第8話 怒りの矛先は正しいと信じたその先に
嬉々として右手を差し伸べたレイジ。そこに乗せられていたものは緑色のカプセルで、他と比べると一回り小さかった。彼の言った事をロックは理解できなかったが、信用しカプセルを手に取る。
「【ROCKING’OUT】のカプセルと組み合わせてみぃ! 近づけるだけでもOKや!」
「……わかった」
肩の痛みを堪えながら、ズボンのポケットに入れていたカプセルも取り出し2つを重ね合わせた。すると自動的に緑色のカプセルは4つに分裂、まるでカバーの様に灰色のカプセルと合体した。4つの角にそれぞれ緑色の縁が生まれ、色合いは良い。
「おぉ……」
「よっしゃ! これで【ROCKING’OUT】に【GLORY】の力が加わる。お前ら3人で決めるんや」
「私達、3人で……?」
モントの手によってナイアは負傷した脇腹に包帯を巻かれ、止血はされていた。意識は保ってはいたが激痛も伴っている状態。自分に出来る事はもうない、と諦めかけていた所だった。
「【GLORY】はオートバイとサイドカー、その2つで1つの
*
数分前まで、レイジとモントはガレージで共同作業に集中していた。預かっていたバイク3台は端に追いやられ、中央にはレイジの【RAGE OF ANGER】、そしてその荷台にはモントが出現させた【GLORY】が乗せられていた。レイジは荷台の上で工具を駆使し【GLORY】の力をカプセルにコピーしようと試行錯誤しており、モントは隣でそれを見守っている。
「こいつからカプセルを作る事が出来たらきっと……【ROCKING’OUT】の真価を引き出せるはずなんや」
「【ROCKING’OUT】の特殊能力って、まだ明らかになっていないんですか?」
「そうなんよ。ロック自身は“バイクとして走行できること”なんて抜かしとったが、実際は他にある。それは“現時点で所持者が不在かつ、他の乗り物の姿をした
壊れていた【FINAL MOMENT】も先程レイジが修理し、今度は【GLORY】を解体している最中。一つ一つのパーツ情報をカプセルに入れ込むためだ。レイジは10分程度この作業に没頭しており、額からは汗が滲み出ていた。時々手を滑らせ工具で指を切ってしまい出血もしていたが、一瞬も手を休ませはしなかった。
「どうして……そんなに頑張るんですか?」
思った事をそのまま口に出していた。出会ったばかりの人間なのだから理由を予想できないのも当然だが、モントにとっては不思議だった。彼女は物心ついた時から暴力団の一員で、レイジの様に他人への心遣いや親切の意思を持って努力し、傷ついてまで奮闘する者は今まで目にしていない。
「……ただ、笑い合いたいだけなんや。ロックとな」
「え?」
全くもって具体的でない返答に、モントは首を傾げ戸惑った。『笑い合いたい』だけでは、彼女を納得させる事は叶わない。
「俺は小学生の頃からロックと付き合ってた。女癖の悪いこの俺に、優しくしてくれたのはあいつだけ……フラれた時には励ましてくれたりな、俺の彼女候補探そうって一緒にイアと3人ではしゃいだりな。ま、今よりよっぽどテンションアゲアゲで笑ってたで。懐かしい……1ヶ月前なのに、な」
作業のペースを落とし、優しい語りでモントへと打ち明け始める。左胸まで垂れ下がった後ろ髪を触り穏やかな瞳にもなった。
「でもイアが殺されてから、あいつは全然笑わなくなったんや。ほんまは寂しくて苦しいはずなのに表に出さず……変わっちまった。だから俺はイアを殺したナイドと、『MINE』を許さない。それにあいつが笑わなくなっちまった分、俺は笑うんや。ふざけるんや。あいつが変わっても俺は変わらない。変わらず支え続けて……全てが終わってから、あいつにも沢山笑ってもらうつもりやで?」
言い終わった瞬間、レイジは恥ずかしくなったのかモントから目線を逸らし作業に戻った。
「ま、まぁロックの“MINEを潰す”って理由やナイアの“兄と真実を突き止める”って理由からしたら、そこそこしょぼいもんになっちまうけどな……」
「いや、そうは思いませんよ」
予想外の言葉が返り、再びレイジはモントの方を向く。その時の彼女の瞳は澄んでおり、感激した様子で励ましを送り始める。
「とっても立派じゃないですか。日常を、取り戻したいんですよね? きっと僕にはできない、立派な事です。僕は人質に取られた大切な人を助けて、元通りにしたい……なんて思ってましたけど、『MINE』の命令に従ってそれを叶えても、あの人は悲しむだけですよね」
「モント……ありがとな。照れくさくてロックには言えてなかったんやけど……お前のおかげや。少し肩が楽になったで」
するとレイジは右手を伸ばし、モントの黒髪を優しく撫でた。数秒の間、何が起こったのか理解できなかったモントだが、頭を撫でられたと気づいた途端を頬を赤らめる。
「タ、タオルと飲み物持ってきますねー!」
あからさまな照れ隠し。半ば無理やりレイジの右手を引っ剥がし、荷台から降りて家の中へと突っ走っていった。
「転ばないように気をつけろよ〜?」
親切なレイジの忠告が渡ると、モントの足音は小さくなり大人しくもなった。
「【RAGE OF ANGER】の意味は“怒り”……けど俺まで怒りに飲まれちゃおしまいや。俺は変わらずロックのそばで笑い続ける……怒りを笑いで出力させる。『MINE』を壊滅させるっていうロックの願いが叶うまで」
*
そして今に至る。レイジとモントが完成させた【ROCKING’OUT・GLORY MODE】のカプセルから
「何をしている……? あの
少し後悔したナイドは【MIDNIGHTER】を前進させ、軽トラックの裏に隠れたロック達を今度こそ始末しようと考えた。
しかし次の瞬間、軽トラックの陰から3つのシルエットが飛び出す。ナイドは素早く反応し【MIDNIGHTER】の口を向けたが、それらの姿に息を呑んだ。
「な……その
彼の目に映ったものは、異質なバイクとサイドカー。2つのバイクに挟まる形で、中央にサイドカーが位置しておりもはや“サイド”とは言えない状態。
右の灰色をしたバイクは【ROCKING’OUT】であり、勿論ロックが跨っていた。
左の緑色をしたバイクは【GLORY】。オートバイのため少しサイズは小さく、モントが跨っている。
そして中央のサイドカーにはナイアが乗り込んでいた。【WANNA BE REAL】を両腕に装備している。バイク2台とサイドカーが合体し、その上に自転車を身にまとった少女が乗っている光景は正に異形そのものだったが、ナイドへの圧力は生半可なものではない。
「【ROCKING’OUT・GLORY MODE】! お前が殺したイアの、両親が使っていた
モントが扱う【FINAL MOMENT】の“死亡した人間の
レイジが扱う【RAGE OF ANGER】の“
そしてロックが扱う【ROCKING’OUT】の“他の乗り物の姿をした
彼らの力を合わせ、形にした努力の結晶。ただ1人ナイアは関わっていないものの、乗りながら自由に攻撃出来る人間は彼女のみ。ロックとモントは息を合わせて操縦しなければならないからだ。
「兄さん……あなたに罪の償いを、させてみせるから」
ナイアは両腕の車輪を回転させ始め、同時に2つのバイクが発進しナイドへと突き進む。
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