167 ゴブリンのゴブリンによるゴブリンのためのゴブリン


 地鳴りがする。

 どこまでも響く大地の音。

 俺を追いかける音。

 そう、ゴブリンたちの足音だ。


「どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁはははははは!」


 走る走る。

 もう笑うしかない。

 俺を追いかけるゴブリンの数はとっくに万を越えている。

 万を超えた性欲に追いかけられている。

 女としての恐怖をここまで感じたのは初めてだ。

 壊れちゃううどころの問題じゃねぇ。

 白濁の海に溺れる。


「うおおお……もうこうなったらやるしかねぇ」


 飛べばいいじゃんと冷静な部分にツッコまれながら走る。

 もうここまで来たら殺るしかない。

 だからまだ走っている。

 後ろの足音はどんどん増える。

 俺が着地した灰色の小山は他にもたくさんあってそしてみっしりとゴブリンが詰まっていたのだ。

 それらから次々と出てくる。

 おっ勃てゴブリンが出てくる。

 最初は百だったのがあっというまに万になった。もう十万になってるかもしれんね。

 もう地鳴りがすごい。


「よしっ! もういいな」


 あちこちから湧いてくるゴブリンが後ろに集まった。

 いまだ!

 改めて村雨を抜き、真上に飛ぶ。

 さすがにゴブリンに飛翔の術はないようだが、性欲パワーが全てを解決せんと結集する。

 無秩序な山を作って上がって来る。

 映画のゾンビが壁を超えるのに自分たちを踏み台にするアレを生きてるゴブリンがやるのだ。

 土台になった連中はひどいことになってるだろうがそんなことはお構いなし。

 あっという間に先の細い山が出来上がり、俺に手を伸ばそうとする。


 それをのんびりと待っているわけもなし。


「さああせえええるかあああああああ!」


【昇仙・覇気・火霊剣・逢滅祝融】


 村雨を炎気に限定し、さらに練り練りに練った精霊魔法の炎をぶち込み、放つ。

 斬撃というよりはもはや光線のそれは山の先端にいたゴブリンを焼滅させ、おっ勃て山の中心を貫き、爆発した。

 巨大なきのこ雲を背景に俺は飛ぶ。

 スパロボの戦闘シーンみたいなことになってるなぁと思いつつ、火事が広がるのを避けるために周囲に散った炎気を回収する。

 村雨は大技過ぎたのか放心状態になっているのでアイテムボックスに放り込んで休ませる。


「ああ、もったいねぇ」


 こんだけ爆発させてると【無尽歩兵】にはできないな。

 まぁでもとりあえず回収するべく動く。


「スライムの餌にはできるか」


 スライムも増産しないといけなかったし、なにごとも無駄にはならんよ。うんうん。

 爆発の半径が広かったし、ゴブリンの死体もけっこう散らばったので回収にはそこそこ時間がかかった。

 そして、その時間で向こうに動かれてしまった。

 近づいてくるのはわかっていた。


「ああ、もう仕方ないか」


 どうせなら見てやろうと回収はちょっと前に終わったけれど待っていた。

【鑑定】が使えないので最短の情報収集ができない。

 できないなら体験するしかない。

 やがて、それが姿を現す。


「おっ、お洒落やん」


 空を滑るようにして現れたのはエイの群れだった。

 そう、海を泳ぐエイだ。

 あれが空を泳いでやって来る。

 上には誰かを乗せている。


「######!」


 上空から拡声器みたいなものを使って俺に叫んでいる。

 警告だろうが何を言っているのかわからない。


「日本語を喋れ日本語を」


 やはり【鑑定】も利かないし、白魔法で世界記憶から言語情報を引っ張るということもできない。

 どうしたものかと思っていると、拡声器でなにかを叫んでいた一人がエイからなにかを落としてきた。

 危険なものという雰囲気もなかったのでキャッチする。

 見た感じワイヤレスイヤホンの片方だ。

 着けろと?

 少し悩んだが耳に着けてみる。


「君は流れ人か?」


 声が聞こえて来た。

 わかる言葉だ。


「流れ人ってなんだ?」

「この世界の外から来たということだ」

「なら、そうだな」


 俺の言葉もちゃんと相手に通じるようにできるらしい。

 便利アイテムだなぁと思いつつ、受け答えする。


「それで、この辺りの爆発はなんだ?」

「……自己防衛の結果だな」


 誤魔化そうかと思ったが面倒になったのでやめた。


「我々に敵対の意思はない。攻撃をしないのでそちらも攻撃しないでもらいたい」

「了解した」


 俺がそう返すとエイの群れが旋回しながら降りて来た。


「わーお」


 エイから降りて来た連中を見て、思わず声が漏れた。

 緑色の肌。エルフとはまた違う形の先のとがった耳。

 ゴブリンだ。

 さっきまでいた汚いゴブリンとは違う。

 俺と同じぐらいの身長で肌も荒れていない。顔立ちも整っている。

 額のアレがなくて髪が生えていることを除けば、ナメッ●星人みたいだ。


「ゴブリン?」

「違う」


 不快そうな顔で男は否定した。


「我々はハイゴブリン。この地の管理人だ」

「へぇ」

「君はもしかして……女性か?」

「おお、そうだ」


 俺の標高の低い双丘に珍しく視線が集まっている。

 答えついでに胸を張ると……ハイゴブリンの全員が目を反らした。

 思春期みたいな反応だな。

 Lとか連れてきたらどうなるんだろう?


「失礼した。女性にこの地は危険だ。我々の都市に招待したいのだが」

「わかった。よろしく頼む」

「では、乗るかね?」

「いや、自前で飛ぶよ」

「そうか……」


 ちょっと残念そうに聞こえたのは気のせいか?


「ちなみに聞くが、この世界はあんたらが幅を利かせているのか?」

「ハバヲキカセル? その言葉はよくわからないが、質問の意味は分かる。この世界の人類は我らハイゴブリンのみだ」

「へぇ、なるほどね」

「そういうことを聞かれるのは初めてではないからな」

「……なるほどね」


 それから目的地に着くまでにいくつかの質問をした。


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