第11話 ジャムの、策は
(またか……! また俺は間違えたのか!?)
銃弾とは違い、広範囲を斬り裂き切断する【JUMP COMMUNICATION】の刃を見つめる事しかできないロック。ナイアが乗るサイドカーの前に立ち、後退もできないこの状況。このままでは死は確実だった。
しかし突如、ロックは背中に風を浴びる。直後には両腕に衝撃が加わった。
「なっ……!?」
1番の驚愕を見せたのはロック自身。その両腕には、ナイアの
「まさか……まだそんな気力あったのかよ!」
押し切れないと判断したジャムは力を弱め、あえて弾き飛ばされると着地。ナイアを見つめ唸った。
「ナイア! 本当に大丈夫なのか!?」
「……ま、だ…………」
頷いて一言だけの返事。
「おいナイド、お前ほんとにそこから抜け出せないの?」
「無理だよ……キツく締められたままモントの意識は無くなったから」
変わらず【ULTRA INFORMATION】で身動きを封じられたままのナイドだったが、身体全体をミノムシのように情けなく動かす事でラディとの合流を計っていた。肝心のラディは痛めた頭を抑え、【DESTRUCTION】にもたれかかり様子を伺う。
「まだ抵抗してるけど……ジャムには奥の手があるんだよね」
小さく呟いたラディ。ナイア、モントとの戦闘でジャムが披露した『茶色』の力の一片。この力には回数制限がありジャム自身も過度な使用は控えていて、使うのは確実に倒せる場合と、本当に危険な状況に陥った場合のみ。
「いいぜ? 近接勝負といこうか。さっきはナイア相手にオレの圧勝だっからな……楽しませてくれよ!」
「茶色に光って……岩石がナイフに纏わりついた!?」
巨大なブッチャーナイフの刃に次々と、無から生まれた岩石が合体していく。切れ味は落ちるが、サイズが大きくなり“切断”ではなく“打撃”の攻撃に変化する。ゴツゴツとした岩石の重量は腕にも負担をかけるが、ジャムは平然とし笑う。
「これはとある知人から借りている力……
「
現にロックは【WANNA BE REAL】のガワだけを借りている状態。しかし能力までもを貸し借りできる
「来い!」
挑発に乗る形でロックは右の車輪による殴打を狙う。回転は続けたままであり、まずは岩石を打ち壊そうと画策した。
「その岩を払い除ける!」
「ハッ! これがただ岩を纏わせるだけの力だとでも!?」
テンションが最高潮に達したジャムは策をさらけ出す。2つのブッチャーナイフを縦に並べ、突き出すと岩石がザワついた。震えがどんどん大きくなり、岩石達は途端にナイフから離れ、まるで発射されるように飛んで行く。
「っ!?」
予想外の攻撃ではあったが、ロックも同じように2つの車輪を縦に並べる事で岩石を弾き飛ばした。けれども砕いた小石や漏れがあり肩や脇腹に突き刺さる。
「まだオレ自身が残ってるんだよぉ!」
丸裸になった【JUMP COMMUNICATION】をジャムが振り上げると、またしても茶色に発光。岩石が再び装着された。ロックは車輪で抵抗を試みるが。
「ぐっ……がぁっ!」
圧倒的な力の差によって【WANNA BE REAL】は弾かれ、ロックの胸部に強烈な一撃が叩き込まれた。刃は皮膚に達していなかったが岩石は衣服を貫き、癒えにくい傷を残し出血もさせた。
しかし彼の視界には信頼できる友の姿が入った。
「ロック! こいつを使うんや!」
「……レイジ!」
無事に【RAGE OF ANGER】に辿り着いたレイジがバールを取り出し、ロックに向かって投擲。ロックの腕には【WANNA BE REAL】が装備されていたためキャッチなどは互いに考えていなかった。よろけながらも地に足をつけ体勢を整えると、右方向から飛んできたバールに狙いを定め車輪で殴打した。
「うおおおぉっ!?」
バールは勢い良く回転し、ジャムの胸に先端が突き刺さった。痛みによる叫び声はあったもののジャムの動きは止まらない。再度ブッチャーナイフの攻撃が襲いかかる。ロックはそれを寸前で回避し、後ろへと跳ねる事で後退した。
「お互い……ボロボロだ」
「マジで死ぬかもなぁ……?」
刺さったバールの先端は、ジャムの肋骨を突き破り心臓近くにまで達していた。呼吸する度に激痛がジャムの身体を蝕んでいるが、むしろ闘志は燃えている。
「ダメだよジャム……それじゃ本当に死んじゃう!」
「おいラディ、お前もう戦えないだろ? ナイドを乗せてとりあえず離れとけ。
ひとまずの提案にラディは不満もありながら納得し、【DESTRUCTION】に跨るとナイドへ走った。
「巻きついてるそれが消えたら戻ってこい。完勝したオレが立ってるから」
「……信じるよ」
ナイドはラディの背後に乗せられ僅かに動かせる指でラディの腰を掴み、ゆるやかなスピードでその場を去っていく。排気ガスの匂いが2人の鼻を刺激した。
「次で正真正銘、最後の激突だ!!」
「……ああ」
歯を食いしばり、ロックは一言だけ返す。と同時に歩き始め、段々とスピードを増していった。対してジャムは迎え撃つために両手を横に広げ、続いて腕を上げ振り下ろす体勢。
「ウォォォォォォーッ!」
ついに距離が迫り、ジャムは雄叫びと共に右のナイフを振り下ろした。ロックは未だ回っていた左の車輪をぶつけ対抗したが、ナイフと共に車輪も衝撃で吹き飛んでしまう。2人は残ったもう1つの得物を振りかざす。
(例え傷を負ってでも……!)
ジャムはロックの首元を狙い、ロックはジャムの胸部を狙った。
先に辿り着いたのはナイフの刃。鎖骨に命中し砕かれてしまった。更に食い込み、ロックの口からは血が滲み出る。
だがロックが放った右の車輪は、胸部に突き刺さっていたバールに直撃。押し込まれ今度こそ心臓を崩壊させ、ジャムは比べ物にならない程の吐血をした。
「がっ……はァ」
そして力なく倒れた。ロックも意識を保つのに精一杯で、互いに見つめるのみ。ジャムは笑っていた。死を悟っているというのもあったが、負けてしまった自分への呆れの笑い。
「ハハっ……あぁ、これでお前も……オレ達と同じなんだ。他人を殺した……その事実はな、お前が思ってるよりも…………引きずるんだ、よ」
「同じには、ならない……! 俺は──」
瞬間、ロックの脳裏によぎったのは仲間達の顔。レイジ、モント、ナイアに加えロォドとイアも。
「俺は“優しい”らしい……からな」
ロック自身が初めて他人を殺したと感じたのは、イアを失ってしまった時。ジャムは今、ロックが初めて殺しをしたのだと推測していたが肝心の気持ちが違った。
確かにロックはイアの死を引きずり続けた。しかし引きずったまま走りも続けた。無様に、けれども仲間と共に、優しい嘘と共に走った結果。傷だらけになりながらもロックは1つの答えを得た。
「ぐっ……」
そしてロックも力を失い、倒れる。
(似て非なるものなんだ……俺も、ジャムも。だけど明らかに違う点が1つある……それは、“弱く、優しい事”だ。弱いからこそ、きっと────)
ジャムの事情や過去も知っていなかったが、ロックは自らを弱いと評価した。今回もナイアとレイジの直接的な助けがなければ勝利できなかった。ロォドとイアを死なせてしまった責任も感じていた。
ジャムもラディと『茶色』の力を借りていたが、ほとんどはジャムだけの力。
本来ロックはジャムに勝ちを掴めない実力差。けれども勝利したのはロックが優しかったからこそ。ラディは頭を痛めただけで戦意を喪失したがナイアは薄れゆく意識の中で
2人は仰向け。けれどもジャムの呼吸は、間もなく止まった。
「ロックっ! おわ……どうしたらええんや!」
今この場で意識を保っているのはレイジたった1人。間もなくラディとナイドが戻ってくる事も考え、彼の頭の中はいっぱいいっぱい。
しかし次の瞬間、3台の装甲車が土煙を上げながら住宅街を縫って現れ公園の前に停まった。
「な……なんや!?」
荷台の上から様子を伺うレイジ。装甲車の扉が開き、1人の男が姿を現す。パーマがかけられた短い青髪に細い瞳。黒いジャンパーには袖を通さず肩がけしている。
「俺は『ドール保安局』局長。“イーサン”。近隣住民から通報があった。ここで
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