第7話 黒への引導を

「はぁ……救援が来るとは聞いていたんですが。なんで僕1人だけ」


 ロックとナイアには事情を推測する事しかできない独り言。とは言っても2人には心当たりがあった。

 協力者が相手にしていたという『紫色』の人物だ。


「それはあれだな。俺達の仲間が1人、足止めされてるって聞いた。多分そいつだ……紫色、だろ?」


 右手の指の骨が3つ折れていたロックは左手を使って指をモントに向けた。常人ならば悶絶はせずとも少なからず苦しむほどの痛みだったが、彼は気にせずやりたい事を優先している。

 胸を銃弾が貫いた事もあるため、その物理的な痛みとイアを殺してしまった精神的な痛みに比べれば、現在の傷は掠った程度だと感じていた。


「……嘘をついても見抜かれますよね。そうです、紫色です。でもその協力者の方も無傷では済まないと思いますよ。彼、強いですから」

「だったらそいつも怪我すると思うぞ? なんたって俺に協力してくれるあの人は……警察官だからな」


 国家権力、その1部。詐欺グループにとっては天敵そのものと思われたが、モントは少し口を開けただけで特に動揺はしていない。


「別にいいですよ。警察官の1人や2人……存在自体を消してしまえば良い話です」

「うーん、ちょっと嘘を感じた」


 能力によって少々の嘘を見抜かれていた。ムッとした表情に変わり、モントは【FINAL MOMENT】に飛び乗った。


「本当は人殺しなんてしたくないんでしょ? 最初に私を襲った時も『ごめんなさい』って言ってたじゃん」

「っ……! 確かにそうですが、するしかないって言ってるじゃないですか!!」


 激昂したモントは床を蹴り加速。スケートボードのホイールは相変わらず大きな音を鳴らし続けている。

 ロックは横転していた【ROCKING’OUT】を、唸り声を出しながら左腕のみを使い無理やり起こす。隙は大きかったものの、カバーするためナイアも動いた。


「今度は当てるからねっ!」


 1度は避けられた、パンチの動作による車輪の打撃を狙っている。射出せず直接の攻撃を行うメリットは十二分にあり、

“戻ってくる車輪を待つ必要がない”

“攻撃しながら車輪の回転数を上げ続けられる”

 というもの。特に回転数は無尽蔵に増加させる事ができ、緑色の風も強まるため数百回転させた時の破壊力は抜群。もちろん人間の身体にまともに当ててしまえば命の保証は無い。


「お願い、【LIAR】! 彼女を退かせる!」

「退くわけないでしょー!」


 自身の人形ドールへと願望を送ったモントは飛び降り、同時にスケートボードは【LIAR】へと変形する。黒い衝撃波から右腕だけが飛び出し、【WANNA BE REAL】の車輪と激突。


「確かにパワーはすごいけど、緑色の力はない! それに竜巻の鎧には……うってつけの隙間がある!」


 人間の骨に竜巻状の黒い鎧が纏われているが、隙間もある形をしていた【LIAR】。そしてその隙間は自転車の細い車輪がちょうどよく侵入できるサイズだった。

 右ストレートを左の車輪で受け止めたナイアは、【LIAR】の胴体部分に右の車輪を仕向けた。至近距離で射出された車輪は鎧の間をすり抜けていき、あばら骨と背骨の一部分を砕く。


「くっ……」


 更に衝撃によって後退した【LIAR】は後ろに立っていたモントにぶつかる。秒ほどの隙だが彼らは見逃さない。背に視線をやったナイアは左方向に跳び真打に追撃を任せた。


「いくぞ!!」


 モントの視界に【ROCKING’OUT】とロックが入る。既にスピードは出ており、回避はできないと踏んだモントは防御の体勢へと移行した。


「【GLORY】……!」


 散らばった骨ごと黒い衝撃波に包まれ、オートバイとサイドカーに変貌。オートバイとオンロードバイクが真正面から衝突した。これの衝撃もなかなかのもので、ロックとモントの2人は同時に身体が揺れていた。


「今だ【FINAL MOMENT】! 元に戻れ!」


 揺れながらもモントは命令を下した。小規模な黒い衝撃波と共に【GLORY】は早々に役目を終え、スケートボードに変形。続いて瞬時に飛び上がった。

 勢いを失っていない【ROCKING’OUT】は当然急には止まれなかった。スケートボードとロックの上半身が水平になり、やはり激突。


「決まった……」


 ロックの顔面にスケートボードの底がとんでもない勢いでぶち当たり、この一撃で気を失った、とモントは確信し気を抜いた。その瞬間。

 ロックの腕が動き出し、モントの両足をガッシリと掴む。


「なっ……!?」

「この程度の、痛み……!」


 どんな表情をしているか、スケートボードで隠れて確認はできていなかったが覚悟が決まっているのは明らか。

 そのまま【ROCKING’OUT】は走り続け、廃工場の壁へと近づいていく。モントはどうにかして逃れようと上半身をじたばたさせてはいたが当然脱出はできない。


「お、お願いラ────」


 スケートボードを【LIAR】へと変形させ力ずくで引き離そうとしたものの、時すでに遅し。人形ドールの名前を言い切る前に壁へと衝突した。

 頭と背中に絶大なダメージを負ったモントはピクピクと震え、スケートボードも離れ床を転がった。


「えいっ」


 その先に立っていたのはナイア。尚も回転し続けていた左の車輪の一撃によってスケートボードは中心から真っ二つとなった。


「そ、そんな……」


 絶望のか細い声と共にロックの腕からやっと離れ、倒れたモントは【FINAL MOMENT】の残骸を涙目で見つめる。

 ロックも振り向きナイアへと顔を見せたが、鼻は折れていて目元からも出血。唇も切り目も当てられない状態だった。


「大丈夫……?」

「大丈、夫じゃないな……痛い……」

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