第5話 覚悟を決めた男達
顎を上げ、見下し嘲笑うナイド。そんな挑発をまともに受け取ってしまったロックはナイアから離れ立ち上がる。
目元がピクピクと震え、眼球もハリを増し口は半開き。先程もナイドの話をしただけで激昂しかけていたのもあり、ナイアは再び恐怖を抱いていた。
「ナイアごと俺を仕留めようとしたな……!? 銃弾を貫通させて!」
「そうだね、貫通するだけじゃ命に別状はないからさ……ロックみたいに。僕もナイアは殺したくない。大切な妹だし」
ナイドの
かつてロックはイアの前に立ち銃撃から庇ったが、結果ロックの身体を貫通しイアに命中、絶命した。その時と同じように、ナイアの身体を貫通させロックを殺害しようと、ナイドはこうして背後からの不意打ちを狙った。
「ナイド……! その大切な妹を利用するつもりだったのかよ! やっぱりお前は正真正銘のクズだ。今度こそ身動きもとれないくらいに……半殺しにしてやる」
殺すつもりはなく、しかしそれでも余りある殺意はロックの身体から滲み出ている。だがナイドも怯えず、口角を上げながら挑発を続けた。
「……1ヶ月前は僕も油断していた。だけどね、今回は違うよ。ナイアを殺す訳にはいかないから全力とまではいかないけど……僕は君を、殺す勢いだよ」
ナイドの右足が1歩踏み込まれた瞬間。
ロックは思い切り地面を蹴り砂利を散らした後、【ROCKING’OUT】へ飛び乗ろうとする。
【MIDNIGHTER】の口からは弾丸が発射されたが、狙いは最初から【ROCKING’OUT】の座席部分に向けられていた。
ロックは座席に乗る事はできたものの、発砲音と同時に身体を右に傾け回避を試みる。ところが弾丸の速度は彼の想定を超えており、左腕の肘付近に弾丸が命中した。
「がぁ……っ!」
「これでハンドルも満足には握れない!」
貫通した弾丸は砂利道に突っ込み勢いを失った。だがロックは勢いをとどめる事なく、すぐさま両手でハンドルを握りバイクを加速させた。
これにはナイドも驚く。傷跡からの出血は酷くなり辺りに撒き散らす程だというのにロックは止まらない。
「すごいな……普通一旦動き止まるくらいはするでしょ」
ナイドも余裕は崩さず、長い手足での格闘戦で受け止めようと意気込んだ。銃弾による攻撃を続ける選択肢もあるにはあったが、1ヶ月前の戦闘では【ROCKING’OUT】がウィリー状態になる事でそれは防がれている。よって長い腕を活かしバイクからロックを引きずり下ろす、という策を即席でナイドは考えた。
「来なよ」
2人の距離は10メートル程度だった。それも【ROCKING’OUT】の強力な加速によりあっという間に縮められ、ナイドの前に移動した【MIDNIGHTER】と正面衝突する瞬間。やはりロックは車体を持ち上げウィリー状態に移行した。
「甘いね! これで終わりさ」
押し潰す形で前輪が迫ったがバイクの腹部、つまりエンジン部分に向かってハイキックを【MIDNIGHTER】は放った。金属同士がぶつかり衝撃音は大きなもの。間髪入れず長い手足がロックへと伸びていく。
「やっぱりそう来るよな……!」
「なんだって?」
一連の動きを予測していたロックは、自らバイクから離れた。離れたとは言っても車体を踏み台に真上へとジャンプする事で【MIDNIGHTER】からの捕縛を逃れ、ナイドへ急降下。
「まさかあの時のように!?」
1ヶ月前、ロックがナイドに与えた最後の一撃が急降下からの顔面踏みつけだった。しかしロックは思いがけない行動に出る。
着用していた黒いパーカーのファスナーを下ろしその内側、右部分に左手を突っ込む。夕方頃にはナイアに見せていたため彼女は察していた。
「あれは折り畳みナイフ!?」
改造が施され、様々な道具が針金によって吊るされていた。その中からロックが選んだのは折り畳み式のナイフ。勢いよく左手は振り抜かれ自重で刃は飛び出し、ナイドへと投げられた。
彼の【MIDNIGHTER】はバイクの車体への対処が精一杯だっため身動きが取れない。正に無防備な状態だったが、ナイドは間一髪で頭を右に傾ける事で避けた。
「避けたぞ……!」
「まだだっ」
ナイドは一瞬だけ安堵してしまい、追撃への反応が遅れた。しかし彼からしてみればロックは武器を持っておらず、油断するのも致し方ない状況ではあった。
それに、つい先程折り畳みナイフを投擲したはずの左手には、何かの道具が握られていたのだから。辺りは暗い事もあり、どう対応すれば良いのかナイドも分からず咄嗟に右手を前に出し防御の体勢。
「……ぐっ、がぁぁぁぁぁ!!!!」
響き渡った悲鳴はナイドのもの。街頭がチカチカと点滅している中、ナイアの目に映った彼らは取っ組みあっていた。お互い1歩も譲らず、歯を食いしばりながら睨み合いを続けている。
「その、ドライバーは……!」
痛みを堪えた唸り声でナイドは自らの右手に視線を変える。ネジを締めたり緩めたりするために使うドライバーが、ナイドの右手を貫通し真っ赤な鮮血を銀の棒に纏っていた。
「ああそうだ……! ナイフを投げる直前、お前に空けられた銃痕にドライバーの先端部分を自分で突き刺した! 暗くてよく見えないっていうのもあるが、持ち手部分は背後に向けた上に視線はナイフに誘導されただろ……?」
ロックはナイフを振り抜く瞬間、先程銃弾が貫通した穴にドライバーをするりとはめ込み、痛みに耐えながらナイフを投げた。投げた瞬間に腕は曲がるため、肘付近に突き刺さっていたドライバーはすっぽ抜ける。が、抜けた瞬間に今度はナイフが離れた左手でドライバーを手にし襲いかかった。
「俺は今回で貫通する痛みを2度も味わったんだ……このくらいお前にもお返ししてやらないとな!」
「傷跡は酷くなるというのに、なんて奴……やっぱり君は殺さなきゃいけないみたいだ」
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