166 ドリィドリドリ


 竹葉さんの連絡で指定された病院に行くと、そこには確かに先日見つけたスペクターの遺体があった。

 やせ細った中東系の男だ。

 死因は生来の病気由来のものだった。

 もともと先天性の内臓疾患があり、いつ死んでもおかしくない状態だったようだ。

 そんな状態で異世界に行ってしまえば、自分の不利な面に絶望して他人を操ろうなんて考えるようになる……か?

 あっちの国の大使館勤めの人間だそうで竹葉さんでも長く引き止められないというのでさっさと撤退する。

 まっ、肉体が死んだからって本人が死んだとは思わないけどね。

 俺っていう前例もあるし。

 ただ、竹葉さんはこの結果に満足したそうで、契約の満了を宣言した。

 死体に【鑑定】かけたらちゃんと名前も出るしね。

 普通なら死んだと思う。

 俺としては雇い主がそれで満足したのなら問題なし。アフターサービスでもうちょっとの期間、こっそりガードを置いておくぐらいだな。

 ともあれこれで、使用済みの青水晶を集めてもらえることになった。

 やったぜ。


「これで一体何をするつもりなんだい?」

「いいものだよ」


 受け取り用の契約書を交わしながらの質問を適当にはぐらかす。


「だけど、完成したら絶対に欲しがると思うぜ」

「楽しみにさせてもらいますよ」


 そんなわけで契約完了。

 俺が引き取りに回ればすぐにでも集まるんだが、急ぐ必要もないので向こうに輸送してもらう。国内は陸路で順次だが、国外は海路で一年ぐらいかかる予定だ。

 受け取り地はタワマンのある地元にした。

 あそこなら受け入れの港も貯蓄しておく態の土地もエロ爺のコネですぐに用意できた。

 出番ができてエロ爺は喜んでいた。


「さて、準備はいいかな」


 相変わらず世間は騒がしいが俺には関係なし、国内のダンジョン関係は霧と亮平に、それ以外の経営は杜川っちに、青水晶の再利用計画用の工場の準備は藤堂さんに投げて、俺は晴れてフリー。

 そして俺は、ここにやって来る。

 水竜王の寝殿の奥の奥。

 冒涜的存在なんて名前はかわいそうなので、とりあえずドリィちゃんという名前にしておく。いま考えた。


「さあ、ドリィちゃん、世界に穴を開けるのだ」

「っ!」


 空間そのものを揺さぶるような音をさせてドリィちゃんの触手が蠢き、形而上的なドリルが世界に穴を開ける。

 水竜王の寝殿のオリジナルが存在する世界。

 あるいは、このダンジョンを創造し、送り込んできたナニかがいる世界。

 そこに繋がったのだ。


「よしよし、ご苦労ご苦労」


 ご褒美代わりに人工精霊を追加しておく。

 後、転移用のポータルも渡しておく。


「じゃ、行ってくる」

「っ!」


 ドリィに見送られ、俺は世界の壁を越えた。


「おっと……」


 いきなりの落下。

 そこは空だった。

 落ちる落ちる。

 下を確認すると地面があった。

 緑に埋もれた大地。

 視線を移動させてもそこら中にあるのは緑だらけ。

 おや? 文明が見当たらないな?

 まぁいいかと、魔法で落下速度を制御し、ゆっくりと着地する。

 足元の緑を抜けたところで灰色の塊が見えた。


「お?」


 そこに着地する。

 石……ではなさそうだ?

 コンクリ? っぽいけれど形が不自然だ。

 灰色の塊……というか小山か? 蔓系植物がびっしりと茂って表面を覆っている。


「ううん……」


 軽く指でこんこんすると、なにやら反響がある。

 中は空洞か?

 まっ、悩むぐらいなら【鑑定】の出番……という感じで使おうとして、「おおっ」と声が出た。


『××××』

 この情報は#####によって秘匿されています。

 開示にはパスワードが必要です。

 パスワードを入力しますか?


「なんてこった」


 どこを見ても同じ結果が出てくる。

【鑑定】を封印されてしまった。


「なんだよこんなことができるのかよ」


 一部の情報だけでなく全部できるのか。

 いや、一部が隠せるなら全部を隠す方法があると考えるべきだったか。


「うむ、うっかりさんだったな」


 いきなり目を潰されたような気分だ。


「まっ、鑑定が使えないなら普通にな」


 精霊魔法で反響探査をしてみる。


「おお? なんか中にいっぱいいる感じか? っと……」


 いきなり小山が揺れた。

 どうやら中にいたのは生き物だったみたいだ。

 ていうことは巣だったのか。

 反響探査の音に反応して騒ぎ始めた。


「ぎゃぎっ!」


 そんな声が割と近くでした。

 ぱっと見は蔓に邪魔されてわからなかったが小山のあちこちには穴が開いていたようで、そこから住人が飛び出してきた。


「ぎ?」

「うへぇ……」


 その姿に俺はげっと思った。

 緑の肌の小人。

 ゴブリンだ。


「うーん、ファンタジーの定番」

「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


 ゴブリンが叫ぶ。

 すると次から次にそこら中にあった穴からゴブリンが出てきて、あっというまに視界がきたねぇ緑に覆われてしまった。


「うぜぇ……が、片づけるしかないか」


 村雨を引っ張り出したところで、俺はゴブリンたちの次の変化を目の当たりにした。

 そう……ゴブリンたちは真っ裸である。

 そしてゴブリンと言えば?


「おいおい」


 そう。

 女に対してのアレである。

 一斉にアレをアレして来やがった。

 ぱっと見だけでも百は軽く超えるゴブリンどもがである。

 いやぁ、その嫌悪感たるや……想像以上だ。


「ちょっと仕切り直し」


 とりあえず退避。

 もちろん追ってきたわけで、そしてその結果がどうなったか……俺は後悔することになる。




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