168 ゴブリン的社会に必須な物


 ハイゴブリン。

 なにがハイなのかというと人間並みに立派な体格をしていたり、肌がきれいだったり、知性が高かったりすることだろう。

 一億総おっ勃てで女を追いかけまわすゴブリンが地上の支配者になれるわけがない。

 理性があるということだな。

 うん。


 空飛ぶエイ……フラレイに運ばれていったのは、空に浮く都市だった。


「ほう、天空都市とはおしゃれだね」

「地上は全てモンスターの養殖場となっていますから」

「……うわーお」


 いま、すごい話を聞いた。


「我々はお仕えする至上の御方の命によりこの仕事についております」

「モンスターの養殖なんてなんのために?」

「それより先は御方のなされること。我々の知るところではありません」

「そうかい」

「では、都市に入りますよ」


 竜の巣がないので定番ネタもやりにくい。

 都市の縁にある発着場らしき場所にフラレイが向かっていく。


「少し失礼します」

「は?」

「ここで少し待っていてください!」


 発着場について待機ロビーみたいなところに着くと、ハイゴブリンたちは駆け足でどこかに行ってしまった。

 WC?

 緊急出動だったから我慢してたのか?


「え?」

「うわっ!」

「なんで?」

「もしかして……女?」

「うんん?」


 ロビーにいた他のハイゴブリンたちがざわめいている。

 ていうか、最後の質問みたいなのなんだよ。


「ええと……女だけど?」

「っ!」

「なん……だと……」

「そんな……」

「うわわ……」


 そんな風にざわめき、俺を遠巻きにする。

 いや……。


「うわわわわ!」


 驚き固まっていたハイゴブリンたちが一斉に一ヶ所に向かって走っていく。

 WC?

 膀胱が爆発寸前みたいな動きの連中があっというまに行列を作っている。


「うーん?」


 どういう反応?

 て、いうか、俺が流れ人とやらではなく、女であることに反応している?


「ええ……それってつまり?」


 そういや、ここにいるのってどう見ても男だけだよな?


「うおお……つまりあれか?」


 ゴブリンはやっぱりゴブリンってことか?

 いまだに貞操の危機は続いているってことか?

 だけど、なんでWCに行く?

 いや、WCで処理するのは……話では聞くけど実際にやったことはないからわからんなぁ。俺、自分の部屋があったし。


「お待たせした」


 最初のハイゴブリンたちが戻って来た。


「これ、どういう状態?」

「すぐに移動しましょう」


 促されて移動する。

 速足の彼らに囲まれて移動するのだが、俺の存在に気付いた他のハイゴブリンたちが次々に硬直し、そしてWCらしき場所に向かっていく。

 いや、襲いかかって来ないのは偉いけど、なんでみんなしてWC?


「あそこ、なにがあんの?」

「トイレですよ」


いや、そりゃそうだろうけども。

 うーん、気になる。

 その後、ホテルの個室のような場所に連れて行かれるとまたハイゴブリンたちは去っていった。


「あなたのことについてはまた後日。戻る方法はありますので安心してください!」


 そう言って、また急ぎ足で去っていく。


「性欲を持て余す」


 彼らの背に思わずそんな言葉を投げかけたくなる。


「さて……」


 まぁ、それはともかくとして……。

 自力でやって来た初めての異世界だ。

 ダンジョンに関係している世界だろうとは予想していたが、まさかモンスターの養殖なんて単語が出てくるとは思わなかった。


「師匠たちがコピーの件で認めてたがここもそうなのか?」


 そこら辺はわからないな。

 とりあえず、考えるのはこの世界だ。


「モンスターの養殖場。ハイゴブリンは管理人。その上がいるのはわかる」


 ……っで、どうやらハイゴブリンは男しかいない。

 だが、男しかいない世界でも女の存在はわかっているようで、俺という女にどうやら過剰反応している。

 ゴブリンみたいに過剰反応しておっ勃て大行進はしないが、WCへとすぐに駆けこむ。


「あっ、そうそう」


 WCを確認しなければ。

 招き入れられたこの部屋は俺の知っているホテルと似たような感じだ。

 テレビはないが、ベッドと簡単な書机。それとお茶のセットと湯沸かし器らしきものもある。

 で、クローゼットとユニットバス。


「うん、ここも普通だ……と」


 風呂もトイレの形も一緒だ。

 だが、洗面台の所に置かれた物に俺の目が止まった。


「アメニティのセットか?」


 使い捨てらしき洗剤とか歯ブラシとかが一緒に入った籠の中に、なにやら目を引く大きなものがある。

 片手でつかめるぐらいの棒状のなにか。

 包装されたままで持っても、それがグニグニした触感であることは伝わって来る。


「…………うーん」


 袋のまましばらくグニグニしていて、あっと気付いた。


「TENG●やん?」


 うん、これは間違いない。

 ●ENGAだね。

 それ以外の一人遊び補助玩具の名称でもいいんだけど。なにしろドラッグストアとかに当たり前に置かれているこいつの存在感は一級品だ。

 息子が付いている内に使ってみたかったものである。


「そっかぁ。歯ブラシと同レベルで付いて来るんだ」


 すごいなハイゴブリン。

 なんだかすごく感心した。

 地球より先を進んでる気がした。




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