超実力主義な勇者パーティ

優木凛々

超実力主義な勇者パーティ

ラスティア王国の謁見の間で、黒目黒髪の青年が国王の前に跪いていた。


「勇者よ、よくぞ参られた。この世界の平和はお主にかかっておる。頼んだぞ」

「はっ。1日でも早く魔王を倒す所存でございます」


凛と響く決意のこもった勇者の声。

周囲を囲む貴族達から、大きな拍手が沸き起こる。


青年は、『勇者』。

先日、二ホンという国より召喚されてきた異世界人だ。

魔法士によると、ステータスは歴代勇者の中でトップレベル。

最上級鑑定やアイテムボックスなどの希少スキルを多数所持しているらしい。


この世界では、スキルが絶対。

スキルが強力かつ希少な者を輩出した家は、地位も名誉も格段に向上する。

加えて、スキルは遺伝性。

多くの貴族が、勇者の元に自分の娘を送り込もうと画策していた。


拍手が収まると、王が言った。


「それでは、勇者と同行する者達を紹介しよう」


王の横に立っていた大臣が、「前へ」と言うと、群衆の中から、3人の人物が出て来て、王の前に跪いた。


「紹介しよう。

右から、聖騎士であり、宰相の息子でもある、アルベルト・リーディアル。

魔法使いの、マーガレット・レアル。

そして、聖女であり我が娘でもある、ローズマリア・ラスティアだ。

我が国で用意できる最高のメンバーを揃えた。必ずや勇者の役に立つであろう」


3人は立ち上がると、それぞれ勇者に挨拶した。


「ローズマリア・ラスティアです。王女ではありますが、これからは同じパーティメンバーです。どうぞ気軽に「ローズ」と、お呼び下さい」

「聖騎士のアルベルト・リーディアルだ。「アルベルト」でいい。前衛は任せてくれ」

「……私はマーガレット。魔法は得意。任せて」


勇者は、ジッと3人を見た。


美しい金髪と透き通った青い目の、妖精のように可憐なローズマリア。

絵に描いたような見目麗しい銀髪の騎士、アルベルト。

ボーっとして何を考えているか分からないが、とりあえず美人なマーガレット。


「どうじゃ? 勇者? なかなかであろう?」


自慢げに言う国王。


勇者は、フウッと息を吐いた。

そして、ふらり、と、立ち上がると、鬼の形相で怒鳴った。



「ふざけてんのか! お前ら!」



あまりの剣幕に、無礼を咎めることも忘れて、ポカンとする王侯貴族達。


勇者は、ビシッ、と、王女ローズマリアを指差した。


「まずお前だ! お前、びっくりするほど弱いじゃねーか!」

「なっ、何をおっしゃるんですかっ!」

「何をおっしゃるんですか、じゃねえ! 俺は鑑定が使えるから分かるんだよ!

お前、レベル2じゃねーか! この前森で見かけたゴブリンですらレベル5だぞ!? 低すぎるだろうがっ!」


シンと静まり返る謁見の間。

王女が引き攣った笑顔を浮かべて言った。


「た、確かに私のレベルは2ですが、私は回復魔法が使えます!」


勇者は怒りの形相で、目を、カッ、と、見開いた。


「回復魔法って、<小回復>だけじゃねーか! お前、それで聖女を名乗るとか、烏滸おこがましいにも程があるだろ!」


笑顔のまま、ツーっと目を横に反らすローズマリア。

我に返った国王が慌てて叫んだ。


「ま、待て、勇者よ! ローズマリアは確かに回復魔法が得意ではないし、レベルも低い。しかし、ここにいる誰よりも国のために祈ってきた!」

「うるせー! 祈って国が救えるかよ! 俺が求めてんのは戦力なんだよ!

―――それと、お前!」


勇者は、呆気に取られて立ちすくんでいる聖騎士アルベルトを、ビシッ、と、指差して叫んだ。


「そもそも、お前、女じゃねーか!」


戸惑うようにどよめく貴族達。

宰相は真っ赤になって叫んだ。


「そ、そんなことは! でたらめはいけませんぞ! 勇者様!」


大臣の反論に、勇者は溜息をつくと、うんざりした表情で言った。


「あのさあ、最上級鑑定が使える俺が間違うハズがないだろうが。読み上げてやろうか? 『アルベルト・リーディアル。本名カミラ・リーディアル。ラスティア王侯の宰相、ロレアル・リーディアルと妻アマンダの間に長女として生まれるも、3歳の時に1つ上の長男アルベルトが流行病で死亡。後継ぎ問題から、長男として育てられる』―――なんか間違ってるか?」


いきなり公開された御家事情に、フラリと倒れる宰相。

聖騎士アルベルトは、キッ、と、勇者を睨んだ。


「だとしても! 私の実力に問題はないハズだ! まさか女だから弱いとでも言う気か?!」


勇者は、般若のような顔で、足を踏み鳴らした。


「ふざけるな! 男か女か以前に、お前、あそこにいる髭のオッサンより全然弱いじゃねーか!」

「あ、あれは騎士団長で……」

「馬鹿かお前! 魔王を倒すための勇者パーティなのに、何で “ そこそこ強い “ お前が同行するんだよ! 俺は魔王を倒したいんだよ! 「アイツが実は女だったなんて」的なイベントとか要らねーんだよ!

―――それと、あんた!」


勇者は最後の1人である、眠そうな顔をして立っている魔術師マーガレットを、ビシッ、と指差した。


「あんたに至っては、ステータス状態が「誘惑」と「傀儡」じゃねーか! っていうか、後ろに付いてる紐は何なんだよ!」


再びざわめく貴族達。

国王が慌てて尋ねた。


「どういうことだ? 勇者?」

「こういうことだよ!」


パチリと指を鳴らす勇者。


その瞬間、その場にいる全員が、マーガレットの背後に細い紐が付いていることに気が付いた。


「な、なんだ!あれは!」

「あれは……、ま、まさか! 傀儡操作糸じゃないか!」

「握っているのは……、なにっ! 魔法師団長だと!」

「どういうことだ! 師団長!」

「む! まさかこやつ……、魔族か!?」

「なっ! いつの間に!」

「と、捕えよ!」

「気を付けろ! 何か仕掛ける気だぞ!」


ハチの巣をつついたような騒ぎになる謁見の間。



――――そして、大捕り物が終わった10分後。


「す、済まなかった、勇者。まさか魔法師団長が魔族とは……」


頭を下げる国王と宰相。


「お主がいなければ、この大広間が血の海になったであろう。恩に着る」


勇者は仏頂面で言った。


「これで分かっただろ? 相手は超本気でこっちをつぶしにかかってきてる。こんな時に、お遊びのお色気パーティとか作ってる場合じゃないっつーの」

「う、うむ」

「じゃあ、パーティメンバーは俺直々に実力重視で選ぶってことでいいよな?」


国王は溜息をついて言った。


「……こうなっては仕方あるまい。よろしく頼むぞ、勇者」






―――そして、3か月後の勇者パレード。


大観衆の中を進む勇者専用オープン馬車に、選ばれし4人?が座っていた。


「ふぉっふぉっふぉ。わし、もうすぐ100歳なんじゃけど、勇者パーティになんて入って、ええんかのー」

「仕方ねーだろ。魔法士の中であんたが断トツの実力者だったんだから」

「ふぉっふぉっふぉ。この年で魔王討伐など、天国のばあさんに良い土産話が出来るわい」

「ばあさん、さっき見送りに来てたよね?! まだ死んでないよね!?」


「ねぇねぇ、勇者ぁ」

「おい! おっさん! 寄るな! 暑苦しい!」

「もぉう。勇者ったらいけずぅ。アタシを勇者パーティの一員に選んだってことは、アタシに惚れたってことでしょお?」

「断じて違う!」

「やだ、もぅ、照れちゃってぇ、かわいいわぁ」

「違うって言ってんだろ! 聖魔法を全て使える上に、壁役が務まる回復役なんて、多少難ありでもパーティに入れるしかないだろうがっ!」


「わんわん!」

「え? なになに? 人ですらない自分が何で勇者パーティに入ったかって?」

「わん!」

「仕方ないだろ! お前が一番攻撃力が高かったんだから!」



馬車の上でギャーギャー騒ぐ3人と1匹の様子を見て、不安になる民衆。


しかし、そんな不安を他所に、超実力主義の勇者パーティは、歴代ぶっちぎりの早さで魔王を倒したという。



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