを上から断ち切ろうと急降下。ロックには上空からの攻撃を対処する手段が少なかった。氷と風を差し向け、どうにか撃ち落とそうと考えるも。


「なっ……ここまでか!?」


 ついにエネルギーが底を尽きた。氷と風はジャムに届く事は叶わず消滅。こまめに確認はしていたものの、ロォドを失った時と同じ失敗を繰り返してしまった。


「隙が丸見えだ! ならお前もナイアも斬ってあげるよ!!」


 ジャムは狙いを変更し、左のナイフでロックを、右のナイフでナイアを殺そうと柄を握る。一方、ロックを自らの手で殺したかったナイドは歯を食いしばった。


「っ……! ナイア!!」


 考えるよりも先に身体が動いたロックは、自分でも気づかない内にナイアの前に出る形で盾となった。

 希望が絶望に変わってしまった、イアの時と同じく。しかし今回は、絶望を希望へと変える一手となる。

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