第9話 黒の覚悟
「ラディ……!?」
「ありがとな〜? もう事情聴取は終わったのか?」
想定外の援軍にロックは驚き、ジャムは勝利を確信した。これまでも他組織の人間と抗争を重ねていた『MINE』は、長らくジャムとナイドの2人のみで戦闘を行っていたが、ラディの加勢によって更に戦力を増していた。
「簡単に信じてくれたよ! それに“あの人の力”を借りれば簡単に辿り着けたし」
思わせぶりな発言を漏らし、笑いながらアクセル全開。ジャムを乗せたままロックへと突撃した。【JUMP COMMUNICATION】はこうしたラディとの連携で真価を発揮する。圧倒的なスピードに加え、残虐的なパワーを兼ね備えた1つの真理。
速く斬るだけ。シンプル故に真正面からの強み。
「くっ……!」
「避けようとしても無駄だ! オレの力がある! ラディ、こっちから見て左だ!」
氷を漂わせつつ右方向への加速で回避を考えたロックであったが、ジャムの能力を失念していた。気づいた時には遅く、ハンドルを切った【DESTRUCTION】と正面から激突した。更に【JUMP COMMUNICATION】による斬撃が襲いかかる。ジャムはラディの背後から腕を伸ばしていたが、それを補ってあまりある程、刃は長い。
「……まずい!?」
ロックは咄嗟に氷の壁を張ったものの、ブッチャーナイフの先端による2連撃によってあっけなく破壊される。
「オレの【JUMP COMMUNICATION】で移動先を読み!」
「ボクの【DESTRUCTION】で瞬時に追いつき!」
「オレの【JUMP COMMUNICATION】が斬る! これがオレ達の連携攻撃だ!」
丁寧に戦法を解説する程の余裕。またしてもジャムはナイフを振りかざし、ロックの首を刈り取るその寸前だった。
「っ! 風を!」
【GLORY MODE】の力である風を一点集中、突風にして吹かせる事で自らがまたがる機体を僅かながら後退させた。斬撃は首の薄皮だけを持っていき、無傷同然で収束。この行動は一瞬のうちに考えたため、ジャムも読めていなかった。
そして直後、今度は自身の背後からの突風によってロックは加速を試みた。辺りに漂っていた氷達も前方に向かっていく。
「うわっちょっと!? 痛いよ!」
「やっぱり氷は脅威だよな!?」
無数の氷の粒がラディとジャムの衣服にめり込み、貫通し皮膚に突き刺さるものもあった。大したダメージにはならないが、目くらましにはなっている。
「今のうちにナイアを」
ラディ達を抜き、走った先は倒れていたナイア。出血は多量ではあるが致死量ではない。【ROCKING’OUT】から降りたロックはナイアを背に乗せ、2つのバイクに挟まれたサイドカーに座らせた。
すぐにでもレイジの【RAGE OF ANGER】で戦線から離脱させようと考えていたが、振り返った先には絶望的な光景が。
「もう終わる所だよ?」
「ナイド……っ!!」
ナイド操る【MIDNIGHTER】は、おぼつかない足取りながらも必死にモントを抱えているレイジを狙っていた。明らかに逃げられない状況だったがそれでもレイジは歩き続けている。ナイドは余裕綽々で距離を詰める。両腕のギプスによって行動は制限されていたが【MIDNIGHTER】だけでも彼らを追い詰める事は容易だった。
「ロック! 君の相手は」
「オレ達だ!」
息がぴったりのラディとジャムは氷の粒から抜け出し、ロックの妨害へと以降し道を塞いだ。お互いがお互いを油断などできない戦力のため、ほぼ睨み合うだけ。
「あかん……マジで死ぬかもやんけ」
「そうだね、残念ながら君達はここで死ぬんだ」
レイジの右ふくらはぎからの出血と、既に傷だらけであったモントの出血。彼らの足元はとっくに血だらけだった。
ナイドの言葉と共に【MIDNIGHTER】は長い両腕を伸ばしレイジの両足を掴み転倒させ。衝撃でレイジの腕からはモントが崩れ落ちた。
「いってぇ……!」
「最後に1つ、いいかな? 君達が知っている『MINE』についての情報や手がかり、吐いてほしいんだ」
「……話すわけないやろ」
人質などの交換条件も用意していない雑な要求。実際にレイジ達は『MINE』の事実についてはほとんど知り得ていなかったが。ナイドは浅いため息を零し、
「それじゃあ終わりだ」
「ぐッ……!!」
【MIDNIGHTER】の口元が光り、発砲の用意。レイジは死を覚悟し歯を食いしばった。
(ああクソっ! 死ぬならせめて可愛い女の子に抱かれながら死にたかったんやけどな~~ッ!!)
レイジはこんな時でも理想を崩さない。目も瞑り、完全にこの世から消え去る事を悟った瞬間。彼の前へと、1人の少女が勇気と共に駆け出した。モント。彼女は恐れず立ち向かう。
「なっ!?」
「へ……?」
人の気配を感じ、レイジも視界に光を取り戻した。同時に【MIDNIGHTER】の弾丸は発射され、モントの頭部に着弾──しかし、貫通はしなかった。
「【ULTRA INFORMATION】……!」
背後のレイジからは状況が伺えない。ただ“モントが助けてくれた”という事だけ。
対してナイドは彼女の無謀とも言える勇気に驚愕していた。
「まさか……そんな事を」
弾丸はモントの左眼に着弾し貫通、レイジ共々殺害されるはずだった。しかしモントは直前でカプセルを左眼付近にかざし、測定機器であるメジャーの形をした
「うぐっ……あぁぁぁ!!!! あぁっ……」
本来左眼がある場所にはメジャーが埋め込まれ、更なる出血を招いている。他にも様々な神経が弾け散り痛みも相当なものだったが、モントは止まらない。鉄製の帯が急速に伸び始め、ナイドを翻弄する。
「【MIDNIGHTER】! 早く殺せ!」
「やらせへんでうぉぉぉぉぉ!!」
怪我を負っていない左足に力を込め、レイジは果敢に【MIDNIGHTER】の下半身へ飛び込んだ。見事押し倒し、弾丸は空に発射される。
「これで、終わり……です!」
「馬鹿な……っ!」
不意打ちと言えどかつてラディを完封し締め付けた【ULTRA INFORMATION】は強かった。ナイドの手足を巻き付け、簡単に
「は、離せ!」
「離すわけないやろ!」
続いてナイドは転倒し、カプセルがレイジの方にこぼれ落ちた。【MIDNIGHTER】は呆気なく収納され、ナイドは完全に無力化される。
「こ、これで……うあっ────」
しかしモントの意識は潰えた。切断されていた右腕からの出血も合わさり危険な領域に達してしまった。弱々しく倒れる彼女が最後に見たものは、自らの方に向かって手を伸ばすレイジ。
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