第4話 ジャムの策は良いだろぉ!

「……分かりました、すぐいきます。聞いたな? レイジも戦闘向きの人形ドールではないし、俺とナイアで行くぞ」


 説明不足ではあるが他の3人もある程度は理解した。ロックとナイアがモントと戦闘を繰り広げていたのと同時刻、詐欺グループMINEの『紫色』がロックの協力者と対峙していたためだ。

 きっとその協力者を確実に潰すため、2人がかりで襲いかかったのだ、と。


「モントの人形ドールは私が壊しちゃったもんね」


 墓穴を掘ってしまっていた事に若干後悔している様子のナイア。緑色のもみあげを弄って気持ちを誤魔化してはいたが、当時はモントを仲間として迎え入れる確証なんてものはなかったため、仕方ないとも言える。


「……もし壊されていなくても、僕はナイドさんと戦いたくはありません。僕じゃ、勝てませんから」


 唐揚げと箸を戻したモントはまたしても俯いた。ロックも1度ナイドと戦った事はあるが、その際ナイドは本気を出さず油断した所を押し切られていた。

 敗北を知ったナイドは油断や様子見などせず全力で挑んでくるはず。そう推測したロックは表情を苦くさせ椅子から離れた。


「もう行くぞナイア。覚悟は……できてるよな?」


 実際にナイドと対面してみなければ分からないが、ナイアはひとまず頷き先に歩き始めたロックの後を追う。

 玄関へと向かう2人を心配の視線で見送るモントだが、レイジは信頼しており無表情で背中を見つめていた。


「なぁモント。俺の【RAGE OF ANGER】とお前の【FINAL MOMENT】……2つの力を組み合わせてちょっと試したい事あんねん。付き合ってくれへんか?」

「え? あ……はい」


 話を振られるとは思っていなかった彼女は、体を少し跳ねさせ応答した。そもそもモントの【FINAL MOMENT】は既にレイジの元にあったため拒否されたとしても、レイジの意思によって出現はさせられる。しかし彼も本人の意思は尊重したいようだった。



 *



 既に時刻は19時を過ぎた所。太陽は沈み月明かりと街灯が、人の気配がない公園とそこに立ち睨み合う2人を照らしていた。

 一方は滑り台の上に立ち、鉄製の柵に上半身を預け前のめりの体勢。

 もう一方は、独りでに揺れるブランコの前に立ち滑り台の上に顔を向けていた。


「まさか、1日の内に2回も会うなんてね」


 ブランコの方の人物は女性。1歩踏み出した事で街灯の光が上半身に当たり姿が晒された。

 水色のショートヘアは艶があり美しく、紺色のジャンパーはファスナーが空いており白いシャツが見える。口は小さく顔も整っていた。

 彼女の名前は“ロォド”。警察官であり、ロックの協力者だ。


「そうだろうそうだろう? 良い策だろう? お前はロックに連絡をしたが……ナイドが迎え撃つ! このジャムがお前の相手をしている間に、ロック達は始末されるって策なんだよ!」


 ご丁寧に策略だけでなく名前も明かしたジャムは、男とも女とも判別がつかない見た目をしている。服は白いが肩から先の腕部分が黒色のため、影に隠れ両腕が確認しづらい。

 すると紫の髪をたなびかせながら滑り台に飛び乗り、まるで子供の様な笑顔で砂場まで滑り降りた。


「ロックから聞いた話によると、“肉眼で見た相手の思考を見通す”能力を操るメンバーがいると聞いた。ジャム、貴様で間違いないみたいだな……?」

「あぁそうさ! そしてオレの人形ドールでお前は切り刻む!! オレの策に溺れろよ!」

「小学生が考えたような策だと思うがな。普通、2人で1人を確実に潰した方が良いだろう」

「てめぇ……! 決めた。策も使わずにお前は殺してやるよぉ! 小学生以下に殺されろよぉ!」



 *



 ロォドから伝えられた公園へと向かうロックとナイア。公園は広く大きめのショッピングモール程の面積がある。どこで遭遇した等という情報はなく、当てずっぽうで探す必要はあるが人形ドールを使って戦闘しているというのであれば音が鳴る。そこまで重要な問題ではなかった。

 既に【ROCKING’OUT】に2人は跨り、ナイアも腕に【WANNA BE REAL】を装備していた。


「ここだ。周りに木が植えてあるし、街灯も壊れてるのが混じってる。視界は良くないな……」


 公園の入口には着いたがロックが危惧した通り、周辺は暗く足元の様子も伺えない程。しかし【ROCKING’OUT】ではない他のマシンのエンジン音と、空気を切り裂く鋭い音が2人の耳に入る。

 公園内部へと続く砂利道にバイクの前輪が乗せられ、慎重にゆっくりと前進する。


「どこだ……どこから聞こえる?」

「あっ、多分あそこから」


 ナイアが指さした先には滑り台やブランコ、鉄棒にジャングルジムといった遊具が集まっていた。階段を下って30メートル前進した所にあり、2つの音の主である人影が見える。


「ロック、早く行こ?」

「……ナイドの【MIDNIGHTER】は切り裂く攻撃なんて使っていなかった。さっきから聞こえてる音にもそれらしきものはない。……まさか!?」


 背後からの嫌な予感。ロックの脳裏に過ぎったそれは無意識に彼の体を動かす。


「ナイアっ!」

「ふぇっ!?」


 後ろに乗っていたナイアの様子も確認せず右手を引き、共に砂利道を転がりこんだ。直後、2人が座っていた所に灰色の銃弾が通過する。幸い怪我は出血しない程度の擦り傷のみで、すぐさまロックは顔を上げ銃弾が放たれた方に意識も向けた。


「ちょっ、いきなりなんなのロック……」

「ナイド……!」

「え?」


 状況を理解できていないナイアだったが、たった一言だけで頭の中が空っぽとなってしまう。ロックが憎悪の視線を向けている先に、ナイアも顔を。


「1ヶ月ぶりくらいだね、2人とも……」


 緑色のジャケットを羽織っており、傷だらけのジーパンも。眼はやや細く、そして右目を隠すほど長い髪の色は灰。背丈は2メートルを超えている。

 ナイアの兄であり、イアを殺したナイドが立っていた。


 彼と並び立つ人形ドールはいかにもロボットと言った風貌で、灰色の胴体はまるでエスカレーターの踏み板のようにギザギザとした波状。顔の部分は人間と同じようなパーツが無機質ながら揃ってはいるものの、口は開いたままで可動には対応していない。四肢は細く黒い支柱を中心として、カバーのようにフラットな灰色の板が覆っている。更には両腕が特に長く、床に擦れてしまうほどだった。


「そしてこれが【MIDNIGHTER】……今度は避けたね。口から発射される銃弾は、肉体くらいは容易く貫通する……って、もうロックはその身で味わってたか」

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