第9話 トリプルライダーキック
「君達が束になった所で……!」
すぐさまナイドは【MIDNIGHTER】を操作し、弾丸をロックの脳天目掛けて発射した。ロックの全速力でも避けられない速度だが、彼らのバイクはそれを上回る。
ロックとモントがハンドルを同時に操作、弾丸を軽々と避けナイドの周囲を回転し始める。更に『緑色』の基礎能力である風も纏いながら走っていた。これはナイアのものではなく、【GLORY】が元々『緑色』の
「何のつもりだ?」
体当たりを仕掛けてくると予想していたが外れ、
すると彼の耳には聞き覚えがある車輪の回転音が入った。
「これで素早く回転させる!」
なんとナイアが前のめりになり、両腕を伸ばす事で左右のバイクの前輪に【WANNA BE REAL】の車輪を押し付け、通常の倍以上の速度で回転数を伸ばしていた。その数、実に1秒間に10回転。下手をすれば足を踏み外し転倒、大怪我は確実だったがナイアは恐れていない。
「まずい、あれをまともに受けたら……」
どうにかして口から発射する弾丸で抵抗を試そうとしたものの、走り回る彼らを捉える事は叶わなかった。ナイドは考えを改め防御姿勢を取る。【MIDNIGHTER】の腕を交差させ、正面から車輪を受け止められるように身構えていた。
「投げろ、ナイア!」
「いっけぇ!」
ロックの合図に応じ、回転数が充分と判断したナイアは体勢を戻してから左腕の車輪を投げつけた。回転数は脅威の80。
空気を切り裂く轟音を立てながら飛んでいき、【MIDNIGHTER】の両腕に衝撃と圧力を継続的に与えていく。
「くっ……このパワー!?」
なんとか受け止め切ろうと踏ん張るナイドだが、まだ右腕の車輪が残っている事に不安を感じざるを得なかった。更に回転数も増すため、直撃すれば命を落としかねない。
「よっしゃあ3人ともこっち来いや! このスロープで跳ねやがれぇ!」
冷や汗をかくナイドとは対照的に、レイジは満面の笑みでロック達を誘う。既に彼は【RAGE OF ANGER】に乗り込みナイドの正面10メートル先に構えていた。
「わかったレイジ、アレだな!」
「えっアレってなんですか……」
「私も知らないんだけど」
「とにかくレイジの言う通り、軽トラのスロープで跳ねるんだ! ジャンプするんだ。合わせてくれモント」
無言でモントは息を合わせ、スピードを少し落とし【RAGE OF ANGER】の背後へと回った。荷台への移動をスムーズにさせるためのスロープが用意されており、そこに向かって【ROCKING’OUT・GLORY MODE】は土煙を立てながら向かう。
全速力に達し、スロープの傾斜も加わり機体は跳ねロックの言った通りジャンプを可能とした。ナイドの目に映った3人の上半身は月に重なっている。
「くっ……!」
【MIDNIGHTER】に衝突し続けていた車輪は回転が弱まり弾き飛ばされ、ジャンプした3人の方にナイドは集中する。しかしどんな攻撃が襲ってくるか予想もつかず、先程と同じく【MIDNIGHTER】の両腕を交差させた。接近してきた所を弾丸で撃ち抜こう、とは考えはいたが。
「こいつを踏み台にして更に跳ねるぞ! モント、まずはお前だ!」
しかしまたしてもナイドの予想を超えてくる。【GLORY】側のオートバイに乗っていたモントは恐れず足に力を込めジャンプし、自身の
「【FINAL MOMENT】……!」
彼女の右手に握られていたカプセルからスケートボードが出現した。今ある【GLORY】はレイジがコピーし、【ROCKING’OUT】の能力によって合体している状態でのみその存在を保っていられる。モントの【FINAL MOMENT】は変わらず使用できた。
スケートボードは【MIDNIGHTER】へと勢いよく飛んでいく。
「そんな
ナイドは舐め腐った物言いで正面から受け止めようとしたが、直後に彼は後悔する。
「お願い、【LIAR】!」
スケートボードの【FINAL MOMENT】は【MIDNIGHTER】に辿り着く寸前、突如【LIAR】へと変形した。人間の骨に竜巻状の黒色をした鎧が巻きついているような姿。イアの
「なんだと!?」
「これであなたを守るものはいない……!」
続いてモント自身がナイドへと飛んでいく。昼頃にロックに当てたものと同じく、黒いオーラを纏った右足によるキック。咄嗟にナイドは右腕を頭の前で盾として使った。
「やぁっ!」
「うっ……」
モントのキックによってナイドの右腕の骨は折れ、ロックによって手のひらに開けられた穴から血液も散った。モントは反動によって少し離れた場所に着地する。
「今度は俺だ」
冷たい声はナイドにも聞こえた。ロックも跳ね上がりモントと同じく右足によるキックを狙っている。
「やっ、やめ──」
もはや弱音すら吐き始めたナイド。残った左腕を顔の前に出す。その光景に僅かな優越感を覚えたロックは、かかとで彼の左腕を蹴った。これも骨折とまではいかないが手首付近にヒビを発生させ、だらしなく両腕の力が抜ける。
「決めてやれナイア!」
「……うん!」
つい先程【MIDNIGHTER】に弾かれた左腕の車輪も戻り、右腕に装備していた車輪も合わせ2つを放った。回転数に差はあったが、この状況ならば無回転でも彼にトドメを刺す事は可能。
2つの車輪はナイドが着ていた緑色のジャケットに縦方向で食い込み、身体全体も揺らす。隙を与えずナイア自身も突っ込んだ。
「兄さん……少しだけ我慢して!!」
モントやロックとは違い、両足でのドロップキックを尚も回転している2つの車輪にぶつけた。『緑色』の基礎能力である風、その緑色のオーラも纏わり強烈な一撃。一瞬の衝撃ではあったが、ナイドは車輪とキックのダメージに押され無様に吹き飛んでいく。ジャケットには傷跡が縦に2つ並んでいた。
「そんな……そんなぁ」
相当な痛みによって起き上がる事すら不可能。ナイドはのたうち回り、小さく情けない悲鳴を上げた。
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