第10話 愛する者を奪われた者

 乗り捨てられたバイク達は粒子となってカプセルに戻されたが、【MIDNIGHTER】は変わらず【LIAR】に足止めをされていた。

 ナイドから見て左にロック、右にモント、そして真ん中にナイアが立つ。


「どうして僕が君達なんかに、負けてっ……」


 この言葉はナイアではなく、ロックとモントに向けられた。家族として長い間接していたのだから、ナイアの実力は十分に理解はしていた。しかしロックに2度も敗北し、裏切ったモントにも屈辱を味合わせられてしまっている。


「……ここに居ないイアと、イアの両親。その3人の力もある。お前一人が簡単に捌き切れるものじゃないんだよ」

「くっ……! ジャ、ジャム助けてくれぇ!」


 打って変わって情けない叫びを上げたナイド。2メートルを超える巨体の男とは似つかわしくない言動だった。だが5秒も経たない内に、何者かの足音がナイドの背後から近づく。

 その足音の主は、街灯の光に照らされたナイドのそばでしゃがみ姿をあらわにする。紫色の髪はやや長く、後ろは首の根元まで伸びていた。白い服には赤く長い十字模様があるが、肩から腕にかけては黒の生地。下半身はシンプルな黒いズボン。口の端からは僅かだが血を流していた。


「あなたが、ジャムさんですか?」

「ジャム……モントが言ってた人? 『紫色』の」


 先程モントから詐欺グループの情報を聞き出した時に名前が出たメンバー、ジャム。モントは名前のみ知っており姿は今の今まで目にした事は無かった。

 ジャムは黙ってナイドを抱き寄せ、お姫様抱っこの態勢に移行し立ち上がった。


「オレの策は失敗だった……! だが覚えていろ。今度会った時は最低でも1人は殺してやるよ!!」

「ひっ……」


 唐突に激昂したジャムの態度にモントは身体を跳ねさせ驚いていたが、ナイアは立ち向かおうと車輪に手をかける。しかしロックはジャムの様子を確認した後、辺りを見回した。


「あの警察官を探しているのか? 『水色』の白バイ女……!」

「“ロォド”さんは俺よりも速い。現にお前は身体のあちこちを痛めてるだろ? 足音と動き方で分かった。それにその言い回しから見るに、ロォドさんは無事らしいな」

「あっしまっ」


 策士ぶっているが失言を繰り返すのがジャム。恥をかいたため再び怒りが込み上げかけていたが、ナイドが瀕死だという状況を再確認し背を向け逃げ出した。


「これが今のオレにできる最善策! 人形ドールのエネルギーも切れそうだからな!」


 ナイドを抱えており速度は遅め。だがロック達は追いかけられない理由があった。


「うっ……傷が」

「テンション上がってたからなんとかなったけど、やっぱり痛いよこれ……!」


 分泌されていたアドレナリンの効果が切れ、2人は倒れ込み傷跡を抑える。ロックは左腕と右肩、ナイアは右の脇腹に銃弾を受けていた。痛みは絶大。敵がいなくなった事で安心はしたが、おかげで興奮も収まってしまう。


「はわ……ど、どうしましょうレイジさん!」


 無傷だったモントは慌てふためき、考えが浮かばずレイジに呼びかける。軽トラックから飛び出たレイジは砂利を撒き散らしながら2人に駆け寄り、先程止血に使った包帯の様子を見た。


「流石にこれだけじゃあかんかったか。こうなったら荷台に乗せるしかないんやが……」


 なるべく傷跡を刺激しないようロック達を運ぼうと意気込んだレイジ。しかしその瞬間、彼らに話しかける女性の声が。


「ロック……!? ねぇ、大丈夫なの!?」


 話しかける、とは言ってもモントとレイジの間に押し入りロックの様子を無理やり聞こうとしただけ。横暴な態度にレイジは苛立ちを覚えたが、彼女の顔が見えると途端に目の色を変えた。

 水色のショートヘアは艶があり美しく、紺色のジャンパーはファスナーが空いており白いシャツが見える。口は小さく顔も整っていた。


「ロ、ロォドさん! 大丈夫……とは言えないんすよ。相当怪我しちまって」

「だったら早く運んで……うあ……っ!」


 レイジに指摘をした直後、ロォドは腹部に手を当て苦しみ始めた。指の間からは血液が垂れ、息も荒くなる。


「ジャム……あいつにやられた傷が!」

「そんな身体で無理したら駄目じゃないっすか……。なぁモント、悪いんやがロォドさん頼めるか? 俺がロックとナイアに肩貸すわ」


 腹部に切り傷は負っていたが、ロック達2人に比べるとそれでも軽傷。


「悪いなレイジ……」


 ロックはそう呟きながら、ナイアと共にレイジに頼り軽トラックこと【RAGE OF ANGER】へと向かった。


「ごめんね、モント……って呼んでいいのかな? こんな小さい身体なのに」


 自身を支えるモントに対し、優しい声でロォドは声をかけるが、モントは上手く言葉を紡ぐ事ができず。


「あ……あの、その……えぇっと」

「どうした?」


 元々モントは積極的に喋る性格ではなかったが、昼頃にロック達と対峙した際、『警察官の1人や2人存在を消してしまえばいい』と言ってしまった事に罪悪感を覚えていた。


 結局、何も言えないまま彼女らは荷台に辿り着いた。毛布が敷かれたそこには既にロックとナイアが寝転んでおり、ロォドは運転席を背にして座る。


「結局、2人とも取り逃してしまったか……」


 相変わらず腹部を右手で抑えながら、安静にしているロックを見つめた。ナイアの方は眠ってしまっている。


「君達も詐欺グループに因縁があるのかい? あたしは夫と息子が騙された挙句……真っ二つに切断されて殺された。人形ドールの姿を見るに、多分あのジャムにね」


 まずは自己紹介から始めるため、ロォドはモントに問いかけた。ナイアにも質問はしたい様子だったが寝ていたため小さめの声。同時にレイジが運転席に乗り込み車体は揺れ始める。


「あ……はい。この方はナイアさん。お兄さんのナイドさんが詐欺グループ『MINE』の一員なんです。ナイアさん自身は今日までその事に気づいていなくって」

「そうだったのか……」


 するとロォドは腫れ物を見るような目をナイアに向けた。ナイア自身を嫌いになった訳ではなかったが、あまり関わりたくない、という気持ちが多い。


「それで、モントは?」

「っ、僕は……」


 再び口が上手く動かなくなる。ロック達に協力する理由を、真実をロォドに話しても良いのか。

 モントが出した答えは、本音を隠さない事だった。


「僕は……『MINE』の一員でした。先程数時間前まで」

「なんだと……!?」

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