第6話 本当の姿を表して

 聞いた事のある名が耳に入り、ナイアは明らかに動揺した様子。うつ伏せに倒れ込んでいたロックも反応し、ハッと頭を上げた。

 コントロールをなくしただ落ちるだけだった【GLORY】は、着地する寸前で再び黒い衝撃波に包まれる。そしてやはり、変形。


 人間の骨に竜巻状の黒色をした鎧が巻きついているような姿。竜巻の鎧とは言っても中身の骨は所々見えており、防御面には期待できない印象。

 現れた人形ドールは、かつてロックの目の前で命を落としたイアの【LIAR】だった。ただし竜巻状の鎧はイアのものとは違い緑ではなく黒。


「そんな……まさか……」


 何かを察したロックだが何も出来ず体を震えさせるだけ。【LIAR】から目を離さず、近づこうという心意気はあったが。

 モントに従う【LIAR】は2つの車輪の前に瞬時に移動し、両手で同時にパンチを繰り出す事で見事弾き飛ばした。飛んで行った先はナイアで、彼女も両手を突き出すと車輪は元の位置にセットされる。


「モント、お前の【FINAL MOMENT】の能力は……“死んだ人間の人形ドールを扱える”能力だとでも言うのか……!?」

「……そうですよ。と言ったら信じますか?」


 はぐらかすモントとは対照的に、感情的となっているロックは無理やり身体を動かし立ち上がった。黒いパーカーとズボンには埃や白い汚れが付着している。

 続いてロックは僅かながら心当たりのあった【GLORY】について問い詰める。


「あの【GLORY】って名前のオートバイとサイドカー……どこかで見た覚えがあると思っていたが……イアの両親の人形ドールだな? 思い出した…………確か『2人の人形ドールで一緒によく外出してた』って、イアから聞いた事がある」

「そうですね。正解ですよ」


 かつての想い人の両親が扱っていた人形ドールによって潰されていたかもしれない、という可能性を探ったロックは恐怖と容赦のなさに怯えた。

 唯一3人の中で話に着いていけていないナイアは首を傾けながらも、もう1度攻撃のチャンスを見つけるためモントを睨み続けている。


「詳しく説明すると、使んですけどね。例えばこの【LIAR】なら“声を聞いた人間が嘘をついているかどうか直感で分かる”事はできない。あくまで形を真似るだけ……でもあなたに、こうやって精神攻撃くらいはできるんですよ」


 彼女の言う通り、【LIAR】が現れた事でロックの額からは更なる汗が滲み出ていた。しかし【LIAR】のパワーや戦法を知り尽くしてもいるため、メリットとデメリットは釣り合っている。

 しかし、次にロックが抱いた感情は『レイジ』だった。


「ま、待て! イアは普段本当の能力を隠していた……“声を聞いた人間が嘘をついているかどうか直感で分かる”って力は、俺とイアの他にただ1人しか知り得ていない! イアを殺した張本人……『ナイド』だけだ!!」

「……えっ」


 けれどナイアも口を開けて驚いた。息も荒くなってきている。

 何故なら──


「ナイドって……私の、兄さんだよ……?」


 小さく震えていた声だったが、内容はしっかりとロックにも伝わった。ナイドとナイア、似ている名前なのだと彼は今更になって気づく。

 動揺している2人とは違いモントは乾いた笑いをこぼし始めた。


「アッハハ……やっぱりナイドさんはいやらしい人ですね」

「そうか、ナイドはまだお前たちの所にいるんだな!?」


 再び着いていていけない会話に巻き込まれたナイアだが、自身の兄がイアを殺した犯人、そして詐欺グループに関わっているという真実に悪い意味で心を揺さぶられている。

 そして朦朧とした瞳で2人を見つめていた。


「あの日の後、俺は交番の警官と一緒にこの廃工場に戻った……でもイアの死体とナイドの姿は何事も無かったかのように消えていた! おかげで取り合ってもらえなかった……。お前か、グループの他のメンバーが証拠を隠滅したんだろう。そうだろ!?」


 アドレナリンが分泌したのか、傷を負った背中を気にせず彼は走り出し自らの拳でモントを仕留めようとする。

 モントの背後に浮いていた【LIAR】は軽くジャンプをし140cmの背丈を飛び越え、迫るロックの真正面に立った。


「無策で突っ込んでくるなんて、幻滅しましたよ」


 紛い物の【LIAR】は右ストレートでロックのパンチに対抗する。当然、ただの人間であるロックが押され動きも止まってしまう。更に衝撃により指の骨にヒビが入り、歯ぎしりをするほど食いしばる。


「これで終わりですよ!」


 骸骨のような左腕を振りかざした先は腹部。命中すればロックの内臓はことごとく破壊されるであろう一撃。

 しかしロックは口の端を少しだけ上げ、両手を使い【LIAR】の手首を掴んで防御した。


「なっ」

「今だ……【ROCKING’OUT】!」


 モントの背後から少し離れた位置に立っていた【ROCKING’OUT】は未だにウィリー状態だ。すると【ROCKING’OUT】は独りでにバランスを崩し始める。

 バイクとは言っても人形ドール。モントが今のように自分の意思で【LIAR】を動かしているのと同じ要領で、ロックも自身の人形ドールを動かした。しかし、【ROCKING’OUT】はその形状故に細かい動きには対応していない。


「まずっ……」


 押し潰される、そう感じ右眼のみを後ろにやったモントは動きが止まった。震えもせず、『この状況をどうすれば良いのか』と頭が思考を張り巡らせている。


「いや、この距離なら……」


 だがモントは途中で思考を一旦放棄した。理由としては“自分には届かない”から。文字通り少し離れていたため、直撃はしない。

 その予想通り、モントの背中スレスレに前輪が通過する。しかし彼女の右眼に映ったものは。


 寸前まで車体に隠れて見えていなかった、車輪。


「えっ」


 想定外の攻撃に驚き、瞬時に振り向いたモントは顔の前で腕を交差させ防御の体勢をとった。

 ところが、緑色の風を纏った車輪が向かった先は右側頭部。ヘルメットの上から強烈な打撃が襲いかかる。先ほどのものとは回転数も増加しており、風の力もあってモントは左の方へと吹き飛んでいった。

 と同時に、【LIAR】がスケートボードへと変形し飛ばされた持ち主の元へ戻っていく。


「……驚いたのは本当だけど、隠れて車輪を回転させてもらってたから」

「ありがとなナイア。俺の狙いを感じ取ってくれて」


 隙が見つかるまでナイアは、背中に右腕を隠し車輪を回転させていた。

 そして車輪は【ROCKING’OUT】の大きい車体の影に隠れていた。


「確かに戦意を喪失しかけた……でもね、兄さんがどんな目的を持って、どんな目標を掲げてあなた達詐欺グループの一員になってしまったか……モントの口から聞きたくなったの」


 今までの会話は全て『本音』だったとナイアは【WANNA BE REAL】の能力で理解していた。ナイドが詐欺に手を染めていた真実。ナイアはそれに押し潰されそうになったが、理由を聞く事でどうにか悲しみを抑えようとこの発言と行動に至った。


「そう、ですか……ロックさんの方も【LIAR】を逆手に取りましたし……僕自身が戦わないといけないんですか」


 今度はモントの黒い服が汚れ、気だるそうに起き上がる。廃工場の壁にもたれると、ナイアの攻撃で壊れたヘルメットが割れ、彼女の素顔が明らかになる。


 ボサボサと整えられていない黒色の髪。幼い童顔は可愛らしい印象を見る者に与え、小さく開いた口から他人任せの発言が飛び出る。

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